第40話 もう可愛すぎて、絶対離したくない!!
「ね、お姉ちゃん」
「?なあに?」
「今日のご飯は何にするの?」
「ん~…じゃあお昼はパスタ、晩御飯はカレーにしよっか」
「!パスタとカレー!わ~い♪」
「ふふ」
いつもの商店街に続く、住宅が集中している道。
商店街以外では、これといったところがない、閑散とした道なり。
しかし、それでも週末の土曜ということもあり、人通りはそれなり。
そんな中、一組の美少女姉妹が、そんな通りがかりの目を惹いている。
片方は、小学生くらいの小柄で、幼さの色濃い娘。
童顔ではあるが、非常に整った造詣で、まさに美少女と言える容姿。
もう片方は、小さい方の娘と比べると、頭一つ分は高い身長。
ただ、小さい方の娘が小柄すぎるだけで、実際には普通の女の子と変わらない身長。
こちらもまた、童顔だが非常に整った造詣の美少女顔で、中学生くらいの美少女と言える容姿。
そんな人の目を惹く容姿の二人が、仲睦まじく寄り添い合ってまるで母娘のようなほのぼのとしたやりとり。
そんな二人が、周囲の関心を奪っている。
そんな二人が、周囲の心をおおいに和ませている。
同じ制服に身を包んでいることから、同じ学校に通っている姉妹だと思われるこの二人。
実際には、『姉妹』ではなく、『兄妹』なのだが。
妹のお願いで妹と同じ学校の女子生徒の制服に身を包み、完全無欠の美少女と化している兄、涼羽。
その妹とお揃いの制服で、仲良く食材の買出しに出かけているところ。
妹である羽月は、小学生と思えるほど幼い容姿でありながら、実際には来年高校生の女の子。
兄である涼羽の方は、中学生くらいの美少女に見える容姿でありながら、実際にはもうすぐ大人の仲間入りを迎える、現在高校三年生の男の子。
そんな天然アンチエイジングな兄妹が、ほのぼのとした和やかな雰囲気で足を進め…
目的の場所である商店街に、向かっているところ。
そんな兄妹の仲睦まじい様子を、一部の周囲の人間に撮影されていることも気づかず…
ある男性は、そうして撮影したものを携帯の待ち受けにしている。
ある女性は、動画として撮影したそれを、心が荒んでいる時に見て癒されるようになる。
ある男性は、『超絶な美少女姉妹発見!』という題目で、知人友人にメールで転送してしまう。
今回のこの件で、今の美少女な涼羽、そしてその妹である羽月がこの町全体で認識されることとなってしまい、それによって今後、いろいろな出来事に巻き込まれてしまうこととなるのだが、当の本人達は、そのことを知る由もなかった。
――――
一度兄妹特有の固有結界ができてからは、周囲のことなどまるで気にも留めることがなくなっていた涼羽。
妹である羽月がべったりと寄り添ってくるのをとろけるような優しさで甘やかしつつ…
今は目的の場所である商店街へと、足を踏み入れている。
そして、最初に来たのが、いつもの御用達としている、精肉店。
こじんまりとしていて、お世辞にも大きいとは言えない、自営業の店。
しかし、それでいて外装、内装そのものは清潔感に満ち溢れており…
取り扱っている商品も確かな流通ルートを持っており、質も価格も上等と言えるもの。
こういった近隣密接型の商店街の中にある、隠れた名店のひとつと言えるところだ。
ゆえに、涼羽もこの店を気に入っており…
肉を買うときは、必ずここで購入するようにしている。
「は~い、いらっしゃい!」
客が来たことに気づき、応対として出てくるのは、この店の主人と言える人物。
そして、この店の人気の要因ともなっている人物である。
年齢は、当年とって二十五歳。
衛生面から被っている調理帽の中の髪は、さらりとして真っ直ぐな、肩過ぎまでの艶のいい黒。
全体的にスレンダーで引き締まっているが、その胸部は大きすぎず、小さすぎずの絶妙のバランス。
身長も女性にしては高いこともあり、モデル風のプロポーションである。
愛想のいい、人懐っこさに、人の目を惹きつける、整った造詣の顔立ち。
