20.安全運転義務違反 - 壊れゆく共感覚
はい、クリエイターズハウスご到着。
隣の公園から桜の花弁が舞い込んで、でどこもかしこも薄紅色ねー。さっきも言ったけど新緑の植木と桜の花弁のコントラストは最高ね。
敷地の植木、すごく綺麗に手入れされてるでしょ。業者じゃなくて管理人さんたちがやってくれているのよ。びっくりよね。植木の手入れも、力仕事も、水道やトイレの修理までこなすスーパー管理人さんたち。どうやって集めたのか謎だわ。
じゃあ、建物の中で休憩しましょ。鍵開けるね。
はい、どうぞ。おあがりください。
ソファに座って休んで。こうも暖かいとふらふら歩くだけでけっこう喉渇くね。
飲み物欲しいよね。あ、コーラがある。飲む? 私のじゃなくて漫画家さんの私物だけど。後でそっと足しておくから。
もしくはお茶を淹れましょうか。私の独断と偏見で緑茶にするね。コーラも緑茶も苦手だったらミネラルウォーターをどうぞ。
急須はないんだ。ティーポットで淹れる。必殺和洋折衷剣。
ティーポット、ね。
私、一時期、自力でお茶を淹れられなくなったことがあっ'たの。
お茶に限らず、気を抜くと物の使い方や意味が分からなくなってしまって。
もちろん共感覚に関係ある話よ。聞いてくれる?
どこから話そうかしらね。
大学に入ってからは、医学研究者になりたくて勉強を頑張っていたの。
理由? 自分で課題を発見し、解決できる人になりたかったからじゃないかな。それは共感覚に関係ないから置いておこう。動機はひとつじゃないわ。
研究者になるための
その頃はまだアーレンレンズを持っていなかったの。さっきも言ったけど高校レベルまでの英語は得意だった。だから歯を食いしばって頑張れば大学英語の眩しさにもいつか慣れると思って……思い込んで努力したの。
お察しの通りダメだったわ。
オレンジや黄色の激流に耐える毎日。眩しすぎてあたまクラクラ。英語に触れれば触れるほど英語の理解が遅くなった。影響は英語だけにとどまらず、実験の失敗も増えていった。間もなく日常生活すらも難しく感じ始めた。だんだんだんだん「なんだかしんどい」が増えていって。ついには日本語もうまく読めなくなったの。
そして、最後に、交通事故。
青い車が見えないことがあるって話、したじゃない? そう、青い車を見落としてぶつかったの。幸い怪我人はなかったけれど、車が大破してしまったわ。つらいからこの話は端折るね。
で、その時やっと、もうダメだと分かって休学を決めた。
茹でガエル現象そのものよね。知ってる? カエルを熱湯に落とすと驚いて逃げるけれど、冷水に落として徐々に温度を上げると気付かずに死んでしまうって話。ゆるやかな変化には危機感を覚えにくいって寓話よ。
「なんだかしんどい」が一歩間違えれば死ぬカタチになるまで私は脱出を決められなかった。
今思えばとんでもない我慢をしていたわね。論文はiPadの輝度を最低にして文字を黒豆サイズに拡大して読んでいたんだもの。そうじゃないと色がしんどかったの。色がしんどいって変な言葉だけれど他に言いようがないわ。
そんな私を見た教授が「ずいぶん画面暗くしてるのね」と言って、それが後に私を救うのだけれど。
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