第46話 お前達が可愛いから、こんなことしちゃうんだぞ!
「えへへ~♪お兄ちゃん、可愛い~♪」
「羽月~…これはいいな!えらいぞ、羽月!」
「えへへ♪」
食事もその後片付けも終え、のんびりとできる土曜の昼下がり。
この家の大黒柱であり、兄妹の父親である翔羽が長い単身赴任から戻ってきた。
その為、兄妹二人っきりだったこの家も、ようやく親子三人で暮らせるようになった。
父、翔羽との十数年ぶりの再開を果たし…
実に十数年ぶりの親子水入らずの状態…
そんなほのぼのとした雰囲気の中…
「うう…」
妹、羽月の嬉しそうな声。
父、翔羽の、娘である羽月を絶賛する声。
そして、この家の長男である涼羽の、この日何度出たのか分からない、恥ずかしがるような声。
父と妹のじっと見つめてくるような視線に晒され…
それに耐え切れず、心底恥ずかしがる涼羽。
それもそのはず。
今の涼羽は、ようやく妹の学校の女子制服から解放されたものの…
その透き通るような白い肌に合わせるかのような、純白で無地の、薄手の長袖トレーナー。
それと、今羽月が着ている、紺色のオーバーオールに身を包んでいる。
つまり、部屋着でも、妹の羽月とのペアルックの状態なのだ。
しかも、それに合わせるかのように髪形まで変わって…
もとい、変えられている。
先程までが、活発さと可愛らしさを併せ持つ…
大きなリボンによるポニーテールだった。
それが、頭の左右でひとつずつ結ばれている…
俗に言う、ツインテールとなっている。
しかも、これもまたアクセントとして、大きな白のリボンで結わえられた…
ひたすらに可愛らしさを強調するコーディネイトとなっている。
そのままだと野暮ったさを強調する前髪も、変わらず羽月セレクトの可愛らしい花形のヘアピンに留められていて、女子らしい可愛らしさが滲み出ている。
オーバーオールとなったため、その綺麗過ぎる脚の露出はなくなっているが…
それにより、子供っぽい可愛らしさが溢れんばかりに発揮されている。
「可愛い~♪もう!なんでこんなに可愛いの?お兄ちゃん」
そして、その仕掛け人である羽月も、兄、涼羽に合わせたツインテールとなっている。
ただし、今の涼羽ほど髪が長くない羽月は、お団子サイズのショートツインテールの状態だ。
まさに、ツインテ姉妹…ならぬ、ツインテ兄妹。
しかも、ほぼ同じコーディネイトのオーバーオール姿。
こんなにもペアルックが似合う兄妹なんて、誰もが、『どこにいるんだ!』と言ってしまうだろう。
しかも、どちらもどこに出しても恥ずかしくない美少女っぷり。
まさに美少女姉妹…ならぬ、美少女兄妹。
そういえるほどに、美少女っぷりが溢れ出している二人だった。
「は…羽月の方が可愛いよ。俺は男なんだし、可愛くなんて…」
女子が見れば、誰もが羨んでしまうほどの美少女な状態であるにも関わらず…
自分は可愛くない、なんて言い出す涼羽。
もうその美少女顔は恥ずかしさに満ち溢れ…
常に真っ赤に染まっている。
「もう!お兄ちゃん可愛すぎ!だあい好き!」
そんな兄、涼羽が可愛くてたまらなくなっている妹、羽月。
そんな兄への愛情が溢れ出てしまい…
ついつい、いつものようにべったりと抱きついてしまう。
「えへへ♪お兄ちゃん♪」
その幼さが色濃い容姿もあり、まさに天使のような愛らしさの羽月。
そんな可愛い妹が、べったりと嬉しそうに兄の胸にその顔を埋めて抱きついている。
自分にとって可愛い妹、羽月がいつものように抱きついてきて、涼羽は…
「…ふふ、可愛い…」
いつものように、慈愛に満ち溢れた笑顔が、その顔に浮かんでくる。
そして、いつものように右腕で優しく妹の身体を抱きしめ…
左手で、妹の頭を優しく撫で始める。
そんな涼羽の姿は、いつものように母親としての、母性に満ち溢れた姿。
そんな兄の母性的な愛情に包まれた羽月は…
