第148話 涼羽ちゃんは、この家の子なのよ!

「りょうおねえちゃん♪」


「涼羽ちゃん♪」


「うう……」




休日となる土曜日の午前の水神家。


この日、水蓮の母である永蓮に料理を教えてもらう約束で、ここにお邪魔している涼羽。




その涼羽が、水蓮に半ば無理やり女装させられ、完全に美少女になっている状態。


そんな涼羽が可愛すぎて、水蓮と香奈の母娘がめちゃくちゃに涼羽のことを可愛がっている。




香奈はもう、可愛くて優しい涼羽にべったりと抱きついて、うんと甘えている。


水蓮はもう、涼羽が可愛すぎてぎゅうっと抱きしめてしまっている。




いつものごとく、と言った感じの愛されっぷりを発揮している涼羽。


もちろん、愛されキャラの自覚もなければ、愛され耐性もないだけに、ただただ、ひたすら恥じらいに頬を染めっぱなしの状態と、なっている。




「りょうおねえちゃん、す~っごくかわいいの♪かな、りょうおねえちゃん、だあ~いすき♪」




恥らう涼羽が本当に可愛くてたまらないのか、香奈はその幼い顔をゆるゆるにして、涼羽の胸の中からじ~っと涼羽の顔を見つめている。


その上で、涼羽の胸の中にべったりと抱きついて、ひたすらに甘えている。




「か、香奈ちゃん…そんなに見られたら…恥ずかしいよ…」




女装して恥らっている今の自分を見られることで、恥らう気持ちが際限なしに膨れ上がっていく涼羽。


それでも、自分に甘えてくる香奈を優しく抱きしめて、その頭を優しくなでてあげているあたりは、非常に涼羽らしいとも言える。




「もう!ほんとに涼羽ちゃんったら、可愛すぎ!」




恥じらいながらも、しっかりと香奈のことを優しく包み込んで、甘えさせている涼羽が本当に可愛くて可愛くてたまらず、涼羽の背中からぎゅうっと涼羽の身体を抱きしめて、ツインテールにして露になっているそのうなじに顔を埋めて、しっかりとその芳しい匂いまで堪能している水蓮。




もう今すぐにでも、この家の子として迎えそうになってしまっている。


もう今すぐにでも、自分の弟として迎えたくなってしまっている。




「や、やっ……し、しのみ…」


「ねえ?涼羽ちゃん?あたしのこと、なんて呼ぶのか、今日何回も教えてるわよね?」


「!あ、あう……」


「涼羽ちゃんって、お勉強もできて本当にいい子なのに、こういうところはお利口さんじゃないわね~」


「で、でも……」


「でもね…そんな風になかなかできない涼羽ちゃんも本当に可愛いから、お姉ちゃんのあたしがちゃあ~んと、涼羽ちゃんに教えてあげるからね♪」




どうしても、『お姉ちゃん』という呼び方に抵抗があるのか、単純にこういうことに関しては学習能力がないだけなのか、ついついいつもの呼び方で水蓮のことを呼んでしまう涼羽。




そんな涼羽に、ちょっと含みのある言い方で指摘をしてくる水蓮。


そんな水蓮の口調に、涼羽はもうどうすることもできない状態となってしまっている。




だが、学校では成績がよく、非常にできた子である涼羽が、こんな風に手間をかけさせることに言いようのない可愛らしさを覚えてしまっており、そんな涼羽に対してどうやって教え込んであげようかと、傍から見れば素敵な笑顔で思案している状態である。




