第96話 あいがと~!りょうおねえたん!

「ははは…羽月は相変わらずだなあ…」




香澄にばかり、その母性と包容力を発揮している涼羽。


自分だけが除け者にされているのが我慢ならなかったのか…


涼羽の背中にべったりと抱きついて、懸命に構ってアピールを行う羽月。




そんな羽月もまた可愛いのか…


翔羽の顔はまたしても緩んだ笑顔になってしまう。




「部長…あの女の子が、涼羽君の妹さんなんですか?」


「ああ、そうだ。あの子が、俺の娘で、涼羽の妹なんだ」


「はあ~…涼羽君にそっくりですね。しかも小柄ですから、本当に可愛らしい…」


「そうだろ?名前は羽月っていって、鳥の羽に月で、羽月なんだ」


「羽月ちゃん…ですか…本当に、お兄ちゃんである涼羽君のことが大好きなんですね~」


「ああ、もう涼羽のことが大好きで大好きでたまらなくてな…家にいる時は、いつもあんな風に涼羽にべったりと抱きついてる感じだよ」




涼羽にそっくりな顔立ちの、幼さの色濃い女の子。


そんな女の子を見て、この子が涼羽の妹だと思う修介。




翔羽の方に、確認の問いかけをしてみたところ…


やはり、肯定の答えが返ってきた。




そして、兄の背中にべったりと抱きついて、必死に構ってアピールをしているところを見て…


羽月と呼ばれたあの少女が、どれほどに兄である涼羽のことが大好きで大好きでたまらないのか…


それを、嫌でも感じさせられることとなった。




「?…そういえば…」


「ん?どうした?」


「涼羽君って、今年十八歳の高校三年生だとは聞いてますが、羽月ちゃんの方は…今いくつなんだろうって思って…」




ここで、ふとした疑問が修介の頭に浮かんでくる。


涼羽本人の口から、涼羽が今年十八歳の高校三年生であることは聞いている。


もちろん、初めて聞いた時は何の冗談だと、盛大に驚くこととなってしまったのだが。




そんな涼羽の妹である羽月は、いったいいくつくらいなのだろう。


この一家は、父である翔羽が現在四十三歳でありながら、二十台後半~三十台前後くらいにしか見えない若作りな容姿であり…


さらには、その息子である涼羽も、どう見ても中学生くらいの童顔な美少女にしか見えない容姿でありながら、今年十八歳の高校三年生という、まさに詐欺と言えるような容姿をしている。




