第237話 番外編_ひな祭り

「お父さん、用意できたよ」




少し前までの、身体が外に出ることを一切拒否してしまうかのような厳しい寒さがなりを潜め、暖かな気温になってきたその日の午前。


それでも、寒さへの耐性が非常に弱いゆえに、未だに厚手のトレーナーとゆったりサイズのジーンズに身を包み、その上にいつものエプロンをしている涼羽が、この日は休日の土曜日となるため、リビングでのんびりとしていた父、翔羽に、にこにことした笑顔をその可愛らしい美少女顔に浮かべながら、声をかける。




その手には、涼羽自らが作り上げた、明るい桜色、黄色、緑色、白色と、色とりどりの丸い粒のようなお菓子の入った皿がいくつかと、少し濁った感じの真っ白な液体が目一杯に詰められたビンを乗せたトレイがあった。




「おお!さすが涼羽の作ったのはいつ見ても美味しそうだな~」




そんな、自分にとっては最愛の息子となる涼羽の手作りのそれを見て、翔羽はデレデレと頬を緩めながら受け答えをする。


もう十八歳になる、卒業間近の高校三年生の男子となる涼羽だが、この翔羽にとってはいつまで経っても幼い盛りの子供と変わらない認識のようで、常にこんな感じで、デレデレとだらしない顔をしながら涼羽のことを目一杯に可愛がってしまっている。


加えて、その容姿が今は亡き最愛の妻である水月に瓜二つと言っても過言ではないくらいにそっくりとあっては、余計に涼羽に対しての愛情は、天井知らずになってしまうのだろう。




妹、羽月に切ることを激しく拒否されているため、伸びに伸びて腰の当たりまで真っ直ぐに垂れ下がってしまっているその長く、艶のいい黒髪は、料理をしていたこともあって頭の上あたりで、羽月の手で、羽月のチョイスで持ってこられた藍色のリボンで一つに束ねられている。




妹の手でされたそのポニーテール姿も非常に可愛らしく、それもまた、翔羽の顔をデレデレとさせる要因の一つとなっている。




「ううん、おばあちゃんが教えてくれたからだよ。おばあちゃんが教えてくれなかったら、こんなにも上手く作れてなかったと思うから」


「何を言っているのよ、涼羽ちゃん。涼羽ちゃんは本当にお料理上手なんだから」


「うん!りょうおねえちゃんのつくってくれるおりょうり、ぜ~んぶおいしいの!」




照れくさそうに、謙遜の言葉を父に返す涼羽の後ろから、老いてはいるものの、整っていることが分かる造詣の顔立ちをした、初老の女性と、四つくらいの可愛らしい女の子が姿を現す。


涼羽の高校の音楽担当の教師で、涼羽のことを非常に可愛がっている四之宮 水蓮の母である永蓮と、その娘である香奈の二人である。


この日は、この高宮家に永蓮と香奈が訪れているのだ。




永蓮も香奈も、大好きで大好きでたまらない涼羽の自宅にお邪魔することができて、非常に嬉しそうで幸せそうな顔を絶やすことなく、ずっと涼羽のそばでにこにことしている。




そして、この日の高宮家の訪問者は、この二人だけではなかった。




「おお~…いつ見ても涼羽君の作るものは本当に美味しそうですね」


「えへへ~!りょうおねえたんのちゅくるおかち、おいちしょ~!」




リビングで、翔羽と同じように寛いでいたのは、翔羽の部下である佐々木 修介と、その娘である香澄の二人。


その可愛らしさに満ち溢れている涼羽の姿を目の当たりにすることで、非常に幸せそうで、嬉しそうな笑顔を、修介も香澄も浮かべている。




もうこれでもかというくらいに褒められて、また照れくさくなってしまったのか、恥ずかしそうに頬をほんのりと桜色に染めながら、手に持っていたトレイを、リビングのテーブルの上に静かに置く。




