第111話 涼羽!羽月!

「ふう…」




世間的には休日となる、土曜日の昼前頃。


本来ならば、出勤する予定のなかった、この会社の一部署の長である翔羽なのだが…


昨日の別部署で発生したトラブルの対応に追われ、結果…


この日の出勤をせざるを得なくなってしまった、という状況なのだ。




「よし…ここまでは取り戻せたな…」




この社内ではトップクラスの実務、処理能力を誇る翔羽。


昨日で遅れてしまった分の作業量だけでも、普通の人間なら溺れかねないほどのものなのだが…




まだ半日も経っていないにも関わらず、すでに目標としている進捗の全体の七割ほどまで、消化しきれている。




これはもう、翔羽が単身赴任中の超多忙な激務の中…


とにかく目の前の作業を終わらせていこうと…


とにかく少しでも多くの作業をこなしていこうと…


厳しすぎるほどに厳しい現実の実戦の中…


ただひたすらにその処理能力をたたき上げていった結果である、と…




もともと、そういう才能があったのは確かなのだが…


それを、その実戦の中でひたすらに磨き、たたき上げていったからこそ…


今の翔羽がある、と言えるのだ。




だからこそ、その状況を当然として生きてきた翔羽にとっては…


このくらいはできて当たり前であり…


むしろ、そのくらいできないと、周囲に示しがつかないし、迷惑もかかってしまう。




常にそう、自分自身に厳しく言い聞かせているからこそ、その周囲から見れば高すぎるほどのパフォーマンスを維持することができており…


今なお、高みを目指してよりその能力を向上させていっている…


そういうことが、自然とできてしまっているのだ。




ゆえに、そんな翔羽の代わりなど…


当然ながらいるはずも、ましてやこれから育てることなど、できるはずもなく…


ただただ、この図抜けた程に優秀なこの男が、よそに行ってしまわないか…


社の上層部は、常に戦々恐々の思いにかられることとなってしまっている。




「…待ってろよ、涼羽、羽月。お父さんは、一秒でも早くお前達の元へと、帰るからな!」




そして、翔羽にとっての最大のモチベーションの元となっている…


今は亡き妻の忘れ形見であり、最愛の存在となっている…


可愛すぎるほどに可愛い子供達。




その二人の子供達の顔を、一秒でも早く見たい。


その二人の子供達を、一秒でも長く愛してあげたい。




もう本当にそれだけの想いで、ただでさえ周囲から見ても圧倒的に飛びぬけているほどのパフォーマンスが…


いつも以上に発揮されている状態だ。




いつもいつも可愛がっているにも関わらず…


その度に分かりやすいほどに恥じらい、顔を赤らめて…


いやいやをするかのように、儚い抵抗を見せるものの…


やはり本心では嬉しいのか、じっとそのまま愛され続けてしまう、息子の涼羽。




いつもいつも可愛がっていると…


その度に本当に嬉しそうに、天真爛漫な笑顔を見せてくれて…


父である自分と一緒に、涼羽をひたすらに可愛がって…


本当に幸せそうに触れ合ってくれる、娘の羽月。




もう、目の中に入れても痛くないと豪語できるほどに可愛い、二人の子供達。




その子供達のために、父はこの日も目一杯奮闘して…


一秒でも早く帰ることができるようにと…


その圧倒的なパフォーマンスで、目の前の仕事、と言う名の敵達を蹴散らしていく。




そして、まさにトランス状態と言えるほどに仕事に集中している時だった。




翔羽一人しかいない、喧騒も何もない静寂な空間に、内線のコール音が鳴り響いたのは。




「?…なんだ?」




この日は自身の部署を含め、直近の部署は全て誰も出勤していない状態。


その他の部署は、休日出勤で出ているところもあるものの…


そのあたりの部署と、翔羽の部署が絡むことは、基本的にない、と言える状態。




一体どこから、と思いながらも、自身の左側にある電話の受話器を、左手で取り…


極めて落ち着いた声で、応対を始める。




「はい、高宮ですが…」