では、その父の娘であり、その兄の妹である羽月は、どうなんだろう、と。


ぱっと見では、小学生くらいにしか見えない容姿の羽月。


なのだが、父親が恐ろしいほどの年齢詐欺な容姿であり…


さらには、兄が恐ろしいほどの年齢、そして性別詐欺な容姿をしている。




もしかしたら、羽月もそんな年齢詐欺な容姿をしているのだろうか…




そう思ってしまった修介の、何となくだが、知っておきたい疑問。


その疑問の解となる言葉が、翔羽の口から述べられる。




「ん?ああ、羽月は今年十五歳になる、中学三年生の女の子だぞ」




しれっと、それが当然であると言わんばかりの翔羽の言葉。




それを聞いた修介の顔が、あっけにとられたかのような間の抜けた顔になってしまう。




「!!??…………え?」


「ん?どうした?」


「羽月ちゃん……来年で高校生……なんですか?」


「?ああ、そうだが…」


「…信じられない…」




まさに、この父の娘、そしてこの兄の妹だと思ってしまう羽月の年齢。


羽月の場合は、容姿も幼く、さらには性格も子供っぽさが目立つ。




兄である涼羽に、まるで母親に甘えるかのようなその仕草や行動、そして言動が…


あまりにも幼さの色濃いものに見えてしまうのだ。




そんな羽月が、まさか来年で高校生になるような年齢だなんて。




なんなんだろう。


この、天然アンチエイジングを地でいっている家族は。




修介自身も、容姿がどちらかと言えば若作りな方なので…


初対面の人には、十人中九人くらいの割合で、実年齢よりも若く見られることとなってしまう。


残り一人にしても、ほぼ実年齢通りとして見られてしまうのだ。




しかし、そんな修介から見ても、この一家の容姿は年齢詐欺にも程がある。




上司である翔羽にしても、最初にその年齢を聞かされた時は盛大に驚いてしまったし…


その息子である涼羽に至っては、年齢だけでなく、性別も詐欺と言えるほどだったので、これもまた、盛大に驚いてしまったのだ。




加えて、その娘である羽月の実年齢も、聞いただけで驚いてしまうようなものだった。




「……部長」


「?ん?なんだ?」


「…もしかして、亡くなられた奥さんも、年齢よりもお若い容姿だったんでしょうか?」




興味本位で、聞いてみたくなった…


今は亡き翔羽の妻、水月の容姿。




これだけの童顔遺伝子が集まっているこの一家の一員ならば…


その妻、そして子供達の母親となる人も、相当なものだったのではないのか。




そう思った修介から漏れ出てしまった、問いかけの言葉。




「そうだな…涼羽を見れば一目瞭然だと、俺は言えるね」




そんな修介の問いかけに、さらっと一言、な翔羽。




「え?」


「うちの子は二人共容姿は母親似でな…特に涼羽は俺がびっくりするほどそっくりなんだよ…俺の妻に…」


「!そうなんですか?」


「ああ…今の涼羽の容姿が、ちょうど妻の高校一年生くらいの容姿なんだよ」


「!!じゃあ…」


「さすがに今の涼羽よりは大人びた容姿になってはいたんだが…それでも、せいぜい大学生…人によっては高校生くらいにしか、見られてなかったよ」


「……すごく、お若くて可愛らしい方、だったんですね…」


「そうだな…『綺麗』よりは『可愛い』の方に偏ったバランスだったからな…」




今は亡き妻、水月のことをしんみりとした表情で話す翔羽。


そんな翔羽の話を聞いているだけでも、実際に見たことのない女性である水月のことが想像できてしまう。




今、自分の目の前で、自分の大切な娘である香澄を優しく包み込んでくれている涼羽は…


まさに、その水月に生き写しと言えるほどにそっくりだと言うのだから。




今ここにいる、非常に若作りな父親に、同じく若作りだと言える母親。


そんな二人から生まれた子供達なのだから…


こんな風に、童顔で可愛らしい子供達になってしまうのも、うなづける。




「それに…」


「?それに?…」


「妻は、本当に母性に満ち溢れた女性でな…涼羽が生まれた時なんか、もう全力でその愛情を注いで、可愛がっていたよ」


「…あの涼羽君を見てると、なんとなく分かる気がします」


「だよな…あんな風に涼羽が、妹である羽月を目一杯包み込んで可愛がっているところを見てたら…」


「………………」


「まるで、妻が息子である涼羽に乗り移っているかのように思えてくるんだよ…」




しんみりと、今は亡き妻のことを語り続ける翔羽。


それを、静かに聞き続ける修介。




「羽月も…お前の娘の香澄ちゃんと、同じなんだ」


「?それは、どういう…」


「羽月が生まれたと同時に、妻はその命を落としたんだ…」


「!!そう、だったんですか…」




最愛の妻との入れ替わりで、この世に生を受けた子供達。


ましてや、その子供達が最愛の妻にそっくりであるならば…