ふんわりとした、垂れ気味の目に、おっとりとした雰囲気の美人。
左目の下の泣きボクロが、チャームポイントのひとつ。
一見トロそうに見えて、受け応えはハキハキとしており、動作も軽快な、明らかな『できる人』。
この若さで、一人でこの精肉店を切り盛りしており、この商店街でも評判の美人。
この『若江精肉店』の女主人である、若江 京子(わかえ きょうこ)。
どうして一人で精肉店なんかやっているのだろう…
周囲にそう思わせてしまうほどに、美人で有能な女性である。
「あら~、今日はずいぶんと可愛らしいお客さんね!」
客として出迎えたのが二人の美少女ということで、思わず京子の顔も緩む。
京子自身、可愛いのは物でも人でも大好きと言える性分。
その大好きな可愛い女の子達がお客さんなのだ。
京子の頬が緩んでしまうのも致し方ないといえる。
「えへへ♪こんにちは♪」
羽月が、天真爛漫な笑顔を惜しげもなく京子に向ける。
羽月自身もそれほど人懐っこいわけではないのだが…
今は超絶美少女な兄、涼羽がそばにいてくれていることもあり、自然と笑顔が溢れてしまっている。
「まあ~♪なんて可愛いのかしら」
ちなみに普段から涼羽一人で買い物を済ませてしまっていることもあり、羽月はほぼこの商店街に来ることがない。
母親は物心付く前に死別しており、父親は単身赴任の状態。
そのため、兄妹二人暮らしということもあり、極力無駄な出費をしないようにと、高宮家のサイフの紐は涼羽が握っている。
そのため、買い物は自ずと涼羽の役目となってしまうのだ。
なので、羽月としては実質、初めてこの商店街で買い物することになる。
そんな羽月を初めて目の当たりにした京子。
初めて見る羽月の可愛らしさに、もうデレデレの状態だ。
「いらっしゃい♪今日は、何がいるのかな~?」
羽月の容姿が幼さの色濃いため、自然とこういった対応になってしまっている京子。
もうすでに頭を撫でたくてたまらなくなってしまっているのだが、そこをグッとこらえて、お客様への対応をしている。
「ほら♪お姉ちゃん♪」
問いかけられた羽月が、頬を羞恥に染めて俯いている涼羽を促す。
実際に店の前まで来て、兄妹の固有結界が解除された途端に、周囲の目を自覚してしまったため、今は恥ずかしさで前をまともに見ることもできずにいる涼羽。
女装している状態ということもあり、人一倍恥ずかしがりやな涼羽としては、今の姿を見られることがたまらなく恥ずかしいということなのだ。
だが、それだけではない。
「あら、こっちの娘がお姉ちゃんなの。ねえ、こっち向いて?」
「…うう…」
この精肉店は、涼羽が普段から御用達としている店。
つまり、この女店主である京子とも、面識があるということだ。
顔見知りである京子に、今のこの姿を見られている…
それが、涼羽の羞恥をより膨れ上がらせてしまう。
俯き、そっぽを向いて頬を朱に染めている姿が可愛いのか…
そんな姿を見ているだけでも、京子の可愛いもの好きの心が満たされていく。
左の方を向いているため、前髪に覆われた右半分しか視界に映っていない状態。
つまり、涼羽の顔はまだちゃんと見られていない状態なのだ。
せっかくなんだから、その顔も見ておきたい。
そんな思いが、京子の手を動かさせてしまう。
「ほら♪こっち向いて?ね?」
店のカウンターから乗り出すようにし、そのすらりと細い腕を涼羽の方に伸ばし…
両手で涼羽の小さな顔をそっと挟み込むと、くいっと、自分の方へと涼羽の顔を向けさせてしまう。
「!あっ!…」
突然の京子の行動に、不意を突かれた形となってしまった涼羽。
その羞恥に色濃く染められた顔が、京子の方へと向けられてしまう。
「あら…」
そして、その顔を見て、京子の顔が一瞬怪訝なものとなる。
どこかで、見た顔なのだ。
そのせいで、少し混乱してしまう京子。
その顔は、確かに見覚えがある。
でも、この顔の子は、確か男の子だったはず。
間違っても、女の子の服を着るような趣味の子ではなかったはず。
可愛いもの好きの京子のこと。