『あ、業務中失礼します!一階、総合受付です!』


「?…」




内線の相手は、総合受付の受付嬢。


それを聞いて、翔羽の顔にさらに疑問符が浮かび上がってくる。




この日は自身の一人作業で出勤しているだけなので、他社からの訪問のアポなどあるはずもなく…


ゆえに、総合受付から電話がかかってくるような用件など、ないはずなのだが。




そんな思考に、ただただ疑問符しか浮かんでこない状態のまま…


極めて冷静に、次を促すかのように声を出す。




「どうした?何かあったのか?」




そんな翔羽の声に対し、どこか弾んだ声で、その次を紡ぐ言葉を出していく受付嬢。




『高宮部長!部長に、お客様です!』


「?お客様?俺に、か?」


『はい!そうです!』


「??今日、俺誰かとアポなんかあったか?」




用件は自分に対する客である、と聞かされ…


ますます分からない、といった表情を浮かべてしまう翔羽。




『いいえ、他の社からのアポはありませんよ』


「???じゃあ、一体誰なんだ?」




自分の認識が間違っているのかと思い…


抱えていた疑問を声に出してみるものの…




やはり自分の認識に相違はないことを証明する、受付嬢の声が返ってくる。




なのに、自分にお客様だと言う受付嬢。




そんな受付嬢の声に対し、一体誰なんだと、答えを促すように声を出してしまう翔羽。




『部長…私、びっくりしちゃいましたよ!』


「??何が??」


『部長に、あんなにも可愛らしいお子さんが、二人もいたなんて!』


「!!え…」


『それも、すっごくいい子達じゃないですか!』


「ちょ、ちょっと待ってくれ!まさか、俺に客というのは…」


『はい、そうです!部長のお子さん方です!』




自分の客が、最愛の息子である涼羽と、最愛の娘である羽月であると聞いた瞬間…


手に持っていた受話器を驚くほどの早さで電話機の方に戻し、通話を切ると…




「待ってろよ!涼羽!羽月!お父さん、今行くからな!」




それまで、極めてクールな、仕事ができるオーラに満ち溢れていた翔羽がまるで嘘のように…


デレデレと、だらしない、締りのない顔を晒したまま、自身の部署のオフィスを飛び出していったのだった。








――――








「あ…切れちゃった…」




突然、何の前触れもなく通話が切れてしまい…


そのことに少々驚きを見せてしまう受付嬢。




会社の窓口を勤めるに相応しい、整った美人顔に一瞬驚きを見せてしまうものの…


用件は伝えたからまあいいか、と、さらっと流してしまう。




そして、その横で、きゃいきゃいとした会話が繰り広げられており…


その最中、まさに、といった感じの驚愕の声が響き渡る。




「え!!??そうなの!!??」


「は、はい…」


「そうだよ~♪えへへ♪」


「うそ…こんなに可愛いのに、男の子なの!?」


「そ、そうです…」


「えへへ♪うちのお兄ちゃん、す~っごく可愛いでしょ?」




社内での、女性社員にとっての羨望の的であり…


いまや、アイドルのような扱いになりつつある存在である…


高宮 翔羽の子供達。




その可愛らしい容姿から、当然ながら非常に仲良しな姉妹だと思っていたのだが…




その姉妹の片割れである、姉だと思っていた方が、実は兄であると聞かされ…


一体、何の冗談なんだ、と…




その驚きを全く隠すこともできずに、ただただ涼羽の方を無遠慮にじろじろと見つめる受付嬢。




「(え~…ほんとに?こんな、本物の女の子よりも可愛い、正統派の美少女なのに…男の子なの?)」




自分よりもずっと可愛いと、認めざるを得ないその容姿。


しかも、本当に控えめでしおらしい感じがまた、その可愛らしさを強調する形となっており…


加えて、そんな男の子にべったりと抱きついて、心底幸せそうな、嬉しそうな表情を見せる…


そっくりといえるほどによく似た造りの美少女顔の妹。




そんな姉妹…


もとい、兄妹が心底可愛すぎて…


無意識に、その手が二人を抱きしめたい、と…