「えへへ~♪お兄ちゃん!」




手に持っていたものをおろして、手ぶらになった涼羽にべったりと抱きついてくるのは、涼羽の実の妹である羽月。


その兄、涼羽そっくりの可愛らしい美少女顔に、本当に幸せそうな笑顔を浮かべながら、その胸に顔を埋めて、うんと甘えてくる。




「ふふ…羽月ったら…今日はお客さんも来てるんだよ?」




自分にべったりと甘えてくる羽月を可愛らしく思い、涼羽は妹のその小さな身体を優しくふわりと抱きしめ、その頭を同じように優しく、ふわりと撫ではじめる。




「りょうおねえたん、わたちも~!」


「りょうおねえちゃん、かなも~!」




お客が来ているにも関わらず、いつもと変わらない様子で兄、涼羽にべったりと抱きついて甘えている羽月を見て羨ましくなってしまったのか、香奈と香澄も、我も我もと言わんばかりに涼羽にべったりと抱きついて甘えてくる。




二人共、涼羽のことが大好きで大好きで、実の親よりも懐いている感があり、涼羽とこうして会えた時はこれでもかと言うほどにべったりと抱きついて、甘えてくる。




「ふふ…はいはい。香奈ちゃんも香澄ちゃんも甘えんぼさんだね」




そんな幼い二人が、自分にべったりと甘えてくれるのも可愛くて嬉しいのか、まるで母親がわが子に向けるかのような、母性と慈愛に満ち溢れた優しいにこにこ笑顔を向けながら、香奈と香澄の二人も包み込むかのように抱きしめる。




「えへへ~♪お兄ちゃん、だあ~~~~~い好き~~~~~~♪」


「わ~~~い!りょうおねえたんらあ~~~~いしゅき~~~~~~!」


「わあ~~~い!りょうおねえちゃんだあ~~~~いすき~~~~~~!」




大好きで大好きでたまらなくて、いつだってこんな風に甘えたいと思っている涼羽に、こんなにも優しく、温かく包み込まれるかのようにぎゅうっとされて、羽月も、香奈も、香澄もこの世の幸せが全て来たかのような嬉しそうな笑顔を浮かべて、可愛らしくそのとめどなく溢れてくる大好きを、言葉で伝えてくる。


さらに、その身体でも、もう絶対に離さないと言わんばかりにぐいぐいと、べったりと抱きついてきては、涼羽の身体の抱き心地を余すことなく堪能していく。




「ああ~~…もう、みんな揃ってなんて可愛らしいのかしら~…」




そんな可愛らしさ満点の、それぞれがまるで天使のような四人のやりとりを傍から見ていて、永蓮はその母性をくすぐられっぱなしで、もう今すぐにでもこの四人を思う存分に可愛がってあげたいと思い、すぐにでも抱きしめに行きそうな雰囲気が露になってしまっている。




ちなみに、永蓮の実の娘であり、香奈の実の母親である水蓮は、今日この日、母である永蓮と、娘である香奈が、涼羽の自宅となる高宮家に来ていることを知らない。


なぜなら、この日は水蓮の旦那が、珍しく休みとなるということで、夫婦水入らずで出かけることとなっていたからだ。


そのため、かつての恋人同士だったころを思い出すかのように、普段なら休日は遅ければ昼前まで寝ているはずの水蓮がずいぶんと早起きしてその人並み以上に整った容姿に磨きをかけて、外での待ち合わせを取り付けて先に出る、などという、どこからどう見てもデートだろうと言うことを、旦那としている。




まだ恋人同士だった頃から、物事に対して淡白なところが多かった旦那に対して水蓮の方が積極的であったため、こういったことは水蓮の方が旦那をぐいぐいと引っ張っていく形になるのが、定番となっていた。


ただそんな様子が、周囲から見れば水蓮のような美人な恋人が、一見淡白でパッとしない男にべったりと甘えているかのような、そんなやりとりに見えてしまうのだ。


そのため、人の目を惹く美人である水蓮にそんなにもべったりとされながら、傍から見ればいちゃいちゃとしている旦那の方は、常に周囲の男達の殺意の視線を集めていた。


しかし、そんなところも淡白な旦那は、あからさまに自分に向けられているそんな視線に対してもやはり淡白で我関せずな様子で水蓮とのデートに勤しんでいたため、余計に周囲のそんな殺意を煽ることとなってしまっていたのだが。




ただ、ちょうどこの日は三月三日、つまりひな祭りの日となる。




せっかくの女の子のためにあるかのような日であるため、永蓮は自身がかつて使っていたひな壇に、ひな人形を持ち出して、可愛い孫である香奈のために久しぶりに飾ろうかと思っていたのだ。


