第49話 このお家…すっご~い!

「……」

「…ハハハ…ほら、羽月…」

「や」

「…はあ…」


買い物のため、出かけていた父、翔羽が帰ってきてから…

それまで涼羽にべったりと甘えていた柚宇、柚依が、買ってこられたお菓子とジュースに目が向き…

涼羽から一度離れて、そちらに行ったその瞬間。


まさに電光石火と言えるほどの速さで、涼羽の胸に飛び込んでくる小さな影。


もう、これでもかと言うほどに柚宇と柚依が幸せそうに甘えているところを見せ付けられ…

ひたすらにやきもちをやき続けて…

もうすっかり不機嫌モード突入の羽月だった。


そこからは、もう絶対に離さないと言わんばかりに…

兄の胸に顔を埋めて…

兄の華奢な身体にその両腕をまわして…

もうひたすら、それまで見せ付けられていた分を取り返さんとするほどの甘えっぷりを見せている状態だ。


「…羽月。柚宇ちゃんも柚依ちゃんも、羽月と遊びにここに来てくれたんだから」

「や」

「…はあ…羽月…」

「ん~~」


せっかく来てくれた友達を放置してひたすら駄々っ子のように甘えまくる妹をどうにか言い聞かせようとするも…

ここまでで溜まってしまっていたフラストレーションは相当なものだったようで…

もう、涼羽が何を言ってもむずがって離れようとしない状態になってしまっている羽月。


「…なんか、ごめんね。柚宇ちゃん、柚依ちゃん」

「え?」

「え?」

「せっかく羽月と遊びにきてくれたのに、その羽月がこんな状態で…」


そんな羽月の代わりに、と、柚宇と柚依に向けて謝罪の言葉を紡ぐ涼羽。

そんな涼羽に、二人は…


「(やっぱり涼羽お兄ちゃん、すっごく優しい~。それに…)」

「(駄々っ子な羽月ちゃんに困らされてるあの表情…可愛い~)」


…と、涼羽への評価がより高くなってしまっており…

さらには、妹である羽月に困らされっぱなしのその表情を存分に堪能している状態だ。


「気にしないで~、涼羽お兄ちゃん」

「私達、涼羽お兄ちゃんと羽月ちゃんのやりとり見てるだけでも、すっごく楽しいから」

「そ、そお?」

「だって、羽月ちゃんのこんなにも駄々っ子なところ、初めて見たし」

「それに、涼羽お兄ちゃんが私達のこと、すっごく優しく甘えさせてくれたから…」

「私達、すっごく幸せな気分なの」

「…そ、そっか…」


自分の甘やかしが、すっごく幸せな気分にさせてくれたという二人の言葉。

それを聞いて、思わず顔を赤らめてしまう涼羽。


人に褒められるのが苦手な涼羽であるがゆえに…

こういった不意打ちな褒め言葉は特に照れくさくなってしまうようだ。


「あ~、今の涼羽お兄ちゃん、すっごく可愛い~♪」

「恥ずかしがってる涼羽お兄ちゃん、可愛い~♪」


まさに美少女が恥らっているかにしか見えない涼羽の表情。

そんな涼羽を見て、二人の頬が思わず緩んでしまう。


「あ、あんまりそういうこと…言わないで…」


可愛い可愛いと連呼する二人の言葉が、より涼羽の恥じらいを煽ってしまうのか…

ついには、ぷいとそっぽを向いて、二人から視線を逸らしてしまう。


「ん……」


そんな状況でも、胸の中の妹、羽月をしっかりと甘やかしており…

妹の小柄な身体を優しく抱きしめ…

その頭を優しく撫で続けている。


ようやく、といった感じで堪能できている兄、涼羽の甘やかし。

そんな甘やかしに、不機嫌真っ只中だった羽月の表情も、その幸福感に自然と頬が緩んでしまっている。


「すご~い」

「ホントにすご~い」

「高校生のお兄ちゃんに、中学生の妹の組み合わせで、こんなに仲がいいのって絶対にないよ~」

「しかも、二人ともびっくりするくらい可愛いし~」


年頃の兄妹であるにも関わらず、これほどに仲のいい…

それどころか、こんなにも妹の方からべったりと甘えてくるなんて…


しかも、兄も妹も驚くほどの美少女っぷり。


そんな兄妹に、柚宇、柚依の口からは感嘆の声が飛び出してくる。


「そうだろ?ウチの子供達は可愛いだろ?」


そんな声に反応したのは、兄妹の父である翔羽。

誰が聞いても親バカとしか思えないような発言に、二人の視線もそちらに向いてしまう。


「はい!ホントに可愛いです!」

「こんなにも可愛い兄妹なんて、初めて見ました!」


そんな父親の声に同調する、二人の声。


もう、柚宇と柚依の二人も、涼羽と羽月の可愛らしさにメロメロの状態と言える。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。俺は二人の父親で、高宮 翔羽。よろしくね」