ぴくぴくと、動き始めている。




「…あ、あの…」


「!な、なあに?」


「…そ、そんなにじろじろ…見ないで…もらえますか?…」


「?な、なんで?」


「…は、恥ずかしい…です…」




ただじっと見つめられているだけなのに…


それだけで、こんなにも恥らって、熟れた林檎のように顔を真っ赤にして…


ふいと、視線を逸らしてしまう、そのあざといといわんばかりの仕草…




「えへへ♪お兄ちゃんほんとに可愛い♪」


「…は、羽月も…そんなに、見ないで…」


「や♪お兄ちゃん可愛すぎるから、もっと見たくなっちゃうもん♪」




さらには、そんな兄が可愛すぎて、大好きすぎてたまらず…


べったりと抱きついたまま、じっと兄の恥らう顔を見つめ続ける妹、羽月。




そんな妹に対し、より恥じらいを強く感じてしまい…


ただただ、ふいと視線を逸らすことしかできなくなってしまっている涼羽。




そんな可愛すぎるほどに可愛らしい、兄妹のやりとり。




それを目の当たりにしてしまった受付嬢の中で…








――――ぷちん――――








何かが、切れた音がした。




「~~~~~~もお~~~~!!!!なんなのなんなの、この子達!!!!可愛すぎるよ~~~~~~!!!!」




気がつけば、無意識のうちに表に出始めていた欲望が一気に解放されてしまい…


ひたすらに恥らう涼羽を、その妹である羽月もろとも、ぎゅうっと抱きしめてしまう。




「!!ひゃ…や、やめてください!…」




いきなりぎゅうっと抱きしめられて、声のみの儚い抵抗を見せてしまう涼羽。


いきなり、自分にとっては、綺麗で美人な大人の女性にべったりと抱きつかれてしまい…


思わず、そんな抵抗の声がもれ出てしまったようだ。




「はあ~~~~~、もう本当に可愛い!!許せないくらいに可愛い!!」




そんな涼羽の儚い抵抗など、まるでないと言わんばかりに…


べったりと抱きついて、露になっている涼羽の左頬に、頬ずりまで始めてしまう。




「!!や、やっ…やめて…」


「!!ちょっともお!!なんなのこのすべすべでぷにぷにしたお肌!!それに、すっごくいい匂いするし!!これで男の子だなんて、許せない!!」


「…そ、そんなこと…」


「それに、なんなのこの細い腰!!私より細いじゃない!!うらやまし~~!!」


「!!ひ!!…し、知りません!!そんなこと…」


「だめ!!逃げないで!!」




もうどうすることもできずに、ただただ、言葉での懇願を続ける涼羽。


そんな涼羽の懇願などまるで耳に入ることもなく、ひたすら涼羽の可愛らしさを堪能し続ける受付嬢。




「ほら、ちゃんとこっちを見て」




本当に好きな子をいじめて楽しむかのような…


意地の悪い笑顔をその美人顔に浮かべながら…




その両手で涼羽の小さな顔を挟むようにすると…


自分の方にその涼羽の顔を向けてしまう。




「は、離してください…」


「だあめ♪こんなに可愛いんだから、もっとよく見せて♪」




無理やりに恥じらいに染まっているその顔を向けさせられて…


見られたくないのに無理やりじっと見つめられて、ただでさえ爆発しそうなほどの羞恥が、より大きく沸きあがってくる。




せめて、視線だけでも、と思い、無理に目を逸らしてしまう涼羽。




しかし、涼羽のそんな仕草も、この受付嬢の欲望と言う名の火に、油を注いでしまうようなもの。




「何々?何してるの?」




しかも、そこに先程まで電話していたもう一人の受付嬢まで来てしまう始末。


非常に興味津々、といった様子で、涼羽と相方のやりとりを見ている。




「ちょっと聞いてよ!!この子、男の子なんだって!!」




もうそのことを相方に言いたくてたまらなかったのか…


新人記者が、偶然大スクープを捕らえてしまった、というような…


まさに、信じられないものを見てしまった感のある表情を浮かべながら、声を大にして伝える。




「!!え!?え!?だって、こんなに可愛いのに!?声だって、すっごく可愛いのに?」




