第257話 涼羽ちゃんが女の子の制服着てるところ、見たいの♪

「頼む!!この通りだ!!」


「ちょ…ちょっと…」




平日の朝、ちょうど登校時刻の教室。


涼羽がいつものように教室に入った途端、いつものように涼羽大好きな女子達よりも先にクラスの男子達が涼羽を捕まえる。




そして、その涼羽の目の前で土下座して何かを頼み込んでいる。




「そ…そんなこと言われても…困るよ…」




その男子達の頼みを聞いた涼羽は、瞬間湯沸かし器のように一瞬でその可愛らしさ満点の顔を赤らめて、非常に困った様子を見せている。




「涼羽ちゃん、私達からもお願い♪」


「涼羽ちゃんすっごく可愛いから、ぜ~ったい似合うもん♪」


「ね?お願い♪涼羽ちゃん♪」




その男子達の頼みと言うのが女子達にとっても魅力的なものらしく、土下座してまで頼み込んでいる男子達に便乗しながらも、いつものようにべったりと甘える素振りで涼羽にお願いする始末。




「う…うう…」




そんな風にお願いされると断れない涼羽の性格を男子も女子も十分に熟知していることもあって…


涼羽はただただ顔を赤らめて恥ずかしがっている。




「お願い♪涼羽ちゃん」


「!み、美鈴ちゃん…」








「私、涼羽ちゃんが女の子の制服着てるところ、見たいの♪」








涼羽がここまで恥ずかしがって無駄な抵抗をしていた、男子達の頼み。


それは、涼羽に女子の制服を着てほしい、ということ。




カーテンのように自分の顔を覆っていた前髪を開いて、その下に隠されていた童顔な美少女顔を露わにしてから、涼羽の周りにはどんどん人が寄ってくるようになっていた。


クラスのみんなは、その容姿はもちろんのこと…


それに負けないくらい健気で清楚で控え目で恥ずかしがりやという、本当に可愛らしく誰からも好かれる性格に惹かれてしまっていた。




涼羽のそばで涼羽とふれあうだけで本当に癒される感覚になり、気が付けば女子達は常に涼羽に絡んでは、涼羽のことを可愛がるように…


それだけでなく、甘えてくるようにもなった。




当然ながら、普段から男子の制服に身を包んでいる涼羽。


その服装が、美少女が無理して男装しているようなギャップを生んでしまっているのだが…


そのギャップすら、涼羽の可愛らしさを引き立てるものとなってしまっている。




このクラスのみならず、この学校の生徒…


さらには全ての教職員が、涼羽のファンのようなものとなっており…


涼羽本人が知らないうちに、涼羽のファンクラブができてしまっている。




活動内容は、ただシンプルにこの学校のアイドルである涼羽に変な虫が付かないように護ること。


そして、涼羽の可愛らしいエピソードを共有すること。


涼羽が困っていたらすぐに助けてあげること。


この三点のみとなっている。




もっとも、日ごろから人に優しく世話好きな涼羽に助けられるファンの方が多く、それが原因で涼羽のファンは増える一方なのだが。




ちなみに、このファンクラブは涼羽本人が知らないだけで涼羽以外の学校関係者は全員知っており…


普段から涼羽と非常に仲のいい美鈴、志郎、愛理の三人…


加えて涼羽と仲のいい教職員である京一、水蓮、莉音、保健室の主は名誉会員として勝手に登録されていたりする。


涼羽のことを非常に気に入っている科学の教師、数学の教師、体育の教師も涼羽のファンクラブで積極的に活動に加わっており、常に共有される涼羽の可愛いエピソードに頬を緩ませては癒されている。




それほどまでに学校内で愛される存在となってしまった涼羽。


そんな涼羽に、女子の制服を着て女子の恰好をしてほしいという願望が上がってくるのはもはや自明の理。


ちなみに校内で涼羽の女装姿を実際に見たことがあるのは、クラスでは美鈴と一部の男子生徒…


教職員では担任の京一、水蓮、莉音はもちろん、割と多くの教職員が該当する。




かつて、妹の羽月にお願いされて仕方なく女装した涼羽を写真で見たことがある生徒はいるのだが、だからこそ、余計に実際に女装した涼羽を見たい、という願望が膨れ上がってしまっている。




