第29話 恥ずかしい…けど、なんか…嬉しい…

「んっ…ふあっ…」


涼羽の声が、その整然とした部屋の中に淡く響く。


恥じらいを思わず声にしてしまったかのような、そんな音が。


そんな声を漏らしてしまう自分に、さらに羞恥を覚えてしまう。


露にされてしまった胸に、二人の人物が、目いっぱい甘えるかのように吸い付いている。


一人は、涼羽の実の妹である羽月。

一人は、涼羽のクラスメイトである美鈴。


まさに母の胸に甘える幼子のように、涼羽の胸に顔を埋め…

ただひたすらに、その飾りを口に含み、吸い付く。


ただそれだけの行為。


なのに、感じてしまうのは、いいようのない幸福感。

なぜかは分からないが、口の中にほんのりと浸透する、どことない甘さ。


それらが、彼女達を夢中にする。


涼羽が羞恥に頬を染めるその姿が愛らしいこともあり。

もう、思うがままに本能に身をゆだね。

ひたすらに、涼羽の胸に顔を埋め、ひたすらに吸い付いている。


身体の中から暴発してしまいそうなほどの羞恥に襲われながらも、決して二人を跳ね除けるようなことをしない涼羽。


それどころか、自分の胸の奥から湧き上がってくるのは、慈愛。




――――こんな風に自分に甘えてきてくれる二人が、可愛い――――




――――もっと、二人を可愛がってあげたい――――




この行為をやめてほしいと思う、羞恥心に相反するかのように湧き上がる想い。

そんな想いが、涼羽の身体を無意識レベルで動かしてしまう。


涼羽の細腕が、自分の胸に吸い付いている二人の頭を、優しく撫でてしまう。


慈しむように。

可愛がるように。

甘やかすように。


ただ、そっと優しく、その髪を梳くように、なで続ける。


そんな涼羽の手の動きが、二人の心により幸福感をもたらす。


「ん…(お兄ちゃんのなでなで…えへへ…気持ちいい…幸せ…)」

「ん…(涼羽ちゃんが、なでなでしてくれてる…優しい…幸せ…)」


嬉しくて、たまらない。

愛おしくて、たまらない。

幸せすぎて、たまらない。


突き放そうとするどころか、こうして優しく自分達を受け入れ…

さらには、目いっぱいの慈愛と優しさで、包み込んでくれる…


そんな涼羽が、まさに女神のように思えてくる。

そんな涼羽が、まさに聖母のように思えてくる。


日頃から、涼羽のこの慈愛と優しさを独り占めしている羽月。

常日頃からの習慣となってしまっているこの行為。


しかし、羽月は一度たりとて飽きがきた、などということにはならず…

まして、やめてほしいなど、決して思うことすらない。


大好きで、大好きでたまらない。

優しくて、優しくてたまらない。


自分が与えてもらえなかった、母の愛情。

今は亡き母に代わって、それを与え続けてくれる、実の兄。

男なのに、こんなにもお母さんみたいで優しい、最愛の兄。


涼羽に甘え。

涼羽に抱きつき。

涼羽の胸に吸いつく。


全てが、羽月にはなくてはならない、必須のものとなってしまっている。


もう、これらは羽月の中では当然のものとなっており…

一日でも、それができないのは我慢できない。


休みの日、特に二人共予定のない日などは、羽月は一日中涼羽にべったりとしてしまっている。


涼羽が家事をしていれば、そのそばまで行き。

涼羽がのんびりとしていれば、すぐさまべったりと抱きつき。

涼羽が自分の部屋に行くと、すぐさま自分もそれについていってしまう。


さらには、涼羽にこの授乳と言える行為を求めてしまう。

一日一回は、必ず。


この慈愛と母性に満ち溢れた兄は、そのおねだりに毎回困った顔をしながらも…

決して拒むことなく、受け入れてくれる。


そして、優しく甘えさせてくれる。


決して妹である羽月を疎ましく思うことなどなく。

それでいて、きっちりと言い聞かせるべきことは言ってくれる。


そんな兄が、羽月は大好きでたまらない。


大好きで大好きで…

絶対に離れたくない。


もう来年は高校生にもなる羽月だが…

本気で兄とずっと一緒にいたい、などということを想ってしまっている。


そして、涼羽のクラスメイトである美鈴。


ふとしたことから、交流を持つようになったこのクラスメイト。

学校では、人付き合いを好まない涼羽に一線を引かれている感じだったけど…


ようやく、といった感じで来ることのできた、涼羽の家。


ここで、自分の知らない、いろいろな涼羽を見ることができた。


とろけるかのような甘い優しさと慈愛で、妹を可愛がる涼羽。

自分にべったりと抱きつかれて、思わず顔を赤らめてしまう涼羽。

そんな自分のことも、目いっぱい甘やかしてくれる涼羽。

自分に、優しく料理を教えてくれる涼羽。


母性と慈愛に満ちた、ふんわりと優しげな笑顔の涼羽。


正直、反則すぎた。


美鈴はアニメやラノベのオタクなどではないが、この日何度も、思わず言ってしまいそうだった。




――――どれだけ私を萌えさせれば、気が済むの!?――――




と。


周囲の異性が常に持っているであろう、自分に対する下心。

異性でありながら、そんなものをかけらも持っていなかった涼羽。


それどころか、お母さんみたいに諭そうとさえしてくれていた。