当然、いきなりそんなことを言われて、混乱してしまう受付嬢。


相方の突然の言葉に、まさに信じられないと言わんばかりの表情を見せてしまう。




「それが、ほんとなんだって!ね、見てよ!こんなに可愛いのに、男の子なのよ!この子!」


「うそ~…」


「でしょ?ぜ~んぜん男って感じしないから、ついついこんな風に可愛がりたくなっちゃうの!」


「うう…」




一人だけでも、相当な羞恥を感じてしまうのに…


それが二人になっただけで、もう溶けてなくなってしまいそうなほどの羞恥を感じてしまう涼羽。




懸命に視線だけでも逸らす、という儚い抵抗が、余計に涼羽を可愛らしく見せてしまっていることに…


そのことに気づいていないのは、本人だけ、という状況になってしまっている。




「わ~…なんだか可愛すぎて、見てるだけでドキドキしちゃうわ~」


「でしょ~?こんな風にしてるだけで、なんだかイケナイことしちゃってるみたいで、すっごくドキドキしちゃうのよ!」


「ね、ね?私にも触らせて?」


「いいよ~?ほら!」




もはや見ているだけでは物足りなくなってきてしまったのか…


相方が涼羽のその童顔な美少女顔を抑えつけたままにしている状態で…


そっと、その露になっている左頬に触れてみる。




「!!ひゃ…」




その突然の感覚にびくりとしたのか…


涼羽の口から、少し甲高い声が、その場に響き渡ってしまう。




涼羽のそんな声が、受付嬢二人の欲望に火をつけることとなってしまい…




「…なにこれ!!なんなのこの子!!めっちゃ可愛い!!」


「でしょ!!でしょ!!」


「なんか、すっごく幼い感じで、しかも本物の女の子よりも可愛らしくて!!」


「もうね、可愛すぎて許せなくなってきちゃうんだから!!」


「だよね!!私も、可愛すぎて許せなくなってきちゃってる!!」




涼羽の右側にべったりと抱きついたままの羽月もろとも包み込む形で…


両サイドから、涼羽をサンドイッチにするように、ぎゅうっと抱きしめてくる二人の受付嬢。




「むぎゅ…お兄ちゃんはわたしだけのお兄ちゃんなの!!」




先程までは涼羽をひたすらに可愛がる受付嬢の勢いにのまれていたものの…


自分だけの可愛い兄が、自分以外の女性にひたすら可愛がられているのを見て…


大好きで大好きでたまらない、最愛の兄を奪られまいと…


兄の胸に顔を埋めて、べったりと抱きついて、離れようとしない妹、羽月。




そんな羽月も、受付嬢二人の心をくすぐることとなってしまい…




「もう!!妹ちゃんもほんとに可愛い!!」


「なんなのよ、この兄妹!!どっちも可愛すぎ!!」




涼羽の胸にべったりと顔を埋めたままの羽月の頭を優しく撫でてしまう。


そして、そんな羽月も、と言わんばかりによりぎゅうっと涼羽を羽月もろとも抱きしめてしまう。




「や、やめてください…」


「むぎゅ…」




懸命の儚い懇願が飛び出す涼羽…


思いっきり抱きしめられて、兄の胸に顔を埋めたまま、言葉すら発せずにいる羽月…




そんな二人が、受付嬢達に目一杯可愛がられている、その時だった。




「涼羽!羽月!」




自部署のフロアから、大急ぎで降りてきた翔羽が…


半ば肩で息しながらその場に姿を現したのは。




「!た、高宮部長!」


「も、もう来られたんですか!?」




受付嬢が翔羽に連絡してからまだ数分も経っていない状態。


にも関わらず、もう姿を現しているところから…


階段を使って、目一杯走ってきたものだと思われる。




見た目は二十台半ば~後半くらいではあるものの、実際には四十三歳である翔羽。


その翔羽が、そんなにも慌てて階段を駆け下りてきたからには、相応の体力を消耗しているはず。




にも関わらず、息は切らしてはいるものの…


そこまでへばった様子がないのは、やはり子供達への愛情によるものなのだろうかと、思わずにはいられない。




「お、お父さん…」


「むぎゅ…お父さん…」




翔羽の姿を目撃したことで、抱きしめる力が緩んだ受付嬢の二人。