「お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪」
心底嬉しそうな、天真爛漫な愛らしい笑顔で、べったりと兄の胸に抱きついている。
羽月の方は、まさに母の胸に抱かれる幼い娘。
涼羽の方は、幼い娘を胸に抱く若い母親。
もはやいつも通りとなっているこの光景。
高宮家恒例の、兄妹のべったりな愛情表現。
しかし、今ここには、このやりとりを初めて目の当たりにする人物が、いる。
「おお…」
長い単身赴任から帰ってきたばかりの父、翔羽。
べったりと兄、涼羽に甘える羽月の姿。
妹、羽月を優しく甘えさせる涼羽の姿。
その光景を見て、思ってしまう。
――――水月だ――――
今の涼羽の姿は、生まれたばかりの涼羽を優しく包み込んでいた、今は亡き妻…
水月の姿そのものだった。
自分にとって初めての…
生まれたばかりの、愛らしい息子、涼羽。
その息子を、とろけるような愛情で包み込む妻、水月。
あの時の光景が、鮮明に思い出せる。
娘である羽月が生まれてすぐに亡くなってしまった水月。
そのため、羽月は母親がいない、という…
とても不憫な思いをさせてしまっていた。
まして、そんな時に一緒にいてあげることも叶わなかった自分。
あの時、水月の最期の言葉が、鮮明に脳裏によみがえってくる。
――――ああ…涼羽にも…今生まれたあの子にも…もっとお母さんとして…接して…あげた…かった…――――
子供が大好きで大好きで…
我が子が可愛くて可愛くてたまらなかった水月。
今際の時にも、その強い想いだけを遺して、逝ってしまった水月。
そんな、母を知らない羽月を護っていてくれたのは、間違いなく羽月の兄である涼羽だった。
それも、ただ護ってくれていただけではなかった。
――――まるで、母である水月が乗り移ったかのように、羽月に母親として接してくれていた――――
羽月の、涼羽に甘える無邪気で幸せそうな笑顔。
それを見ているだけでも、分かってしまう。
涼羽が、どれほどその母性で羽月を優しく包み込んで、愛情を注いでいてくれているのか。
妻、水月がこの光景を見たら、どれほど喜んでくれるだろう。
男であり、兄である涼羽が、これほどに『母』として妹に接することができるなんて。
――――まるで、母である水月の想いを果たすかのように――――
たまらない。
抑えきれない。
こんなにも、羽月に母親として接してくれた涼羽の健気さ。
兄であり、今となっては母親でもある涼羽に嬉しそうに、幸せそうにべったりと甘える羽月の表情。
そんなほのぼのとした、幸せそうな雰囲気、そして光景。
自身にとって、目に入れても痛くないと豪語できるほどに可愛い子供達。
その子供達が、こんなにも仲良く、愛情に満ち溢れた光景を見せてくれるなんて。
もう目の前の息子と娘が、あまりにも可愛すぎて…
「涼羽~~!羽月~~!」
その長い腕で、二人の子供をぎゅうっと抱きしめてしまう翔羽。
「むぎゅ…」
「わ!…お、お父さん…」
いきなり抱きしめられて、少し苦しそうになってしまう羽月。
いきなり抱きしめられて、驚きの表情になってしまう涼羽。
そんな子供達も可愛いのか、べったりと二人を抱きしめる翔羽。
「ああ~…俺は本当に幸せだ~…」
「?お父さん?」
「お前たちのような、心底可愛い子供達がいてくれて…本当に幸せだよ~…」
「!お、お父さん…」
「!えへへ♪」
翔羽の口から紡ぎだされる、子供達への抑えきれない愛情。
さらには、その可愛い子供達に頬ずりまでしてしまう。
そんな父に、涼羽は恥ずかしそうに頬を赤らめ…
羽月は、父の真っ直ぐな愛情に頬を緩めてしまう。
「水月~…俺達の子供は、こんなにも可愛らしく、いい子になってるぞ~…」
最愛の妻の名を呼びながら…
その目からうっすらと涙を流しながら…
心底自分の子供達が可愛らしくいい子に育ってくれたことを喜ぶ翔羽。
そんな翔羽を見て、涼羽は…