そんな柚宇と柚依に、まだちゃんとした名乗りをしていなかったことを思い出し…

そのイケメンな容姿を存分に活かした、爽やかな自己紹介。


だが、そんな紹介を受けた二人の顔に、驚きの表情が貼り付けられる。


「…え?」

「…え?」

「ん?何か、おかしかった?」


そんな二人の反応に、微笑みを浮かべながらも聞き返す翔羽。


「お父さん、なんですか?」

「?ああ、そうだけど」

「え?ホントに?」

「ホントに?といわれても、そうとしか言えないんだがなあ…」


二人の反応に、苦笑いが浮かんでくる翔羽。

まるで、自分が父親だということがおかしい、といわんばかりの反応に。


「…すっご~い!!」

「!?ん?何が?」

「…このお家、すっご~い!」

「ん?」

「だって、こんなにもカッコよくて若いお父さんに…」

「こんなにも可愛い美少女にしか見えないお兄ちゃんなんて…」

「羽月ちゃん、うらやましいよ~」


実際、翔羽の外見年齢はどんなに上に見ても二十台後半~三十台初頭くらいにしか見えず…

涼羽の外見は、並みの女の子よりもずっと可愛い、中学生くらいの美少女にしか見えない。

そして、羽月も学校ではトップクラスと言えるほどの美少女なのだ。


コンセプトの違いはあれど、まさに美形揃いの一家。


柚宇と柚依の父親が年齢相応の中年でメタボなお父さんということもあり…


余計に、この高宮家が羨ましく見えてしまう。


「え?俺、そんなに若くてカッコいい?」

「そうですよ~」

「ちなみに君達からは、俺はいくつくらいに見えてるんだい?」

「私は、二十五歳くらいだと思ってました~」

「あ、私もです~」

「あ、そうなんだ…」

「ちなみに、本当は何歳なんですか~?」

「ですか~?」

「ん?俺、今年で四十三だけど」

「!!」

「!!」


ここでまた、驚愕の事実が発覚したかのような二人の反応。


それもそのはず。


柚宇と柚依の父親は今年で三十九歳。

つまり、中年でメタボで加齢臭漂ってはいるが、ギリギリ三十台なのだ。


ところが、目の前のどう見ても二十台後半くらいにしか見えない人物が、まさかの四十台。

それも、自分達の父親よりも四つも年上なのだ。


普通に見れば、どう見ても自分達の父親の方が年上なのに…

実際には、目の前のイケメンの方が年上というこの事実。


「羽月ちゃんのお父さん、すっご~い!」

「すっご~い!」

「え?え?」

「私達のパパより年上なのに、パパよりもずっと若く見える~!」

「見える~!」

「あ、そうなんだ…」


心底、羽月が羨ましいと思ってしまう二人。


こんな、若くてカッコいいお父さんがいて…

こんな、可愛くて美少女なお兄ちゃんがいて…


「ま、まあ…俺のことはともかく、これからも羽月と仲良くしてやってな」

「は~い♪」

「は~い♪」


翔羽もあまり自身の容姿に自覚がない方である。

特に、その若作りな部分には。


なので、こんな風に騒がれると、反応に困ってしまうところがある。


父のそういった部分は、息子の涼羽に確かに受け継がれている。

息子の方は、自分に厳しいというのもあるが。


「そういえば…」

「そういえば…」

「ん?どうしたんだい?」

「涼羽お兄ちゃんって、今何歳なんですか~?」

「なんですか~?」

「ん?涼羽かい?あいつは今年で十八になるよ」

「!!」

「!!」


ここでまた、驚愕の事実。