修介は、噂にも聞いている翔羽の過剰とも言えるほどの子煩悩の理由を、理解することができた。




ましてや、自分と同じ境遇だから、なおさらのこと、理解できてしまう。




涼羽にしても、物心つく前に母親にこの世を去られてしまったのだから…


母親というものの記憶らしい記憶すらないのだろう。




そんな不憫な子供達が、あんなにも仲良く触れ合って…


特に、兄である涼羽が、本当に母親が乗り移っているかのように…


妹である羽月を優しく包み込んで、可愛がって…


羽月も、そんな兄のことが大好きで大好きでたまらなくて…


文字通りの母親代わりと言える兄にべったりと甘えて…




赤の他人である修介ですら、あの二人が健気で可愛すぎて…


めちゃくちゃに可愛がりたくなってしまう。




もう、なんだってしてあげたくなってしまう。




ましてや、翔羽にとっては…


自身の上司であるこの人にとっては、自分の子供達なのだ。




それはもう、可愛くて可愛くてたまらないだろう。




もう、なんだってしてあげたくなってしまうだろう。




修介も、最愛の妻である忘れ形見の香澄に対しては、それこそなんだってしてあげたくなってしまう。




妻を失った悲しみを、その天真爛漫な可愛らしさで癒してくれる最愛の娘。


自分にとっては、可愛すぎて可愛すぎてたまらない…


命よりも大事な娘なのだから。




だからこそ、嫌と言うほどに分かってしまう。








――――翔羽が、どれほどにあの二人の子供を愛しているのか――――








「…部長は、本当にあの二人の子が、可愛くて可愛くてたまらないんですね」


「…ああ、もう、なんだってしてあげたくて…命に代えても惜しくない、本当に大切な子達だよ」


「…分かります…僕も、香澄が本当に可愛くて可愛くて…命よりも大事な娘ですから」


「…本当に、似た者同士だな、俺達」


「…ええ、本当に」




同じような境遇の二人であるがゆえに…


嫌と言うほどに共感できてしまう上司と部下の二人。




翔羽と修介が、しんみりとお互いを共感し合っている間も…




「えへへ~♪りょうおねえたん、らあ~いしゅき!」


「うふふ…香澄ちゃん、可愛い」


「!お兄ちゃん!わたしもお兄ちゃん大好き!」


「はいはい…羽月も可愛い可愛い」




もう涼羽のことが大好きで大好きでたまらないのか…


その小さな身体を懸命に使って、涼羽の身体にべったりと抱きつき…


すごく幸せそうな笑顔を浮かべながら、涼羽の胸の中で甘え続ける香澄。




そんな香澄が可愛くて可愛くてたまらないのか…


本当に幸せそうな笑顔を浮かべながら、自分の胸の中の香澄をうんと甘やかし続ける涼羽。




香澄の方にばかり意識が行っているのが寂しくてたまらず…


自分も構って、と言わんばかりに涼羽の背中に抱きついて…


懸命に、兄に構ってアピールを続ける羽月。




「む~~~!そんな適当なのだめ!もっとちゃんとして!」


「え~…」




涼羽の対応が少しおざなりな感じがしたのが気に食わなかったのか…


羽月から盛大な抗議の声が上がってくる。




「じゃあ…ん…」




仕方が無いので、自分にべったりと抱きついている羽月の額に目を向けると…


兄である自分とは反対の右側で分かれている、髪の分け目を少し開き…


そのさらりとした髪を少し持ち上げて、露になった額に、その唇を落とす。




「!!」




まさに、母親が子供可愛さにしてしまう感じの、親愛の情がたっぷりの兄の口付け。


いきなりな兄の口付けに、不機嫌モードだった羽月の顔に一瞬驚愕の表情が浮かび上がり…


その直後には、デレデレとした、しまりのない緩んだ笑顔が、浮かんできた。




「……えへへ~♪お兄ちゃんだあ~い好き~♪」




大好きな兄に、額にではあるがその唇を落としてもらえた羽月。


先程までの不機嫌さがまるで嘘の様にご機嫌になり…


兄の腰に回している腕にさらに力を入れてぎゅうっと抱きしめ…


その背中に、自分の顔をぐりぐりと押し付けるように頬ずりしてしまう。




「…ふふ…羽月も可愛い」




そんな妹に喜んでもらえたことで、涼羽の顔にも嬉しそうな笑顔が浮かぶ。


本当に、母と幼い娘のような雰囲気に満ち溢れた、年頃の兄妹のやりとり。


普通に見れば、異常としか思えないほどに仲が良すぎる、涼羽と羽月の兄妹。


しかし、二人の可愛すぎるほどに可愛らしい容姿が、ほのぼのとした穏やかで幸せな雰囲気をかもし出している。




まさに、可愛いは正義、と言える光景となっているのであった。




「りょうおねえたん。わたちにも、ちゅーちて?」


「か、香澄ちゃん?」




そんな兄妹二人のやりとりがうらやましくなったのか…


今度は、涼羽がその腕の中で包み込んでいる香澄が、羽月にしたことと同じことを求めてきた。