もう今の水蓮は、どんな涼羽であっても可愛らしく見えてしまっており、とにもかくにも涼羽のことを可愛がって、その可愛らしさを堪能しようとしてしまっている。




「あたしはね、涼羽ちゃんのお姉ちゃんなの」


「そ、それは……」


「だからね、涼羽ちゃんはあたしのことを『水蓮お姉ちゃん』って、呼ばなきゃいけないの」


「ち、ちが…」


「涼羽ちゃん?口答えなんかしたら、お姉ちゃん悲しくて、そんな涼羽ちゃんのお口にちゅっちゅしたくなっちゃうわよ~?」


「!!………」


「はい、もう一回最初から」


「うう……」


「あたしは、涼羽ちゃんのお姉ちゃんなの。だから、涼羽ちゃんはね、あたしのこと、『水蓮お姉ちゃん』って、呼ばなきゃいけないの♪」


「で、でも……」


「涼羽ちゃんはいい子だから、お姉ちゃんが言ってることもちゃあ~んと分かってくれるわよね?」


「!!………」


「じゃあ、涼羽ちゃん。あたしのこと、ちゃあ~んと呼んでね♪」




幼い子供に言い聞かせるように、優しく涼羽に自分の呼び方を教え込もうとする水蓮。


そんな水蓮に、あまりの抵抗感からか、ついつい口答えをしてしまう涼羽。




しかし、そんな涼羽の儚い抵抗すら許さないと言わんばかりに、涼羽に対してのおしおきを口にする水蓮。


実際は、水蓮がしたいだけのことを言っているだけなのだが。




そんな水蓮の欲望にまみれた一言も、涼羽にとっては非常に効果的であり、その一言で、儚い抵抗の言葉を封じられてしまう。




そして、非常に嬉しそうな顔でもう一度、と、またしても涼羽に優しく言い聞かせるように教え込もうとする水蓮。


涼羽とこんなやりとりをするのも、こんなやりとりで返してくる涼羽の反応も何から何までが楽しくて楽しくて仕方のない様子に、なってしまっている。




しかしそれでも、激しい抵抗感からか、またしても儚い抵抗を繰り返してしまう涼羽。


そんな涼羽に、自らの唇をその綺麗な指で触れながら、含みのある言い回しで、その儚い抵抗を黙らせてしまう水蓮。


そして、抵抗の言葉を封じたところで、改めて涼羽に自分の望む呼び方をさせようとする。




「うう……す……」


「ふふ、ほおら」


「す……水蓮……お姉……ちゃん……」


「うふふ、なあに?涼羽ちゃん?」




自身の儚い抵抗に対して、容赦なく迫ってくる水蓮に対抗できなくなり、とうとう、水蓮の望む呼び方を声にして響かせる涼羽。


自身にとって恥ずかしいことを無理やり強要されていることもあり、ひたすらに恥じらい、頬を染めてしまっている。




そんな可愛すぎる涼羽に『お姉ちゃん』と呼ばれたことで、水蓮の整った顔は、これでもかというほどにだらしなく緩んでしまっている。


もちろん、涼羽のことをぎゅうっと抱きしめて、その頬に頬ずりするのも忘れない。




「こ…これで…もう…いいですよね…」


「え~、あたしそんなこと言ったかなあ?」


「!そ、そんな…」


「だって、あたしは涼羽ちゃんのお姉ちゃんなんだから、『お姉ちゃん』って呼ばれるのは当たり前のことよね?」


「ち、違います…そんな…」


「だあめ♪あたしもう決めたから♪涼羽ちゃんは、あたしの可愛い可愛い弟兼妹なんだもの」


「だ、だめです…そんなの…」


「や♪可愛い涼羽ちゃんは、あたしにい~っぱい可愛がられないと、だあめ♪」




とにかく、反抗期な弟のような涼羽が可愛くて、何が何でも自分は涼羽のお姉ちゃんなんだと譲らない水蓮。


そんな水蓮にひたすらに涼羽が可愛がられている最中…


この家に、来客を告げるかのように玄関のドアが開く音が響く。




そして、その来訪者が、開かれた玄関に姿を現す。




「水蓮~、香奈~、来たわよ~」




水蓮の母であり、香奈の祖母である…


そして、この日涼羽に料理を教える講師役となる永蓮の声が、リビングの方でべったりとしている三人の耳に届いてくる。




「あ、母さん。どうぞ入って~」


「おばあちゃん、はいって~」




そんな永蓮の声に、水蓮と香奈が揃って反応する。


二人共、涼羽にべったりとして、ひたすらにだらしない顔をしながら。




「はいはい、入るわね」




リビングから聞こえた娘と孫娘の声に従い、玄関のドアを閉めて、靴を揃えて脱いでから、ゆっくりとリビングに足を進めていく。




「ねえ、もう涼羽ちゃ…」




そして、リビングに入った途端、その目に飛び込んできた光景に、声を失ってしまう。




なぜなら、娘の水蓮が高校生時代に着ていた制服を着て、その長い髪をツインテールにし、どこからどう見ても童顔な美少女中学生にしか見えない涼羽が、水蓮と香奈の二人にべったりと抱きつかれて、ひたすらに恥らっていたからだ。