そんな話を香奈に持ち出したら、当然のように諸手をあげて喜んでくれたため、そのまま水蓮の家で二人だけでも、と思っていた永蓮。


だが、そこで香奈がぽつりとつぶやいた一言。








――――おばあちゃん。かな、りょうおねえちゃんとおひなさま、おかざりしたいの!――――








その名前が香奈の口から飛び出したことで、永蓮もすっかりその気になってしまった。


以前にお互いに交換していた、涼羽の連絡先にすぐさま電話をかけ、単刀直入にこの日、こんな風にしたいと思っていることを伝えたところ…


意外にも、涼羽の方は二つ返事で了承の意を表してくれたのだ。




涼羽としても、妹である羽月にそういう女の子のイベントを体験してほしいと思っていたこともあり、永蓮の話はまさに渡りに船、と言った感じだったのだ。


そのことを涼羽が永蓮に伝えると、こんなにも可愛くて可愛くてたまらない涼羽に、その涼羽そっくりの可愛らしい妹がいるなんてと、年甲斐もなくおおいにはしゃいでしまい、あれよあれよと言っているうちに、この日の話が進み、どうせなら一戸建てでそれなりに広いスペースのある高宮家で、という話になったのだ。


父、翔羽もこの話に二つ返事でにこやかに了承の意を表してくれたこともあり、とんとん拍子で話が決まっていった。




さらには、どうせなら香澄も呼んでしまおうと翔羽は思い、すぐさま自身の部下である修介のところに連絡を入れたところ、修介も最愛の娘である香澄にそんなイベントを体験させてあげたいとずっと思っていたところであり、これまた二つ返事で肯定の意を、表してくれたのだ。




そんなこんながあって、この日はこの高宮家に三つの家族が揃って、大賑わいでひな祭りをすることとなったのだ。


ひな壇とひな人形は永蓮が当日に車で高宮家まで運んでくることになり、ひなあられと甘酒は涼羽が作るということになった。


永蓮は、涼羽なら何も問題はないと、自身がかつて作っていたレシピを涼羽に伝えておいた。


さすがにひなあられも甘酒も、今回作るのが初めてだった涼羽なのだが、もともと新しいことに取り組むのは好きであり、これまでずっと高宮家の台所を自らの城としていたこともあって、出来栄えは永蓮が太鼓判を押せるほどのものとなっていた。




永蓮が運んできた荷物は、男親である翔羽と修介が手分けして車から運び出し、高宮家のリビングの方へと運んでいった。


料理の方が一区切り着いていた涼羽が、すぐに運ぶのを手伝いに出てきたのだが、それを永蓮が慌てて止めに入り、涼羽のような可愛い子がそんなことしなくてもいい、と、涼羽に力仕事をさせなかった、という出来事があったのは、ご愛嬌。


実際には、この中で最も力があるのは涼羽だったりするのだが、それを知る由もない永蓮に加え、同じようにそれを知らない翔羽も修介も、涼羽にそんなことさせられないと永蓮に同調する形となり、結局涼羽は料理の方に専任することと、なったのだ。




そんな扱いをされてしまった涼羽の方は、なんだか自分が男だということを忘れられていそうな感じがしてしまい、非常に複雑な気分になってしまったのだが。




「四之宮さん、この日はわざわざここまでひな壇やひな人形を運んでくださって、ありがとうございます」


「ありがとうございます。おかげでうちの娘にも、ひな祭りというものを体験させてあげることができます」




自身の孫含む、非常に可愛らしい子供達を見て頬がゆるゆるになっている永蓮に、頭を下げて礼を言う翔羽と修介。


つい最近、単身赴任からこの家に帰ってきた翔羽は、当然のことながら娘である羽月にひな祭りなどというものをさせてあげることができず、非常に歯がゆい思いをしてきただけに、今回の永蓮の申し出は非常にありがたいものとなったのだ。


自分で新規に購入して、親子三人で、ということも考えていたのだが、なかなか実行できないまま日だけが過ぎていってしまい、結局今年もできないのか、と思っていたところだっただけに、その喜びもまたひとしお、となったのだ。