なんとなく、気になって聞いてみた涼羽の年齢。


それも、この二人にとっては驚愕のものだったらしい。


現在中学三年生である羽月の兄であるため…

さすがに中学生はないとは思ってはいた。


それでも、びっくりするくらいな容姿なのだが。


それでも、せいぜい一つ上くらいかな、と思っていたのだが…

まさか、三つも年上だったなんて。


それも、もうすぐ大人の仲間入りとなる、十八歳。


つまり、今年で高校を卒業する、ということなのだ。


あんなに童顔で可愛らしいのに…

まさか、もうすぐ大学生、もしくは社会人という…


「涼羽お兄ちゃん、今年で十八だったんだ…」

「あんなに可愛いのに…」

「このお家、すごいね~」

「なんでこんなに童顔な人ばっかりなんだろ…」


父、翔羽はどう見ても二十台後半くらいのイケメンなのに、実際には今年四十三歳。

兄、涼羽はどう見ても中学生くらいの童顔な美少女なのに、実際には今年十八歳。

妹、羽月はどう見ても小学生くらいの童顔な美少女なのに、実際には今年十五歳。


本当に、びっくりするほどの童顔ばかり。

それも、美形揃いと来ている。


特に驚かされるのは、涼羽。


もう車の免許も取りにいける年齢のはずなのに…

それも、男なのに…

あんなにも可愛くて…

あんなにも美少女で…

しかも、あんなにもお母さんで…


年齢どころか、性別すら間違えてしまっている感のある涼羽。


「えへへ~♪お兄ちゃん♪もっとして~♪」

「はいはい、羽月は甘えん坊さんなんだから」


ふと涼羽の方を見てみる二人。


その視線の先には、先程までの不機嫌さが嘘のようにご機嫌になって、ひたすら兄に甘えまくる妹、羽月と…

その妹にたしなめるような言葉を紡ぎながらも、とろけるかのような甘い優しさで目いっぱい甘えてくる妹を包み込み、慈愛の女神のような笑顔を向けてひたすら甘やかす兄、涼羽の姿があった。


「あ~、可愛いなあ…俺の子供達は」


そんな兄妹の姿を見ていたのか、兄妹の父である翔羽から、まさに親バカと言える言葉が飛び出る。


親子水入らずの状態なら、間違いなく涼羽と羽月に飛びついて抱きしめていただろう。


だが、今はお客様が来ていることもあり、じっと幸せそうに眺めるだけに留めている。


「もう、可愛すぎ。あの二人」

「ホントに可愛すぎだよね」

「ぜ~んぜんこっちに気づいてないから、動画とっちゃお」

「うん、そうしよ」


もはや高宮兄妹にとっておなじみとなっている固有結界。

その結界の中でほのぼのとべったりしている兄妹。


そんな二人を、遠慮なくスマホで撮影する柚宇と柚依。


小さなスクリーンの中に映る、あまりにも幸せそうな兄妹のやりとり。

それを見て、頬を緩ませながらも、そのまま一部始終を撮影し続ける二人。


そうして撮影された動画は、当然のごとく『羽月ちゃんのお兄ちゃんに甘え隊』で展開されることとなり…

さらには、若いイケメンなお父さんまでいることが発覚し…

さらには、びっくりするほどに可愛らしくなっている涼羽に頬がとろけてしまうほどデレッとしてしまう隊員達の姿が見られてしまう。


佐倉姉妹が実際に行ってきたことで得た体験談や情報は、『羽月ちゃんのお兄ちゃんに甘え隊』の女子達をおおいに幸せの絶頂に導くものとなるのだが、それはまた別のお話。

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