第149話 かな、りょうおねえちゃんとおりょうりしたい!

「わ~…そういうやり方や組み合わせもあるんですね~…」


「ええ、そうなの。こうしたら、もっと味がよくなるのよ」


「すごいです、お婆ちゃん…一つ一つがすごく勉強になります」


「そういう涼羽ちゃんだって、まだ現役の高校生なのに、こんなに手際よくて、しかも基本がしっかりしてるなんて。私からすれば、本当に教え甲斐があるし、今でもどこに出しても恥ずかしくないくらいだもの」




ひたすらに水蓮、香奈、そして永蓮の三人に可愛がられてしまうこととなった涼羽。


そのおかげで、ひたすらにその顔を恥じらいに染めて、涙目になりながらも儚い抵抗を繰り返していたのだが、もちろん、そんなことをすればするほど、三人の愛情攻撃はより勢いを増していくこととなっていた。




そんな展開も区切りがついたことで、ようやくこの日の目的となる、永蓮の涼羽へのお料理教室が、開かれることとなった。


時間もちょうどお昼時と言うこともあり、涼羽の実際の手際なども確かめる意味で、この日の水神家の昼食を、涼羽に作ってもらうことにしたのだ。




そして、自分で調べたり、実際にトライ&エラーで試行錯誤しながら積み重ねてきた経験値、そして磨き続けてきた料理の腕を、惜しむことなく披露していっている涼羽。


その中で、永蓮がちょっとした味付けのアレンジや、ちょっとした工夫などを、実際に料理している涼羽にアドバイスをしたりしながら、より涼羽の料理スキルを向上させていっている。




それでも、永蓮が涼羽に贈るアドバイスは、すでに十分な程の料理スキルを有している相手に贈るものであり、駆け出しの相手に贈るような基礎的なものは一切必要ないだろうと、永蓮は判断している。




つまり、永蓮にそれだけの評価をさせる程に、涼羽の料理スキルは高いレベルのものであることを示しているのだ。




それでいて、独学ゆえの未完成の部分も多々あり、永蓮からすれば、非常に教え甲斐のある生徒となっている。




涼羽の方からすれば、自分が全く思いつきさえしなかったことをいくつも教えてくれる永蓮が本当に自分よりも料理スキルの高い人間であると思えて、より素直に謙虚に、永蓮に教えを請おうとしていく。


そうして、ほぼ頭打ちだと自分で感じていたはずの料理という分野に、まだまだ伸びしろがあったことを気づかされ、よりその向上心が刺激されていくのだ。


永蓮に教えを請うことで、より自らの料理スキルを向上させていくことができ、そしてそれが楽しくて楽しくてたまらない状態となっている涼羽。




ここまで、誰に教わることもなかった料理のスキルに、ちゃんとした先生がついてくれたことで、より一層の向上が見込めるようになった。




本当に、お婆ちゃんがいてくれてよかった。


お婆ちゃんに料理を教わるのが、本当に楽しくて楽しくてたまらない。


お婆ちゃん、こんなにもいろいろなことを教えてくれてありがとう。




そんな想いを胸に、涼羽は永蓮のお料理教室を受けている。




一方の永蓮は、実の娘である水蓮が本当に料理含む家事全般に興味を示さなかったこともあり、自分の料理スキルを子供に教えていく、という楽しみが実現することがなかった。


自分の娘とキッチンに立って、和気藹々としながら料理をしていく。


そんなささやかな楽しみが、実現に至らなかったのだ。




もう娘の水蓮に関しては諦めの境地に達しているので、せめて孫娘の香奈とは、それを実現したい。


そう思って、ひたすら香奈には女の子らしさをきっちりと教えている。


だが、その香奈はまだ幼く、料理をするには少々心もとない。


ゆえに、一緒に料理をしたりするのは、もう少し先になるだろうと、思っている。




そんな中、そんな永蓮のささやかな願いを叶えてくれる存在が現れた。


それが、今彼女の目の前にいる涼羽だったのだ。




しかも、手の半分まで覆っていた袖を肘の辺りまでまくり、水蓮に無理やり着せられた女子の制服の上から、暖色系の可愛らしいデザインのエプロンを着けて、自分の隣で料理をしている涼羽が、本当に可愛すぎてたまらない。




