第32話 涼羽ちゃん…ちょうだい♪

「涼羽ちゃん…もっと…」

「ふふ、はいはい…」


週始めの月曜の昼休み。

この時間帯には、まず人がいないであろう、体育倉庫の中。


内側から鍵がかけられているこの密室。

その中で、敷かれたマットの上に身体を横たわらせている少年。

その少年の上に覆いかぶさるように抱きつき、べったりと甘えている少女。


高宮 涼羽と、柊 美鈴の二人である。


もう一度言うが、状況は密室。

しかも、年頃の男女が二人っきり。


にも関わらず、こんな間違いや色事と無縁な…

それでいて、とても甘く…

それでいて、とても優しい雰囲気。


押し倒される形で、上から美鈴にべったりと抱きつかれている涼羽。

その涼羽の手が、美鈴の頭を優しく撫で続けている。


もともとの造詣もあり、まるで女神のような慈愛に満ちた…

可愛らしく、優しい笑顔を見せる涼羽。


そして、その顔を目の前の美鈴に向け続けている。


そんな涼羽を見る度に、美鈴の涼羽に対する愛情が高まっていく。

そんな涼羽にこうして甘えさせてもらう度に、美鈴の涼羽に対する愛情が膨れ上がっていく。


母の胸の中で、優しく包み込まれている幼子。


まさにそれを思わせる、ふにゃりとした幸せそうな笑顔。


美鈴の顔には、ずっとその笑顔が浮かんでいる。


「ふふ…美鈴ちゃん、可愛い」

「!ほんと?」

「うん。美鈴ちゃんって、こんなに甘えん坊さんだったんだね」

「誰にでもじゃないもん」

「?」

「涼羽ちゃんだから、こんなにも甘えん坊になっちゃうんだもん」

「………」

「だから、もっとぎゅってして?もっと、なでなでして?」

「…ふふ…可愛い可愛い…」


べったりと自分に甘えてくる美鈴が可愛くて、優しげな言葉がその唇から音として紡いでしまう涼羽。

そんな涼羽の言葉に、美鈴はさらに嬉しそうな顔を浮かべる。


他の人間には、決して見せることのない、美鈴の甘えん坊な姿。

それを見せるのは、目の前にいる…


自分にとって、今この世で一番大好きな人だけ。


そんなことを言ってくる美鈴がより可愛らしく見えて…

もっとべったりと甘えてくる美鈴がより可愛らしく見えて…


よりとろけるような優しさで、美鈴の頭を撫で…

よりその慈愛で包み込むように、美鈴の身体を抱きしめる。


とても、密室で二人っきりの状況下にいる、年頃の男女のやりとりとは思えない…

そのほのぼのとした、とろけるように甘く優しい雰囲気。


周囲から見れば、ぽやぽやとした、色気のかけらもないその光景。


しかし、それでいてとても幸せそうな光景。


「ねえ、涼羽ちゃん」

「?なあに?美鈴ちゃん?」


鼻と鼻が触れ合うほどの至近距離での、美鈴の甘えた感じの呼びかけ。

その呼びかけに、優しく声を返す涼羽。


すでにお母さんモードにスイッチしている涼羽の、その優しく甘やかな声。


それを向けてくれていることに、美鈴はさらに喜びを感じてしまう。


「あのね…」

「うん?」


どことなく、恥らうかのような…

どことなく、ためらうかのような…


そんな、美鈴の声。


そんな声にも、その優しげな笑顔を崩すことなく、次の言葉を待つ涼羽。


しかし、美鈴の次の言葉で、涼羽はその表情を崩すこととなってしまう。


「私、涼羽ちゃんのおっぱい欲しい」


涼羽にとっては、予想だにしていなかったまさかの要求。

しかし、言った美鈴もさすがに恥ずかしかったのか、その頬を朱色にうっすらと染めてしまっている。


「!!え……」


言われた涼羽の方は、先程までの笑顔が崩れ…

戸惑いの表情となってしまっている。


「涼羽ちゃんのおっぱい、すっごくおいしくて…」

「え…え…」

「涼羽ちゃんのおっぱいちゅうちゅうしてる時、すっごく幸せだったの」

「あ、あの…」

「お願い、涼羽ちゃん」

「み、美鈴ちゃ…」

「…だめ?」


まさか、自分の妹と同じことを求めてくるなんて。


美鈴のそんな要求に、涼羽の戸惑いはどんどん膨れ上がってしまう。


そんな涼羽を置いてけぼりにする勢いで、美鈴は言葉を紡ぎ…

最後には、じっと見つめながらの懇願。


ああ、だめだ。

そんな風にお願いされたら…


もうこの時点で、涼羽の抗う術はなくなってしまったも同然。


涼羽のお母さんな本質が、このお願いを無碍に断ることをさせてくれない。

涼羽のお母さんな本能が、このお願いを聞き入れてあげたいと、抗うことを許さない。


涼羽にとってはあまりにも恥ずかしい行為になるのだが…

どうしても、抗えない。


「…い、いいよ…」


だから、羞恥に頬を染めながらも、肯定の言葉をその唇が紡いでしまう。

これからどうされるのか。


普段から妹に求められ…

最近ではそれが当然と言わんばかりに、半ば無理やりその華奢な上半身をむき出しにされ…

妹の気の済むまで、その胸に吸い付かれてしまう。


あの行為を、この目の前のクラスメイトにもされる…


そう思っただけで、涼羽の羞恥は爆発的に膨れ上がってしまう。


なのに、抗えない。

なのに、無碍にできない。


高宮 涼羽という少年は、本当にお母さんな性分なのだろう。


「!ほんと!?」


そして、そんな涼羽の受け入れの言葉を聞いた美鈴の表情が、ぱあっと明るくなる。


あの幸せを、また味わえる。