「へへ~、驚いたでしょ?母さん?」




今の涼羽の姿に声を失っている母、永蓮にしてやったりの顔をしてしまう水蓮。


もともと、涼羽を女装させるということはあくまで水蓮がやりたかったことであり、当然ではあるが永蓮にそんなことを言うはずもない。




つまり、まさに狙ってやったサプライズなのである。




「…え?え?…りょ、涼羽ちゃんなの?この娘…」




してやったりの表情の娘の声に、ようやくと言った感じで反応する永蓮。


もともと自分にとっては可愛くて可愛くてたまらない孫のような存在である涼羽が、びっくりするほどの美少女にされていたのだ。


あれだけ、自分は男だと無駄な強調を繰り返していた涼羽が、まさかそんな格好をするなんて。


そう思ってしまうのも、無理はないとは言える。




「おばあちゃん!りょうおねえちゃん、す~~~~~っごくかわいいの!」




本当に可愛らしい女の子になっている涼羽に、香奈は幸せそうな笑顔を隠せない。


非常にご満悦な様子で、ずっと涼羽の胸の中で甘え続けている。




「もうね~、似合うっていう確信しかなかったんだけどさ、それでも、実際に着てもらったら、驚くほど美少女になっちゃって、びっくりしちゃった」




以前、涼羽の女装姿を見たことのある水蓮だが、それでも、実際に自分のお古を着せてみると、すさまじく可愛らしい女子学生ができてしまったことに、驚きを隠せなかった。


そして、こんな可愛い子とい~っぱい触れ合えるなんて思ったら、もう楽しみしか沸いてこなかったほど。




「うう…お…お婆…ちゃん…」


「!な、なあに?涼羽ちゃん?」


「…み…見ないで…ください…」




呆けた表情の永蓮にじっと見つめられていたことに、またしても恥じらいを覚えてしまっていた涼羽が、またしても周囲を煽るだけの儚い抵抗を見せてしまう。




そんな涼羽を見せられて、水蓮と香奈の二人に負けないくらい涼羽のことが大好きな永蓮が、湧き上がってくる衝動を抑えきれるはずもなく…








「~~~~~~~~涼羽ちゃんったら!なんて可愛いの~~~~~~~!!!!!」








部屋中に響き渡るほどの、幸せと興奮に満ち溢れた声をあげて、ただただ恥らうだけの涼羽のことを包み込むかのようにぎゅうっと抱きしめる。




「!ひゃ、ひゃあっ!…お、お婆ちゃん…」


「もう!女の子になった涼羽ちゃん初めて見たけど、本当に可愛くて、素敵だわ~!」


「そ、そんなことないです…」


「それに!この綺麗な脚!」


「!ひゃあっ!や、やめてください…」


「なんなの、この脚!本物の女の子でも、こんなに綺麗な脚の子なんて、そうそういないわよ!」


「し、知らないです…そんなの…」


「それに、ツインテールもすっごく似合ってるし、いい匂いするし、半分くらい手が隠れちゃってる袖なんか、もうたまんないくらい可愛いわ~!」




よほど今の涼羽が美少女過ぎて、可愛すぎてたまらないのか、ひたすらに『女の子』として涼羽をべた褒めし続ける永蓮。


初めて会ったその日から、涼羽に心を奪われてしまっている永蓮からすれば、今の涼羽はまさに理想の孫娘と言えるほど。




そんな、理想が服着て歩いているような涼羽を目の前にして、テンションが振り切れるほどにマックスになってしまっている。




「ねえ、涼羽ちゃん?」


「は、はい!?…」


「涼羽ちゃんはね、お婆ちゃんの可愛い可愛い孫娘なの!」


「だ、だからそれは…」


「お婆ちゃんの可愛い可愛い涼羽ちゃんは、この家の子なの!」


「!ち、違います…」


「いいえ!違わないわ!涼羽ちゃんはもうね、お婆ちゃんと一緒にいないといけないの!」