「…お父さん」
「?涼羽?」
「…ありがとう…」
「??」
「いつもそんなに俺達のこと、大好きでいてくれて…」
「!!」
恥じらいの色を残しながらも…
父の自分達に向ける愛情が嬉しくて…
自身の母である水月そっくりの、優しい笑顔で…
父、翔羽を見つめる涼羽。
そんな涼羽に、思わず驚きを見せる翔羽。
「…俺も、羽月も…お父さんのこと、大好きだよ」
「うん!お父さんも、大好き!」
「…涼羽…羽月…」
「お母さんがいないの、お父さんはすっごく寂しいと思うけど…」
「!…」
「…俺と羽月が、お母さんの代わりにそばにいるから…」
「!涼羽…」
「だから…」
元気を出してほしい。
笑顔になってほしい。
そう続けようとした涼羽の声が、あがることはなかった。
なぜなら…
「涼羽~~~~!!」
涼羽のその唇を、翔羽がその唇で塞いでいたから。
「!!」
愛情が暴走してしまった感のある翔羽。
暴走してしまった愛情が、涼羽の唇を奪ってしまう、という行為をさせてしまったようだ。
唇を覆って、触れるだけの親愛のキス。
時間も、ほんの一瞬と言えるほど、短い時間ではあるが…
実の父にそんなことをされてしまって、涼羽の意識が混乱の渦に引き込まれてしまう。
「お、お父さん…」
「涼羽!!お前はなんでこんなにも可愛いんだ!!本当に!!」
「だ、だから俺は男だって…」
「もう絶対に嫁に行かせないからな!!お前たちは!!」
「!俺、男だって言ってるでしょ!」
「ああ~もう!可愛いなあ、羽月も!」
その暴走した愛情の矛先は、娘である羽月にも向いてしまう。
そして、その羽月の唇にも、涼羽にしたような親愛のキスをしてしてまう。
「!」
ほとんど触れるだけの、一瞬のキスではあるが…
それにどれほどの愛情が込められているのだろう…
「羽月~~!!ああ~、可愛いなあ!!本当に!!」
「…えへへ」
とにかく可愛い可愛いと、羽月を可愛がる翔羽。
そんな父の愛情に、最初は驚いたものの…
羽月の顔に、嬉しそうな笑顔が浮かんでくる。
「涼羽も、羽月も、可愛すぎて…ああ~俺は本当に幸せだ!!」
「えへへ~♪お父さんに褒められちゃった♪」
「だから俺は男だから…可愛くなんて…」
「何を言ってるんだ!この可愛いの化身め!」
「!ちょ、ちょっと…」
どこまでも強情な涼羽に、さらなる翔羽の愛情攻撃が…
もうこれでもかというほどに涼羽にべったりと抱きつき…
さらにはその頬にキスの雨まで降らせる始末。
もちろん、涼羽だけでなく…
べったりと涼羽に抱きついている羽月にも、キスの雨を降らせる。
「ほら!ほら!分かったか!涼羽!お前がどれほど可愛いのか!」
「な、何言ってるの!お父さん!」
「お前がこんなにも可愛いから、お父さんこんなことしちゃうんだぞ!」
「そ、そんなの知らないよ!」
「涼羽…そんな強情なところも可愛いなあ!」
「だ、だから可愛くなんて…」
「羽月!お前も本当に可愛いなあ!」
「えへへ~♪ありがと~♪」
「そんな可愛い羽月にも、こうだ!」
「きゃ~♪お父さんくすぐったいよ~」
翔羽の愛情が、これでもかというほどに暴走してしまっている状態だ。
涼羽にも、羽月にも、ひたすらにキスの雨を降らせ、まるで幼子に接するかのようにべったりと抱きつき…
ひたすらに、可愛がっている。
これまでずっと一緒に入れず…
ずっと離れ離れだった十数年分の愛情…
それが、一気に爆発してしまっている。
どこに出しても恥ずかしくない…
むしろ、どこにも出したくない最愛の息子と娘…
そんな父の愛情を…
涼羽はひたすら恥ずかしそうに…
羽月はひたすら嬉しそうに…
その身に、受け続けることとなった。
そんな親子三人のほのぼのとしたやりとりが、この土曜の昼下がりにしばらく続くこととなった。
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