修介の方も、父子家庭ということもあり、決して裕福とは言える状態ではない。


とてもではないがひな壇やひな人形などを新規で購入、などということもできず、いつも不憫な思いをさせている娘、香澄に何か少しでも、と思っていたところに、まさに渡りに船と言える話が、自身が尊敬してやまない上司である翔羽から、飛び込んできたのだ。


そのことを伝えた時の香澄の喜びようは、もう言葉に表しようがないほどに可愛らしく、幸せ一杯な様子であったため、本当によかったと思えたのだ。


香澄の方は、ひな祭りもそうだが、それよりも涼羽と会えることの方を喜んでいたのだが、それはご愛嬌。




「いえいえ、高宮さんと佐々木さんがお手伝いしてくださったおかげで、こんなにもスムースにひな祭りの準備を進めていくことができたんですし…それに、お二人のお子様がもう本当に可愛くて可愛くて…こんなにも可愛い子供達に触れ合えて、うちの孫も本当に喜んでいます。むしろこちらこそ、本当にありがとうございます」




翔羽と修介の二人から感謝の言葉を贈られて、むしろ自分の方が、という思いで、二人に感謝の言葉を返す永蓮。


実際、一人では運ぶのに苦労するひな壇やひな人形やらを、頼もしい男手で軽々と車から運び出しては、このリビングの方へと運んでいってくれた翔羽と修介。


そのおかげで、自分はこんなにも楽をさせてもらえたということ。


そして、翔羽の子供である涼羽と羽月、修介の子供である香澄…


この子供達が本当に優しく温かく、そして可愛らしく、自分の孫娘である香奈のことを受け入れて、こんなにも仲良く触れ合ってくれていることが、何よりも嬉しくてたまらない永蓮。




「涼羽ちゃんの妹ちゃんが、あんなにもそっくりで可愛らしい女の子だったなんて…それに、もううちの香奈が普段からしてるみたいに、あんなにも涼羽ちゃんに甘えてるなんて…もうほんとに、見てるだけで可愛くて幸せな気持ちになれるんです」


「ははは…娘は本当に息子の方にべったりでして…いつもあんな感じで、涼羽のことが大好きで大好きでたまらないんです…しかし、香奈ちゃん本当に可愛らしいですね」


「それに、佐々木さんのところの…香澄ちゃん。うちの香奈と違って、人見知りしない、笑顔よしの本当に可愛らしい娘さんで…」


「ありがとうございます。でも、香奈ちゃんも、本当に可愛らしくていい子ですね」




そして、涼羽に妹がいたこと自体は、娘の水蓮から聞いて知ってはいたのだが、実際に会うのはこれが初めてとなる永蓮。


その涼羽の妹である羽月を見て、本当に兄である涼羽そっくりの可愛らしい女の子だと思ってしまう。


加えて、そんな可愛い女の子が、そっくりで可愛らしい容姿の兄である涼羽にべったりと、幸せそうに甘えている姿がこれまた可愛らしく、もう二人まとめて可愛がってあげたくなってしまっていた。




さらには、自分の孫と同じくらいの年頃となる香澄も、永蓮にとっては本当に可愛らしく、庇護欲をそそられる存在となってしまっている。


香奈と違って人見知りせず、初対面の自分を見てもにっこりと天使のような笑顔を惜しげもなく見せてくれて、さらには香澄から自分の方に寄ってきて、懐いてくれてと、永蓮は瞬く間に香澄にメロメロになってしまっていたのだ。




「ほお~ら、みんな。お婆ちゃんよ~」




先程からみんな仲良く、べったりと寄り添っている子供達が可愛くて可愛くてたまらなくなったのか、四人の子供達に覆いかぶさるかのように、べったりと抱きついてしまう永蓮。


永蓮にとっては、可愛い孫が一気に四人に増えたかのような感覚になってしまい、本当に幸せと言わんばかりの笑顔を浮かべている。




「あ~♪おばあちゃんだ~♪」




実の孫である香奈は、普段から祖母である永蓮とこんな感じで触れ合っており、それをとても心地よく思っているので、すぐに笑顔が浮かんでくる。




「えへへ~♪おばあたん~♪」




人見知りせずの笑顔よしな香澄は、最初に自分のことをおばあちゃんと呼んでと、永蓮に言われたこともあり、素直に永蓮のことをおばあちゃんと呼んでいる。


ただ、まだまだ舌足らずな口調なのだが、それがとても可愛らしくて、永蓮もそんな香澄のことをぎゅうっと抱きしめてしまう。




「ああ…本当にありがたいことです…香澄のことを、あんなにも可愛がってくれる人が今日、ここに来てくれているなんて…」




今は亡き、最愛の妻である香織と同棲する頃には、自身の家族とは疎遠になってしまい、今となっては親戚付き合いもなく、近しい親族は本当に娘の香澄のみという状態である修介。