そんなファンクラブの総意がもはや抑え込めないほどになってしまい、女装した涼羽を見たい、という声がついに名誉会員である美鈴にまで届いてしまった。


美鈴としては、可愛い涼羽を見ることができるならということでむしろ乗り気になっており…


今こうして、涼羽にお願いと言う名の脅迫をすることと、なっている。




「涼羽ちゃんお願い!あたしも可愛い涼羽ちゃん見たいの!」


「涼羽ちゃんがもっと可愛くなるところ、私も見たい!」




もはや日課として、毎朝涼羽の髪型チェックに来ている水蓮と莉音までもが涼羽に女子の制服を着ることをおねだりしてくる始末。


莉音は一度、水蓮は二度涼羽の女装を見たことがあるため、次に涼羽が女装するのを今か今かと待ち望んでいたのだ。


水蓮は涼羽を自宅に招いた時に、恥ずかしがる涼羽を無理やり女装させたこともあり、いざとなったら無理やり女装させるという選択肢もある。


もっとも、それをしてしまうと涼羽に嫌われてしまう、という…


水蓮にとってはこの世の終わりが来てしまうのと同じくらい絶望的なリスクを抱えることとなってしまうため、めったにそんなことはできないのだが。




本来ならば生徒達の涼羽に対するおねだりを諫める立場にある莉音と水蓮まで、同じように涼羽に女装をおねだりすることになってしまっていては…


まさに涼羽は四面楚歌の状態と言える。




「い…嫌です…は…恥ずかしい…」




それでも、自分以外の学校関係者全てが涼羽の女装を望んでいたとしても…


涼羽自身はそのお願いに儚い抵抗を続ける。


もう耳どころか顔全体を羞恥と言う名の朱色に染めてしまっていても、涼羽自身からその儚い抵抗をやめることはしない。


しないったら、しないのだ。




「涼羽ちゃん♪お願い♪また私の制服貸してあげるから♪」




ここまで追い込まれていながらまだ無駄な抵抗を続ける涼羽を見て、にまにまと頬を緩ませながら美鈴がべったりと甘えるように涼羽にくっついてくる。


そして、ほぼゼロと言える距離で、涼羽の左の耳に息を吹きかけるようにおねだりの言葉を音にして響かせる。




「!!や…やだ…」




耳元から来る美鈴のおねだりに、涼羽の身体がびくりと震えてしまう。


消えてしまいそうなほどの恥ずかしさに襲われ、びくびくと怯えながらも…


涼羽は未だ抵抗の意を表し続ける。




「え~…涼羽ちゃんのいけず~」


「だ、だって…」


「みんな大好きな涼羽ちゃんの可愛いところ、い~っぱい見たいからお願いしてるのに?」


「で、でも…俺、男なのに…」




あくまで自分は男、という意識が強い涼羽。


それがゆえに、美鈴のお願いにどうしても首を縦に振ることができない。


もとい、振りたくない。




そんな涼羽も可愛くてたまらない美鈴。


だからこそ、涼羽に自分と同じ制服を着て、お揃いになってほしい。




ゆえに美鈴は、これを出せば絶対に涼羽は自分のお願いを聞くしかない…


それが確信できる、切り札と言うべきカードを、ここで切ることにした。




「えへへ…ねえ、涼羽ちゃん?」


「?…な、なに?…」




急に声のトーンを下げて、自分だけにしか聞こえないようにしてきた美鈴の声。


美鈴のそんな行為に、涼羽はますます警戒心を高める。


高めたところで、どうにもならないことに気づくはずもなく。


ただただ、びくびくとしながら、美鈴の次の言葉を待っている。




「涼羽ちゃんが~、私のお願い聞いてくれないと~」


「く、くれないと?」








「私、SUZUHAちゃんがほんとは誰なのかって、ぽろっとしゃべっちゃいそう」








耳元で囁かれている涼羽ですら、ぼそぼそとしか聞こえないほどに下げられたボリューム。