「!そ、そんなわけ…」


「お婆ちゃん、ぜ~ったいに涼羽ちゃんのこと、めっちゃくちゃに可愛がって、め~っちゃくちゃに幸せにしてあげる!ううん!してあげないといけないの!」




あの娘にして、この母あり、と言わざるを得ないほどの、永蓮の壊れっぷりがあからさまになってしまっている。


もう永蓮にとって、涼羽は自分だけの可愛い可愛い孫娘という認識しか、なくなってしまっている状態だ。




そんな永蓮を見ている水蓮は、その壊れっぷりにドン引きするどころか、もっともっと、と言わんばかりに母を応援してしまっているのだから、やはり似たもの同士と言えよう。




「だからね、涼羽ちゃんの帰る家はここなの!」


「ち、違います…」


「涼羽ちゃんは、お婆ちゃんの可愛い可愛い孫娘なの!」


「それと、この水蓮お姉ちゃんの可愛い可愛い弟兼妹なの!」


「りょうおねえちゃんは、かなのだあ~~~~いすきなおねえちゃんなの!」


「み、みんなして…」




四之宮の女性陣が揃いも揃って、涼羽のことを家族という認識しか持てなくなっている。


永蓮も、水蓮も、香奈も、みんな揃って涼羽のことを独り占めしたいアピールをしてしまっており、そんな彼女達に、もうどうすることもできない様子の涼羽。




涼羽のことが本当に大好きで大好きでたまらなく、愛してあげたくて愛してあげたくてたまらない。


そんなオーラが、永蓮、水蓮、香奈の三人からこれでもかと言うほどに、溢れかえってしまっている状態だ。




「お婆ちゃん、涼羽ちゃんのこと大好きで大好きでたまらないのよ?」


「お姉ちゃん、涼羽ちゃんが大好きで大好きでたまらないんだからね?」


「かな、りょうおねえちゃんだいだいだいだいだあ~~~~~~いすき!」




そんな溢れかえる気持ちが抑えきれないのか、その想いを余すことなく言葉にして、自分達にべったりとされて恥じらいに頬を染めている涼羽にぶつけてくる。




そして、言葉だけで足りなくなってしまい、香奈が涼羽の胸にべったりと抱きついて、めっちゃくちゃに頬ずりしながら甘えてくる。


そんな香奈もろとも、水蓮と永蓮の二人が涼羽をぎゅうっと抱きしめる。




「涼羽ちゃんはこの家の子なのよ!」


「涼羽ちゃんはあたしんちの子なの!」


「りょうおねえちゃんはかなのおうちのこなんだもん!」




本当に、涼羽に根こそぎ心を奪われてしまっている永蓮、水蓮、香奈の三人。


みんながみんなして、涼羽はこの水神家の子だと言って、はばからない。




「だ、だから違います…」




そんな三人のらぶらぶ攻撃に、こんな儚い抵抗しかできない涼羽。


強烈過ぎるほどの三人の愛情攻撃に、またしても涙目になって恥ずかしがり続けている。




愛されることに対して本当に免疫のない反応しかできない涼羽。


だからこそ、こんな風に恥らって、何もできなくなってしまうのだ。


妹、羽月や父、翔羽が普段から涼羽に言い聞かせているように、涼羽本人に、自分がどれほどに愛されるのか、という自覚がいつまで経っても芽生えない。




今のこの状況を、羽月と翔羽の二人が見ていたなら、心底危機感を覚えて、徹底抗戦の姿勢を取っているであろう姿が、目に浮かぶようだ。




そんな、高宮家にとっては一大事とも言えるこの光景は、途中参加してきた永蓮も含め、水蓮、香奈が木の済むまで続けられることとなり…


最終的には、とうとう拗ねてそっぽを向いてしまう涼羽を、永蓮と水蓮が頬をとろけさせながらなだめる、というところまでいくこととなってしまった。

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