こんな可愛い娘とこんな風に一緒に料理できるなんて、本当に楽しい。


しかも、教えたことを素直に自分のものにしていってくれて、本当に嬉しい。




涼羽が、自分が教えたことでお礼を言ってくれるのが、嬉しくて嬉しくてたまらない。


むしろ、自分がお礼を言いたいくらいなのだ。




こんな自分のささやかな願いを叶えてくれた涼羽が、本当に本当に愛おしくてたまらなくなる。


ますます、永蓮の中で、涼羽はずっとそばにいたい存在となってしまう。




そんな、お互いにとって楽しみと喜びを与え合っている涼羽と永蓮の二人は、本当に幸せそうな笑顔をお互いに向け合いながら、この日の昼食を、一緒に作っていっている。




「ねえ、涼羽ちゃん」


「はい?」


「お婆ちゃんね、こんな風に自分の娘と一緒に、楽しくお料理するのが夢だったのよ」


「!む、娘って、僕、男なんですけど…」


「水蓮はぜ~んぜんこういうことに興味持てなくて…香奈はまだ小さいからもう少し先になっちゃうし…」


「………」


「でもね、涼羽ちゃんのおかげで、お婆ちゃんの夢が叶ったの。涼羽ちゃんと一緒にお料理するの、本当に楽しくて、嬉しくてたまらないの」


「…お婆ちゃん…」


「ありがとうね、涼羽ちゃん。お婆ちゃん、今本当に幸せ。今すっごく楽しいの」


「…そんな…僕の方こそ、お婆ちゃんとお料理するの、本当に楽しくて…」


「!涼羽ちゃん…」


「それに…僕が全然知らなかったこと、いっぱい教えてくれて…僕、本当に嬉しいです」


「涼羽ちゃん…」


「今日教えてくれたことで、父と妹にもっと美味しいお料理を食べさせてあげられるって思ったら、なんだか嬉しくなって…それをできるように教えてくれるお婆ちゃん…大好きです」


「!!……」


「ありがとうございます、お婆ちゃん」




涼羽に教えながら、涼羽と一緒に料理をすることに、本当に幸せと喜びを感じている永蓮。


その想いを、涼羽に対して飾らない言葉として、声に出していく。




そんな永蓮の言葉に、今度は涼羽の方が、永蓮と料理することの楽しさと喜び、そして感謝の想いをそのまま声にして、永蓮に贈る。


曇りなどかけらもない、天使のような純粋な笑顔を、その美少女顔に浮かべながら。




そんな涼羽が可愛すぎて、愛おしすぎてたまらなくなってくる永蓮。




もうその想いを抑えられなくなってしまったのか、とうとう、涼羽のことを包み込むかのようにぎゅうっと抱きしめてしまう。




「!お、お婆ちゃん?」


「もお~~、涼羽ちゃんはどこまで可愛かったら気が済むのかしら、ほんとに~」


「!そ、そんなこと……」


「お婆ちゃんね、涼羽ちゃんがそんな風に言ってくれて、本当に嬉しいわ~」




自分にとって本当に嬉しいことを言ってくれる涼羽に笑顔が止まらない永蓮。


こんなにも可愛い孫娘と一緒に料理ができる喜びも相まって、まさに幸せの絶頂にいるかのような感覚に陥ってしまっている。




どこからどう見ても童顔で可愛らしい、美少女女子中学生にしか見えない今の涼羽は、永蓮にとっては本当に孫娘のようなものであり、いくらでも可愛がりたくなってしまう存在となっている。