ゆえに、祖父、祖母といえる存在は香澄にはおらず、母である香織は香澄がこの世に生を受けるその瞬間に、まるで入れ替わりであるがごとくにこの世を去っている。




そんな香澄をまるで実の母であるかのように、それでいて実の兄であるかのように優しく包み込んでくれる涼羽。


その涼羽と同じように、最初はひともんちゃくあったものの、今となっては本当の姉妹のように仲良く触れ合ってくれる羽月。


そこに、同年代の幼子同士で楽しく触れ合ってくれる香奈に、香澄の祖母として触れ合ってくれる永蓮。




自分が不甲斐ないせいで、いつも寂しい思いをさせてしまっている香澄。


その香澄を、こんなにも多くの愛情で包み込んでくれるこの空間。


いつもいつも、この高宮家には自分も香澄も救われていると、思えてしまう。


今この場にいる全ての存在に、修介はただただ、感謝の念を送っている。




「えへへ~♪お婆ちゃ~ん♪」




そして、人見知りである羽月も、永蓮に会ってすぐにお婆ちゃんと呼んで、と言われ、べったりと抱き寄せられてしまっている。


だが、そのことに羽月は嫌悪感を感じることなどなく、むしろ本当に優しく包み込まれているその感覚が心地よくて、何の抵抗もなくするりと、永蓮のことをお婆ちゃんと呼ぶことができている。




羽月も香澄同様、祖父、祖母と呼べる人間がいない境遇にあるため、祖母というものに密かな憧れはあったようで、実の父である翔羽が驚くほどすんなりと、永蓮のことを本当の祖母のように思うことが出来てしまっている。




特に永蓮は、本当に母性と女性らしさに満ち溢れているため、自分のことを本当に大切に包み込んでくれる永蓮のことは、まるで兄である涼羽と同じような感覚で接することができているのだ。




「ふふ…みんな、お婆ちゃん大好きだね」




そんな風に、嬉しそうに永蓮にべったりと抱きついている羽月、香奈、香澄を見て、涼羽の顔に優しげでふんわりとした笑顔が、浮かんでくる。


自分より年下の子供達が、こんな風に幸せそうにしているのを見るのは、涼羽にとって幸せと言えるものであるため、その母性と慈愛に満ち溢れた笑顔が絶えることはない。




「ああ~もお!涼羽ちゃんったら、いつ見ても本当に可愛いわね~~♪」




そんな笑顔を惜しげもなく披露している涼羽がとても可愛らしく思えてしまい、涼羽と出会ってからのこれまででずっとそうしているように、優しくそっと包み込むかのように涼羽のことを抱きしめる永蓮。


これで十八歳の青年と呼べる年齢の男子なのだから、神様は本当に罪なことをしてくれたと思うし、同時になんと素晴らしい贈り物をしてくれたのだろうと、永蓮は思ってしまうのだった。




「わ!……お、お婆ちゃん…僕、そんな小さな子供じゃ……」




もう高校も卒業することもあり、大人としての自覚は他の同年代よりも強い涼羽。


それゆえに、こんな風に小さな子供のように可愛がられることに、以前よりも抵抗感が強くなっている節すらある。




「何を言ってるの!こんなに可愛いのに!いいから大人しく、お婆ちゃんに可愛がられてなさい!」




しかし、いくら年齢がそうだと言っても、その容姿そのものはとてもその年齢にマッチしているとは言えず、相も変わらず幼げで、中学生くらいの童顔な美少女にしか見えないのだから。