しかし、その言葉が何を意味するものなのか…


それを理解してしまった涼羽の反応は、非常に分かりやすいものとなる。




「!!!!!!!!~~~~~~~~~~~っ……」




瞬間、パニックを起こして叫び声が漏れ出してしまいそうになり…


しかし、それをどうにか抑え込んだまではいいものの…


困り果てて今にも泣きだしそうな表情にまで、なってしまう。




「そ、それだけは、それだけはだめ!…」




周囲に聞こえないように小声にしているものの…


その困惑と焦りが手に取るように分かる涼羽の声、そして表情。


そんな涼羽がまた可愛くてたまらない美鈴。




「ね?だから、私とみんなのお願い、聞いて?」




見る者の目を確実に惹いてしまえるだろうほどの、まばゆいばかりの笑顔を上目遣いで向けて…


あざといと言えてしまうほどの可愛らしさでお願いという名の脅迫。




この時点で、涼羽の敗北は決定してしまったも同然。




涼羽としては、墓の下まで持っていきたいその秘密を持ち出されてしまっては…


もはやどうすることもできなくなってしまう。








「う…うう…こ、今回だけ…だからね…」








恨みがましさ満開の目を美鈴に向けながら、事実上の降伏宣言を言葉にする涼羽。


そんな顔も、美鈴から見ればもっといじめたくなるほどに可愛いのはもはや当然。




「えへへ~♪ありがとう♪涼羽ちゃん♪」


「う…うう…」




自分含むファン達のお願いを聞いてくれた涼羽に、嬉しそうにべったりと抱き着いてその華奢な身体をぎゅっと抱きしめる美鈴。




「やった!!さすが柊さん!!」


「うわ~!!女の子の恰好の涼羽ちゃんが見れる~!!」


「どうしよう…涼羽ちゃんが今より可愛くなんてなったら…」


「私達、もう涼羽ちゃんのことめっちゃくちゃに可愛がっちゃう未来しか見えないよ~」


「俺達も、ただでさえ可愛い高宮が女子の制服なんて着たら…」


「もう告白しない自信なんてないな…」


「ただでさえ、理想の彼女、理想の姉、理想の嫁の三冠王だもんな」


「マジで高宮、ヤバすぎる…」




涼羽からの承諾の言葉を引き出してくれた美鈴に、周囲はまさにスタンディングオベーションで拍手喝采の状態。


加えて、これから女子生徒の装いになる涼羽を思い浮かべて、誰もがふにゃりとその顔をだらしなく緩めてしまっている。




女子は女装した涼羽がさらに可愛くなって、もうめっちゃくちゃに可愛がる確信しかなく、今からわくわくとドキドキが止まらない状態。


男子は男子で、涼羽が自分達と同じ制服に身を包んでいるがゆえに、男子学生だという認識を保てているのだが…


それが女子生徒の装いになってしまったら、もう歯止めが利かなくなる確信しかない状態。




校内全体で行われている各美少女ランキングで、男子である涼羽が彼女、姉、嫁の三部門でトップとなっていること自体、異常なのだから。


自分達と同性であるというその一点。


それを除けば、涼羽は誰から見ても理想の女子となってしまっているのだ。




「えへへ♪じゃ涼羽ちゃん、今から私とお着換えに行こう?ね?」


「う…うん…」




非常に嬉々として、幸せいっぱいの笑顔となっている美鈴。


その美鈴とは対照的に、ドナドナの子牛のような悲壮感を漂わせている涼羽。




非常に対照的な二人が足並みを揃えて、美鈴の予備の制服が置いてある女子更衣室へと歩を進めていく。


そんな二人を見送りながら、水蓮、莉音、クラスのみんなは女装した涼羽を早く見たいという思いで非常にそわそわした様子を隠せなくなってしまっているので、あった。

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