「さあ、涼羽ちゃん。もっとお婆ちゃんとお料理しましょうね~」


「はい、お婆ちゃん」


「お婆ちゃん、涼羽ちゃんのためなら、いくらでも教えてあげるからね」


「えへへ、ありがとうございます」




涼羽に教えながら料理するのが本当に楽しくて嬉しくて、幸せでたまらない永蓮。


心なしか、実年齢よりも外見が若返っているかのような雰囲気さえある。




涼羽も、自分よりも料理の知識が豊富な永蓮に料理を教えてもらうことが本当に楽しくて、可愛らしい笑顔が絶えずにいる。




すでに、キッチンからは美味しそうな匂いがリビングにまで漂ってきており、それが水蓮や香奈の嗅覚と空腹感を容赦なく刺激してしまう。




「わ~…おいしそうなにおい~…」


「涼羽ちゃんが作ってくれるご飯…早く食べたいわ~」




こんないい匂いを嗅がされた状態で、お預けとなっている二人。


特に、作ってくれているのが涼羽ということもあり、余計に早く食べたいという欲求が膨れ上がってしまう。




まさに、一日千秋の思いで、リビングに料理が出てくるのを今か今かと待ち望んでいる。




「ああ~もう、涼羽ちゃんったら本当にお料理上手だわ~」


「そんな…お婆ちゃんと比べたら、全然です」


「何を言ってるの、涼羽ちゃん。うちの水蓮なんか、本当にできなくてね~…」


「あ、はは…す…水蓮お姉ちゃんには、他のいいところがありますから…」


「もう…涼羽ちゃんは本当に優しいわね~…」




作るより食べる側の娘である水蓮のことを思うと、本当に涼羽が料理上手だという事実が強調されてしまう永蓮。


そんな涼羽に、とろけた表情で惜しげもなく賛辞の言葉を贈る。




そんな永蓮の言葉に対しても、非常に謙虚な姿勢を崩さない涼羽。


そして、まるで愚痴るかのように、料理オンチの水蓮のことを言い出す永蓮に対しても、水蓮をかばうような言葉をやんわりと響かせる。




そんな優しい涼羽もまた可愛らしく思えてしまうのか、ついつい涼羽の頭を優しく撫でてしまう永蓮。


まるで本当の祖母と孫娘のようなやりとりに、永蓮の顔もゆるみっぱなしの状態となってしまっている。




「ね~ね~、かなもりょうおねえちゃんとおりょうりしたい~」




そんな二人のところに、しびれを切らしたかのようにとてとてと香奈が割り込んでくる。


もともと、永蓮の情操教育の甲斐もあって、結構女の子らしく、家庭的な部分も育っている。


今はまだ小さいから、ということでさせてはもらえないのだが、料理にはかなり興味を持っている。


そんな、幼く純粋な興味が、実際に取り組ませてもらえない期間の間にどんどん膨れ上がってきており、この日は祖母、永蓮が認める料理上手で大好きな涼羽が家にいることもあって、我慢できずにキッチンにまで姿を現すこととなった。