いきなりな香澄の舌足らずで可愛らしい言葉に、少し間の抜けた反応になってしまう涼羽。




「りょうおねえたんのちゅー、わたちもちてほちいの」


「か、香澄ちゃん…」


「…らめ?」




涼羽の胸に抱かれたまま、上目使いでじっと涼羽を見つめて、おねだりしてくる香澄。


そんな香澄の、なんとも可愛らしいこと可愛らしいこと。




そんな可愛らしいおねだりをしてくる香澄が、本当に可愛らしくて…




「…ふふ、はいはい」




慈愛の女神のような笑顔を見せながら、香澄の望みどおり…


香澄の小さな額に、そっと唇を落とした。




「えへへ~♪りょうおねえたんが、ちゅーちてくえた~♪」




羽月にしたのと同じ、親愛の情がたっぷりの涼羽の口付け。


そんな口付けをしてもらえて、香澄の顔に天真爛漫で、幸せそうな笑顔が浮かんでくる。




「りょうおねえたん♪」


「なあに?」


「らあ~いちゅき!!」


「ふふ、ありがとう」


「りょうおねえたんは、わたちのこと、ちゅき?」


「うん、大好き」


「えへへ~♪」




お互いに笑顔で、大好きと言い合う涼羽と香澄の二人。


特に香澄の方は、大好きで大好きでたまらない涼羽に、大好きと言ってもらえて…


よりその笑顔に、幸福感が強く浮かんできている。




そんな、可愛すぎる三人のやりとりに、翔羽と修介は…




「ああ~…なんて可愛いんだ、俺の子供達は~」


「ああ~…涼羽君も、香澄も…可愛すぎます…」




仕事の時のきりっとした顔がまるで嘘のように、だらしなく崩れた笑顔となっている。




すでにだらしない顔となってしまっている大人二人。


そんな二人を尻目に、子供達三人のその可愛らしいやりとりは、しばらく続くこととなった。








――――








「はい、お待ちどうさま」




いつまでも玄関でうだうだしてるわけにもいかないので…


涼羽がそそくさと、そこにいた全員をリビングに招きいれ…


自分を除く、翔羽、羽月、修介、香澄をテーブルを囲むように座らせると…


てきぱきと、夕食の準備を始めた。




すでに予定外のお客様となる修介と香澄の分まで追加で作り終えていたので…


後は器によそい、リビングのテーブルに持っていくだけの状態となっていた。




この日のメニューは、翔羽のリクエストであがっていた鳥の唐揚げ…


羽月のリクエストであがっていたクリームシチュー…


それと、一口サイズにカットしたトマトとレタス、そしてスライスしたきゅうりのサラダに…


鮭の切り身の塩焼きというラインナップ。




夕食のメニューを、涼羽がいそいそとテーブルに並べていく度に…


修介と香澄の顔が、思わず綻んでしまっているのが、常に見られた。




「わ~…」


「おいちしょ~」




料理上手で家事万能だということは、翔羽から聞かされていたのだが…


実際に涼羽の手で作られた料理を見て、それが予想以上のものだということが分かる修介。




決して、三ツ星レストランなどで出されるような高級感はないものの…


本当に家庭的で、まさにお母さんが作ってくれる、まさに家庭料理と言える代物。




それも、見てるだけで食べたくなってくるほどに美味しそうなそれを目の当たりにして…


涼羽がどれほどに家庭的で料理上手なのかを、目の当たりにすることができた。




「うん!今日も美味そうだな!」


「えへへ~。今日も美味しそ~」




父である翔羽も、妹である羽月も…


いつものように美味しそうな、涼羽の作ってくれる料理にご満悦の表情。




翔羽も羽月も、いつも涼羽の料理を楽しみにしているため…


外食という考えは全くなく…


常に、晩御飯までには帰れるようにしているのだ。




「はい。これで終わり、と」




キッチンとリビングをいそいそと往復していた涼羽。


その作業も、このターンで終了となる。




お盆の上に、五人分のご飯をよそった茶碗を乗せて、リビングに姿を現したのだ。


まだ三歳の、幼い香澄の分は、その小さな身体に相応の小さい茶碗となっている。


そして、一応の用意として、香澄の小さな手に合いそうな、可愛らしいデザインのスプーンとフォークを持ってきている。




まだ自分ではうまく使えなくて、父親である修介に食べさせてもらっているのかも知れないが…


それでも、あるとないとでは、ある方がいいと思うので…


涼羽が気を利かせて、持ってきたのだ。




「はい、どうぞ。佐々木さん」


「あ、ありがとうございます」


「もし、苦手なものや嫌いなものがあったら言ってくださいね」


「とんでもない。どれも美味しそうなものばかりで…今すぐにでも食べたいくらいです」


「ふふふ…それなら、よかったです」




最初にお客様に、ということで、まず修介のところにご飯をよそった茶碗を置く。