一度目にした可愛いのは、忘れることはない。
この子は、顔は確かに美少女と言えるくらい可愛かったけど、男の子で間違いないはず。
だからこそ、確認の意味も込めて、京子が記憶にあるその名を口に出す。
「…もしかして、涼羽ちゃん?」
「!!」
京子は、野暮ったい前髪の下に隠されている涼羽の素顔を知っている。
それは、以前の風の強い日に涼羽が買い物に来た時。
その時の強い風のおかげで、涼羽の前髪が大きく開かれ…
その下のはっきりとした造詣が、目の当たりとなってしまったからだ。
それを目の当たりにしてからというものの…
顔を見られることを恥ずかしがる涼羽に、その顔を見せて欲しいと、毎回詰め寄るようになったのだ。
当然、涼羽は嫌だと激しく抵抗したのだが…
――――見せてくれたら、お肉サービスしてあげるから――――
…という京子の一言が、この抵抗を儚いものとしてしまい…
根が倹約家な涼羽としては、散々迷いながらも、家計の応援になるのなら…
ということで、嫌々ながらも顔を見せることにしたのだ。
それからというもの、この店に来る度に涼羽はその素顔を京子に思う存分見られ…
京子はその対価に涼羽に肉のサービスをするという…
妙な持ちつ持たれつの関係を築くこととなってしまった。
余談だが、当然ながらこの件については二人だけの秘密ということとなり…
こんなことが行われていること自体をお互いがしっかりと秘匿している。
「~~~あ、あの…あんまり、見ないで…ください…」
ここでシラを切る、という選択肢もあったはずなのだが…
そういう点で融通が利かないのが涼羽なのである。
まあ、見る側の京子の方がこの涼羽の顔をしっかりと脳内に刷り込んでしまっているため、ごまかしはまず利かないのだが。
そして、京子の方はというと…
「………」
普段から思う存分自分の可愛いもの好きの欲求を満たしてくれている存在である涼羽の、美少女と化した姿。
それを目の当たりにして、もうどうしようもないほどに心がざわめきだしている。
そして――――
――――ぷつん――――
――――何かが、切れた音が、した。
「~~~~可愛い!!可愛すぎるよ~!!」
カウンターから文字通り飛び出してきた京子が、もうたまらないと言わんばかりに涼羽をすっぽりと自分の腕の中に抱きしめてしまう。
ちなみに、京子の方が少しだが涼羽よりも身長が高いため、涼羽を見下ろし、包み込む形となっている。
「!!ひゃっ…きょ、京子さん…やめて…」
いきなり抱きしめられてしまった涼羽の方は、完全パニック状態。
しっかりと抱きしめられて身動きをとることもできず…
せめてもの抵抗が、この声での儚い懇願。
それが、火に油を注ぐ行為であることなど、気づく由もなく。
それに追い討ちをかけるように、少し潤んだ瞳での、上目使い。
「!もう!涼羽ちゃんったら!こんなに可愛くなっちゃって!」
離すどころか、よりべったりと抱きついてきてしまう始末。
しかも、そのすべすべの頬に頬ずりまでしてきている。
理想が服着て歩いてきた。
今の京子の心境は、まさにこれであろう。
「だめ~!おに…お姉ちゃんはわたしの!」
そんな京子に対抗心が芽生えてしまったのか。
ついには羽月まで涼羽に抱きついてくる始末。
もうこれでもかというくらいに、べったりと。
しかし、そんな羽月も、京子の可愛がりの対象となることを、本人は知らない。
「あ~もう!二人揃って可愛すぎ!もうぎゅってしちゃう!」
ついには羽月までもが京子の餌食となり…
涼羽もろとも、羽月までもが京子の腕にぎゅうっと抱きしめられてしまう。
「むぎゅ…」
「お、お願いだから…やめて…ください…」
「だめ!もう離してなんかあげないんだから!」
もはや周囲のことなど微塵も頭にない京子。
可愛さの化身とも言えるこの高宮兄妹を抱きしめて可愛がり…
思う存分、自らの欲求を満たすこととなるのだった。
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