しかも、こんな美少女然とした容姿。


正直、同性と同じ感覚で接することができ、ものすごく安心感がある。


好き、なんかじゃ足りない。

大好き。


この想いが、際限なく膨れ上がる。


自分の知らない涼羽を見る度に、膨れ上がっていく。


そして、その涼羽が、妹と日常的にしてしまっているこの行為。

それも、見ることができた。

できてしまった。




――――幸せって、こんなところにあったんだ――――




日頃、周囲から頼られることの多い美鈴。

しかし、内心では、誰かに頼りたくて…

甘えたくて、たまらなかった。


誰か、自分を甘えさせてくれる人はいないのかな。


そんな矢先だった。

ちょっとしたきっかけから始まった、涼羽との交流は。


自分に頼ることがなく、むしろ自分の方が頼ってしまうことになっていた。


そして、この日この家で、これでもかというくらいに、このクラスメイトに甘えさせてもらうことができた。


いや、できている。


今吸っているのは、自分と違う性を持つ、それも同年代の男の子の胸。

なのに、自分が本当に赤ん坊になったような錯覚に陥ってしまう。


それほどに、この行為が心地よすぎて…

それほどに、この行為が幸せすぎて…


まるで、本当にお母さんに授乳をしてもらっているかのよう。


知ってしまった。


涼羽が、こんなにもお母さんだったなんて。

涼羽が、こんなにも母性と慈愛に満ち溢れていたなんて。


もう、抗えない。


こんな幸せなこと、自分もずっとしてほしい。


もう絶対、離したくない。


大好き。

大好き。

大好き。


男女の恋愛とは、違うかも知れない。

でも、それは問題じゃない。


重要なのは、自分がこのクラスメイトのことが好きなのか。

たった、それだけ。


それだけは、胸を張って言える。




――――柊 美鈴は、高宮 涼羽のことが大好きで大好きでたまらない、って――――




美鈴の中は、その確固たる想いでいっぱいになっている。

その想いが、美鈴の身体を突き動かす。


涼羽の胸に、より味わうかのように吸い付いていく。


「んんっ…」


涼羽の口から、吐息のような甘い声が漏れる。


吸われる度に、背筋をそっとなぞられるかのような刺激が走る。


その刺激が、より自分の感じる羞恥を大きくさせる。




――――でも、抗えない――――




――――この二人を、身体が勝手に包み込もうとしてしまう――――




涼羽の中に根付いている、その母性。

それが、どれほど羞恥に身を捩らせることになっても、二人を拒絶することを許してくれない。


自分に赤ん坊のようにべったりと甘え、胸に吸い付いてくるこの二人。


二人を拒絶するどころか、より優しく包み込んでしまう。


二人を優しく撫でる手が、止まらない。


クラスメイトである美鈴に、この光景を見られた時は、溶けてしまいそうなほどの恥ずかしさだった。


恥ずかしくて、恥ずかしくて。

消えてしまいたくなっていた。


頬が熱を帯びていくのが、自分でも分かってしまった。


それでも、妹である羽月は、この行為をやめてくれず。

あろうことか、クラスメイトである美鈴まで、この行為に及んできた。


恥ずかしい。

恥ずかしい。

恥ずかしい。


ぞくぞくとするほどの羞恥が、その身を焦がそうと襲い掛かってくる。

そんな羞恥に染められた顔を見られたくなくて、二人からそらしてしまっている。




――――でも、それでも――――




二人を拒むことなど、できなかった。


それどころか、羞恥に襲われながらも二人を受け入れ…

ただひたすらに、二人を甘やかしてしまっている。


妹である、羽月。

クラスメイトである、美鈴。


二人を甘やかすことそのもの。


それが、とても心地よくなってきている。


羞恥から顔をそらしながらも、視線をちらりと向けてみる。


二人の顔が、心底幸せそうになっている。




――――嬉しい――――




いいようのない喜びが、羞恥と相反するように膨れ上がっていく。

二人のそんな幸福感に満ちた顔。

それを、もっと見たくて。


二人を受け入れ。

二人を甘えさせてしまう。


それでも、恥ずかしさは変わらない。

二人の顔を、まともに見れないでいる。


でも、その手が、二人を可愛がっている。

可愛がってしまう。


妹、羽月のために受け入れ、始めたこの行為。

羽月は、心底嬉しそうに、心底幸せそうに、この行為を求めてくる。


まさか、それをクラスメイトに見られ…

そのクラスメイトにまで、同じ行為を求められるなんて、思ってもいなかったけど。


でも、それが恥ずかしくてたまらない反面…

なぜか、嬉しく思ってしまう。


「んん…(お兄ちゃん…)」

「んっ…(涼羽ちゃん…)」


ひたすら、赤ん坊のように涼羽の胸を吸い続ける二人。


「んっ…(…ふふ…)」


そんな二人が可愛くて、内心では微笑んでしまっている涼羽。


そのとろけるような甘い優しさに、二人はそのまま眠ってしまい…

涼羽も、その二人に続くように、その意識を夢の世界へと手放した。

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