普段から晩御飯を作って食べてもらっている翔羽と羽月の好みは把握しているが…


今回、急遽お客様としてきた修介や香澄の好みは全く知らないので、一応の確認もしておく涼羽。




修介の方からは、少なくともこの日のラインナップはまるで問題なく…


むしろ、すぐにでも食べたい、という言葉まで出てきているので…


その言葉を聞いて、涼羽も安心し、優しい笑顔まで浮かんできている。




「はい、香澄ちゃん」


「あいがと~!りょうおねえたん!」


「ふふ。い~っぱい食べてね」


「うん!」




続いて、もう一人のお客様である香澄のところに、ご飯を置く。


純真で素直なお礼の言葉を、天真爛漫な笑顔を惜しげもなく向けて涼羽に送る香澄。




そんな香澄が可愛らしくて…


ついついその頭を撫でてしまう涼羽。




「はい、お父さん」


「おお、いつもありがとうな。涼羽」


「お父さんこそ、いつもお仕事お疲れ様」


「!!お前は本当に可愛いな~~!!」


「お、お父さん…今日はお客さんもいるんだから…」




そのまま、その流れで父である翔羽のところにご飯を置く涼羽。


そんな甲斐甲斐しい姿を見せる息子に、いつも通りの感謝の言葉を紡ぐ翔羽。




そしたら、その息子、涼羽から、逆に自分を労ってくれる言葉が返ってくるのだから…


それも、優しさに満ち溢れた、可愛らしい笑顔で…




そんな息子が可愛すぎてたまらず、その華奢な身体を抱きしめ、その頭を優しく撫で始める始末。




父である翔羽が、そんな風に自分を可愛がってくれるのは、嬉しくはあるのだが…


さすがに今年十八歳になる息子の自分にそんな風にされると、恥ずかしさの方が大きく上回ってしまう。




それも、この日はいつもはいない、お客様までここにいる状態なのだ。


だから、なおさら恥ずかしくなって、その童顔な美少女顔が恥じらいに染まってしまう。




しかし、同じ父親の立場である修介からすれば…




「(部長…部長がそんな風に涼羽君のことを可愛がってしまう気持ち、嫌と言うほどに分かってしまいます…)」




こんなにもできた、可愛い息子にこんな風に甲斐甲斐しくしてもらえて…


さらには、あんな風に労ってもらえたら…




自分があの立場だったとしても、同じようにめちゃくちゃに可愛がってしまうだろう。




修介は、それを確信してしまうほど、今の翔羽の気持ちが、理解できてしまっていた。




「もう…ちょっとは自重してよね。お父さん」


「いいじゃないか!お前が可愛すぎるのがいけないんだから!」


「!だ、だからそういうことは言わないでって…」


「涼羽、お前は俺にとっては可愛すぎるほどに可愛い、最愛の息子なんだからな!」


「は、はい!この話はもう終わり!」


「ええ~~~……冷たいなあ…お父さんは悲しいよ…」




お客様が見えている前で、いつもみたいに自分を可愛がってくる父をたしなめる涼羽。


しかし、むしろ可愛すぎてたまらない息子が悪いとばかりに開き直ってしまう父、翔羽。




そんな父に対し、半ば強引に話を終わらせ、ぷいとそっぽを向いてしまう涼羽。




そんな仕草もまた可愛すぎるほどに可愛いものとなっていることに、本人だけが気づいていないのだが…




そんな、ちょっと冷たい息子にちょっとへこんでしまうお父さんになってしまう翔羽。


普段の職場での、淡々としながらも圧倒的な能力で仕事を片付ける…


まさに、できる男を具現化した存在である翔羽からは、想像もできないような一面。




翔羽の部下達が、翔羽のこんな姿を見れば、驚愕の渦に巻き込まれることになるであろう…


そんな確信が、修介の中に芽生えてきた。




「はい、羽月」


「えへへ。ありがとう、お兄ちゃん」


「どういたしまして。羽月も、たくさん食べてね」


「うん!お兄ちゃんのご飯、すっごく美味しいから、い~っぱい欲しくなっちゃうの!」


「ふふ…それならよかった」




そして最後に、妹である羽月のところにご飯を置く涼羽。


そんな風に、甲斐甲斐しくしてくれる兄に、いつも通りの感謝の言葉を紡ぐ羽月。




兄である涼羽の作ったご飯が美味しいから、いっぱい欲しくなってしまう、という妹の言葉に…


本当に幸せそうで、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべる涼羽。




「お兄ちゃん可愛い!大好き!」


「!もう…羽月まで…」




そんな兄が可愛すぎてたまらず、べったりと抱きついてしまう羽月。


もうその抑えきれない愛情を、そのままぶつけているかのような妹の行為。




そんな妹に、たしなめるような言葉を漏らしつつも…


結局は、優しく受け止めて、優しく包み込んでしまう涼羽なのであった。

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