そのおかげで、涼羽も羽月も声を発するくらいの余裕ができたようだ。




そして、本当に二人の子供が自分の前に姿を見せていることを確信した翔羽は…




「涼羽~~~~~~~~!!!!!羽月~~~~~~~!!!!!」




普段から、まさに仕事の鬼と言わんばかりに怜悧冷徹な表情で淡々と仕事をこなしているあの高宮 翔羽と同一人物とは思えないような…


それこそ、その整った顔をデレデレと言えるくらいに緩ませて…


二人の子供のところへと、駆け寄っていった。




その勢いとだらしない顔に思わずその場を退くかのように離れてしまった受付嬢達を尻目に…


ようやく、といった感じで解放された息子と娘をその腕で、二人もろともぎゅうっと抱きしめる。




「涼羽!羽月!どうしたんだ!?わざわざこんなところまで来て~~~~!!」




普段から感情の動きが乏しく、何を考えているのかがいまいち分かりにくいと思われがちの翔羽。


その翔羽が、傍から見ても分かりやすいくらいに分かりやすい笑顔を浮かべて…


最愛の子供達をその腕の中に収めるようにぎゅうっと抱きしめながら…


心底嬉しそうに、子供達のことを可愛がっている姿が、そこにあった。




「え?あれが、あの高宮部長?…」


「うそ…ほんとに?」




会社では決して見ることのできない、翔羽の子煩悩な姿。


そんな翔羽の姿に、受付嬢達は動揺を隠せず…


本当に、目の前で子供達をだらしない顔で可愛がっている人物が、本当に自分達の知っている人物と同一人物なのか…


そのことに、疑問を隠せない状態となっている。




「お、お父さん…会社の人、見てるから…」


「えへへ♪お父さんだ~♪」




ここが会社であることも忘れて、わが子たちを可愛がる父、翔羽に対し…


涼羽は、同じ会社の社員に見られていることを指摘する。


羽月は、父がこうして自分を可愛がってくれていることに、心底喜びの表情を浮かべているが。




「ははは、涼羽は相変わらず恥ずかしがりやだな~」


「でもお父さん!お兄ちゃんはそういうところが、すっごく可愛いんだから♪」


「ん?おお、そうだな。涼羽はそういうところが本当に可愛いもんな」




自宅の中とまるで変わらない、父と妹の可愛がり。


ここは父の会社であることなど、まるで気にも留めてなどいない二人。


父、翔羽はひたすらに恥らう息子、涼羽が可愛すぎて可愛すぎてたまらず…


妹、羽月はひたすらに恥らう兄、涼羽が可愛すぎて可愛すぎてたまらず…




まさに、家の中での普段からの触れ合いが、そのまま会社で行われている状態だ。




「お、お父さんも…羽月も…やめて…」


「だめだ!涼羽が可愛すぎるのがいけないんだからな!」


「そうだよ!お兄ちゃんが可愛すぎるのがいけないんだからね!」




父の会社の人間に、自分のこんな姿を見られていることで、さらに激しく羞恥を感じてしまう涼羽。


もう、その男とは思えない美少女顔を赤らめて、必死に儚い懇願を繰り返している。




だが、そんな姿を見せられたら…


余計に我慢できなくなってしまうのが、翔羽と羽月の二人。




もうこれでもか、と言わんばかりに、翔羽は涼羽のことを抱きしめてうんと可愛がり…


妹、羽月も兄の胸に顔を埋めて、べったりと抱きつきながら、兄の恥じらいに満ちた顔を思う存分堪能している。




まさに親子三人のいつも通りの、ほのぼのとしたやりとりが繰り広げられている中…




「…高宮部長…子煩悩って、ほんとだったのね…」


「…でも…あんなに可愛い子達だったら、ああなっちゃうのも分かっちゃうかも…」




そんな親子三人のやりとりを目の当たりにしている受付嬢二人は、呆気にとられた表情を隠せないまま…


ただただじっと、自分達が憧れの対象としている部長の子煩悩な姿を、見つめている。




そんな親子のやりとりは、昼休憩の合図となるチャイムがその場に鳴り響くまで、続くこととなった。

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