そう思っただけで、美鈴の表情がふにゃりとしてしまう。


それに、今の時点でこれでもかと言うほどに恥ずかしがっている涼羽の姿。


そんな涼羽が、心底可愛らしくて…


そんな涼羽の顔を見るだけで、むちゃくちゃにしてしまいたくなる。


「…う、うん…」

「えへへ~♪ありがとう!涼羽ちゃん!」

「…うう…」


される前からすでに恥ずかしいのか、すでに耳まで真っ赤にしている涼羽。

その様子は、まさに犯罪的な可愛らしさに満ち溢れている。


そんな涼羽が心底可愛くて、美鈴の顔にまた幸せが浮かんでくる。


「えへへ♪涼羽ちゃんのおっぱい♪」


すでに了承の言葉はもらっている。

あとは、そのやりたいことを実施するだけ。


そして、それを実施するためには邪魔以外の何物でもない…


涼羽の上半身を覆う、その制服。


学校指定のそのブレザーの前を開き…

その中の、真っ白なブラウスの前も開き…


きっちりと着込まれた制服の前が、お腹の方まではだけられ…


涼羽の華奢な胸を覆う、白のタンクトップが、外気に晒される。


「…うう…恥ずかしい…」


妹にこうして上半身をむき出しにされるのも、非常に恥ずかしかったのだが…

それを他人であるクラスメイトにされるのは、これまた一層に恥ずかしいものがある。


その懇願を受け入れてしまったゆえに、抗うこともできず。

かといって、自分から脱ぐなんてこともできない。


今、容赦なく自分に襲い掛かる羞恥から目をそらすかのように…

その恥ずかしさに満ちた、男とは思えないほどの美少女顔をそらしてしまう。


「(!ああ~…恥ずかしがってる涼羽ちゃんって、ほんとに可愛い~!!)」


そんな涼羽が、心底可愛くてたまらない美鈴。

そんな涼羽を見てしまって、その手の動きがよりせかせかとなってしまう。


そして、涼羽の身体を覆う最後の砦となってしまっている、そのタンクトップ。

それに手をかけ、上の方までゆっくりとめくりあげていく。


「…あうう…」


じょじょにめくりあげられていくタンクトップの下。

そこから、涼羽の細い腰が見えてくる。


女性のようにまろやかで、それでいて無駄のないお腹。

そして、まるでくびれているかのような、細い腰。


羞恥に耐え続ける涼羽をさらに辱めるかのように、美鈴の目は、じっとそこを見ている。


「(すっご~い…男の子なのに、ほんとに細くて、それでいて綺麗…)」


女の子である美鈴から見ても、本当に綺麗で細い、涼羽の腰。

こうしてじっくりと見てみると、本当によく分かる。


年頃の男子でありながら、無駄毛など皆無と言えるその肌。

肌も、すべすべでみずみずしく。

正直、男の肌とは思えないほど。


そして、さらにタンクトップがめくりあげられ…


その華奢で、それでいて柔らかな胸までが外気に晒されることとなってしまう。


「(は、恥ずかしい…)」


男子の胸というには、何かが違う。

男子の身体のような、筋張った固い感じがなく…


どちらかといえば、女子のような、丸みと柔らかさを帯びた感じの身体。


性別は確かに男なので、胸のふくらみなどは一切ないのだが…

ただ、そのふくらみを取り除いただけともいえる、その胸。


いうなれば、『男子の胸』というよりは、『大きさが残念な女子の胸』といった感じなのだ。


その胸の中にある、ぽつんと自己主張している、桜に色づいたその飾り。


それこそ、今の美鈴が最も欲しいと思っているところ。


「じゃあ、いただきます」


目で、涼羽のその身体をしっかりと堪能し、すでにご満悦状態の美鈴。

そして、今度は味覚、そして触覚で、涼羽の身体を味わうこととなる。


美鈴のその唇が、涼羽の右の飾りを覆い、隠してしまう。


「!ふうっ!…」


その感覚に、涼羽の唇から甘い声が漏れ出てしまう。


しかし、ここは自宅という、私的な空間ではなく…

学校という、公的な外の空間。


いかに密室で、相手がそれなりに気心の知れた美鈴であるとはいえ…

いうなれば、外で自らの肌を晒しだされ、さらにはその胸に吸い付かれていることに変わりはないのだ。


その事実が、涼羽の身体をより鋭敏にしてしまう。

そして、その背筋を直接なぞられるかのような感覚を、より過敏に感じてしまう。


外の空間でそんな様子を晒し…

さらには、普段は絶対に出すことのない甘い声を漏らしてしまっている。


それが耐えられないのか、涼羽は思わず片手で口を押さえてしまう。


「ん…ちゅうっ…」


そんな涼羽の胸をより味わうかのように…

自らの唇で覆ったそれに、さらに吸い付いていく。


「!んんっ!」


その瞬間、涼羽の身体がびくんと大きく震え上がる。

手で押さえている口から、くぐもった声が漏れ出てしまう。


恥ずかしい。

恥ずかしくて、たまらない。


今の自分が、どれほど羞恥に顔を染めているのか。


想像したくもない。


その思いから、涼羽は顔を美鈴からそらし続けている。


そんな羞恥に染まった顔を、見られたくない。


その思い、一つで。


しかし、まだ始まったばかりの状態。


すでに際限なく羞恥に襲われている涼羽。


その涼羽に、美鈴がより甘えてくる。


そんな二人のこのやりとりは、まだ、始まったばかり。

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