そんな涼羽のことが可愛くて可愛くてたまらず、こうして思う存分に可愛がってしまうのは、母性と女性らしさに満ち溢れた永蓮としては仕方のないことだと、言えるのだろう。




「あ~♪お兄ちゃん照れてる~♪可愛い~♪」


「えへへ~、かな、てれてるりょうおねえちゃんのおかお、すっごくすき~♪」


「りょうおねえたん、しゅ~ごくかわいいの~♪」




永蓮に可愛がられて、てれてれと恥ずかしがっている涼羽が本当に可愛いのか、羽月も香奈も香澄も涼羽にべったりと抱きついて、その可愛らしさを堪能するかのように甘えてくる。


もちろん、そんな三人のことも、永蓮はその頬を緩めたまま、涼羽もろとも抱きしめて、思う存分に可愛がってしまうのだ。




「さあみんな。そろそろお婆ちゃんとみんなで、一緒にお人形のお飾り、していきましょうね~」


「は~い!」


「は~い!」


「は~い!」


「は、はい…」




すでに壇は用意されてはいるが、人形は一つも飾られていない状態。


それを、みんなでお飾りしていこうと、永蓮が可愛いの化身と言える四人に声をかける。


羽月、香奈、香澄の三人は、本当に天使のような笑顔を浮かべながら、素直で元気のいい返事を。


涼羽は、恥じらいがそのまま顔と声にまで出ている、気弱で儚げな感じの返事を返す。




「あ~…子供達みんな、本当に可愛いな~」


「はい…みんなとても可愛らしくて、見てるだけで幸せになってしまいます…」




子供達と永蓮の、本当に幸せそうで仲良しなやりとりを見ているだけで、翔羽と修介はデレデレとした、しまりのない顔になってしまう。


永蓮の指示の元に、非常に楽しそうに人形の飾りつけをしていく羽月、香奈、香澄は本当に可愛らしく、誰もがその庇護欲を刺激されるものとなっている。


羽月と香澄は、これが初めてのひな祭りということもあり、その女の子のイベントを非常に楽しそうにしながら、取り組んでいる。


香奈はひな祭り自体は初めてではないものの、こうして自分と仲良くしてくれる女の子と一緒にするのは初めてで、羽月も香澄も人見知りな香奈がすぐに仲良くなれたこともあり、本当に楽しそうに人形の飾りつけに取り組んでいる。


涼羽は自身が男だということもあり、自分がこれをしてもいいのか、という思いがあるのだが、永蓮の『涼羽ちゃんはいいの!むしろ一緒にしなさい!』という一言に、大人しく従うこととなっている。




もっとも、涼羽はこういう取り組みをしたとしてもまるで違和感のない容姿をしていることもあり、傍から見れば可愛い女の子達がとても楽しそうにひな祭りの準備をしているようにしか見えないのだが。




非常に仲良く、楽しそうにしながらも、非常にテキパキと飾りつけをこなしていく永蓮と子供達。


気がつけば、そう時間も経たないうちに、綺麗にひな壇に人形が飾りつけられることとなった。




「わ~い!できた~!」


「わ~、しゅご~い!」


「えへへ~、可愛い~♪」




その出来栄えに、羽月、香奈、香澄の三人は喜びを隠せない様子で、非常に可愛らしい笑顔をそれぞれ浮かべている。


そんな三人を見て、涼羽は本当に母性と慈愛に満ち溢れた、優しい笑顔を浮かべている。




そして、そんな四人を見つめる大人達の顔に、非常に優しげな笑顔が浮かんでいるのは、もはや言うまでもないことだろう。




比較的、閑静な住宅街であるため、本当に静かでゆったりとした休日の土曜日。


その休日に、こんなにも子供達が喜んでくれているのを見るのは、本当に幸せで、活力をもらえると言えるもの。




子供達が飾りつけをしたひな壇を眺めながら、全員で涼羽の手作りとなるひなあられと甘酒を口にしていく。


その出来栄えと美味しさに、全員が舌鼓を打ちながら、子供達は非常に仲良く遊び、涼羽もそれに半ば無理やり便乗させられたり、と、非常に賑やかで、ほのぼのとした休日を過ごすこととなるのであった。




そして、高宮家でそんなことがあったことを後日、耳にすることとなった水蓮と、そこからその愚痴と共に聞かされることとなった美鈴が、その日の朝から涼羽の元へと問い詰めにかかり、どう答えていいのか分からず、非常に困った様子の涼羽が可愛くてついついいじめてしまうのは、また別のお話。

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