18.ぼくには数字が風景に見える - 人と違うと気付いた日
ふいー。良い天気ー。せっかくだから窓開けたまま運転しようか。
シートベルトはした? じゃあ、発進です。
黙ってるのも何だし、お話しながらドライブしよう。
ん? ああ、そうだね。共感覚が他人にはないと気付いた日の話だっけ。
物心ついたときから共感覚はあったけれど……。それが他人と違う感覚だって知ったのは、中学生のときだったかなぁ。
本屋をうろうろしていたらね、自閉症者の手記が平積みされていて。そこの帯にこう書いてあったの。「ぼくには数字に色がついて見えるんだ」。細かい文言は違うかもしれないけれど、だいたいこんな感じ。
いやもう、そりゃあびっくりしたわ。だって数に色があるなんて普通だと思っていたんだもの。変な汗がだーっと出た。「自分はもしかして自閉症なの?」って、不安になった。名前しか知らないその病気がすごく怖かった。
そのあと図書館で自閉症の本をいろいろ読んだけど、自分は自閉症の特徴に当てはまらなかった。その時は共感覚という言葉は見つけられなかった。
自分のこれが何だか分からなかった。少なくとも普通じゃなくて、本になるくらい大変なことだって、それだけ理解した。漠然とした不安だけが残ったわ。
中学生くらいって「普通」が至上の価値じゃない? 高い評価を得るのは「普通」に立脚した個性であり、「異端」ではないじゃない? すごく荒れてる中学校だったから、その文化はすごく強烈だったの。これは知られてはならない。そう思って。
私は自分の極彩色を見て見ぬふりし始めた。
四六時中つきまとう物でも見て見ぬふりってできちゃうものなのね。いつしか本気で忘れていたわ。「共感覚がしんどい」を「頭が痛い」と自然に表現できるほど。
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