「う~ん…香奈はまだ小さいからね~…」




孫娘の香奈に対して結構過保護な永蓮は、正直今の香奈に料理をさせてみることに乗り気ではない。


加えて、今作っている料理は完成間近を迎えており、今の時点で香奈にさせられることはないと言い切れる状況になっている。




そのため、永蓮から出る声は、渋い返答となってしまっている。




「え~、かなもおりょうりしたいのに~…」




こんな風に料理に興味津々になってくれるのは、永蓮としては非常に好ましいことなのだが…


根が母親の水蓮似で、結構無鉄砲なところがある香奈に対しては、慎重になる必要があると、永蓮は判断しているからだ。




そういう判断から来る祖母、永蓮の声に、香奈は不満たらたらの声をあげてしまう。




「ごめんね、かなちゃん。今日のお昼の分はもう、ほとんど終わっちゃってるの」




そんな香奈に、申し訳なさそうに涼羽が声をかける。


実際、昼ごはんの工程は言葉通り、ほぼ終わってしまっているため、香奈にさせられることがない、というのは、涼羽も同じ認識である。




「そうなの…かなもりょうおねえちゃんとおばあちゃんとおりょうりしたかったのに…」


「ごめんね、かなちゃん」


「ごめんね、香奈」


「りょうおねえちゃんは、かなとおりょうりしてくれる?」


「え~と…お昼のお料理は終わっちゃってるから…晩ご飯の時になったら、一緒にしてみる?」




もうやることがない、と言われて、しょぼんとしてしまう香奈。


そんな香奈に、涼羽も永蓮もごめん、と申し訳なさそうに言葉と紡ぐ。




だが、それでも料理したくてたまらず、おねだりをするかのように涼羽に迫ってくる香奈。




そんな香奈が可愛くて、こんな女の子らしくて可愛らしいおねだりを聞いてあげたくなったのか…


今日の晩ご飯の時に、一緒に料理をしてみるか、香奈に問いかける涼羽。




「!ちょ、ちょっと…涼羽ちゃん?」




そんな涼羽の声に、永蓮が思わず驚きの声をあげてしまう。




「!ほんと?かな、りょうおねえちゃんといっしょにおりょうりする!」




祖母の永蓮とは対照的に、しょぼんとしていた表情が嘘のようにぱあっと明るくなり、嬉しそうに涼羽にべったりとしながら、涼羽の言葉に肯定の意を表す。




「ふふ…でもね、かなちゃんはまだ小さいから…最初のうちは本当に簡単なことから、だよ?」


「うん!かな、りょうおねえちゃんといっしょにおりょうりしたい!」


「もちろん、お婆ちゃんも一緒に、ね?」


「うん!」


「お婆ちゃんはね、その…お…お姉ちゃんにお料理を教えてくれるから、かなちゃんには、お…お姉ちゃんが、お料理教えてあげるね?」


「!りょ、涼羽ちゃん…」


「!わ~い!りょうおねえちゃんがおりょうりおしえてくれる~!」




やってみたくてやってみたくてたまらなかった料理をさせてくれる、という涼羽の言葉に、嬉しさを隠せない香奈。


そんな香奈に、最初は簡単なことからだと、しっかりと言っておくことも忘れない涼羽。


それでも、涼羽と料理ができるということが本当に嬉しいのか、素直に純真無垢に、元気いっぱいの返事を返す香奈。




そして、永蓮は自分に教えてくれるから、香奈に対しては自分が教えてあげる、ということも含めて伝える涼羽。


その時に、自分のことを『お姉ちゃん』と呼ぶところがぎこちなくなってしまうのもいつも通り。




そんな涼羽の言葉に、永蓮は戸惑いを隠せない様子となってしまう。


対照的に、香奈は嬉しさのあまり、飛び上がらんほどの雰囲気となってしまっている。




「りょ、涼羽ちゃん…」


「お婆ちゃん…こんなに料理をしたがっているかなちゃんですから、一度、簡単なところからでもさせてあげたいと思うんです」


「涼羽ちゃん…」


「僕、かなちゃんが喜ぶこと、ついついしてあげたくなっちゃうんです。こんな風に喜んでくれるかなちゃん、本当に可愛くて…」


「涼羽ちゃんったら、本当に優しいのねえ…」


「もちろん、かなちゃんにも言った通り、火や包丁を使わない、本当に簡単なところしかさせないつもりです。でも、そこからが料理の第一歩だと思いますし…そこから少しずつ、いろんなことができるようになっていけば、いいかなと思ってるんです」


「………」


「僕も、クラスの友達の女の子にせがまれて、料理を教えたことありますから…ですから、それなりに要領は分かると思います」


「!まあ、そうなの?」


「はい…向こうもそれですっごく喜んでくれてました」


「そうなの…それなら涼羽ちゃんに、香奈のことお願いしても、いいかしら?」


「はい。かなちゃんに料理の楽しさを、い~っぱい知ってもらいたいから、頑張ります」


「ああ~…なんて可愛いの~…私の孫娘達は~」




香奈に料理をさせるということに、まだ抵抗のある永蓮が、その心境をそのままにしたかのような口調で涼羽に声をかけてくる。




涼羽は、そんな永蓮に優しげに、それでいてしっかりと言い切る口調で、香奈に料理をさせてあげたいという思いを言葉にする。


涼羽自身、自分にこんなにも懐いてくれる香奈のことを本当に可愛らしく思っており、そんな香奈の喜ぶ顔を見たいと、常に思っているからだ。


もちろん、まだ四歳の香奈に料理をさせるからには、安全面はしっかり意識したうえで、本当に簡単で安全なことからだということも、併せて伝える。




かつて、料理が本当に大好きで、でもできなくてどうしようもなくなっていた美鈴に料理を教えたこともあるため、その経験を活かせるとも、涼羽は思っている。




それを聞いた永蓮は、そこまで言ってくれる涼羽に、香奈のことを任せてみようと、素直に思うことができた。




香奈のことを本当に包み込むかのように大切に、優しく扱ってくれる涼羽。


そんな涼羽が大好きで大好きで、まるで本当の妹のように懐いている香奈。




そんな二人が本当に可愛くて可愛くてたまらず、この日何回目になるか分からない、永蓮の喜びに満ち溢れた、ゆるゆるの表情が、その顔に浮かんできた。

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