第27話 は、恥ずかしい…

「ふう…」


必要最低限の物しか置かれておらず、殺風景な感じさえするであろう、四角の空間。

この家の住人の一人が、私室として利用しているこの部屋。


この高宮家の長男、涼羽の私室。


その部屋で、その主である涼羽が、その疲れを吐き出すかのように溜息を吐く。


「なんか…今日はやけに長く感じたな…」


この日は、クラスメイトである柊 美鈴が自分に料理を教わるためにこの家に泊まり込み目的で訪れ…

さらには妹である羽月と同じように甘えて、べったりとくっついてきて…


そんな美鈴に負けじと、羽月もべったりと甘えてきて…


そんな二人の相手をどうにか終え、ようやく就寝の時間を迎えることができたのだ。


ようやく一人の時間を得て、今一番の趣味としているプログラミングに勤しんでいたのだが…

それも、結局は妹とクラスメイトの二人の乱入により、邪魔されることとなっている。


甘えられること自体は決して嫌いではなく、むしろ自分に甘えてくれる二人を可愛く思ってしまう。


ただ、それでも本質的に一人の方が好きな涼羽。


せっかくの一人の時間をつぶされることに、やはりいい思いは出てこない、というのはある。


先程まで二人にめちゃくちゃと言えるほどにべったりと甘えられ…

べったりとくっつかれ…


そんな二人を、『もう寝るから』と、半ば無理やりにこの部屋から追い出して、それぞれの部屋に促し…


ようやく、この落ち着ける状況に持っていくことができたのだ。


「はあ…なんか今日は疲れた…。もう、寝よっと」


自分で思っている以上に疲れが溜まっていたのだろう。




――――主に、精神的な部分で――――




うつら、うつらと、飛びそうになっている意識にもう少し、と鞭を打ち…

二人の乱入で乱れてしまった布団を整え…

部屋の明かりを消して…


ようやく、寝る準備を整えることができた。


「ふあ…もう、だめ…」


まるで投げ出すかのように、自らが整えた布団にその身を委ねる涼羽。

そして、きちんと掛け布団を被り。


そのまま、意識を夢の世界へと投げ出した。


「…すう…すう…」


途端に、静寂の中に淡く響く規則的な寝息。


静かな部屋の中には、その規則的な響きのみとなり。

その部屋の主は、その疲れた身体も、精神も、ひたすら休ませるごとく、泥のように眠り続ける。




――――




「…すう…すう…」

「……ん」


時刻はすでに新しい日の始まりを告げ…

普通の規則正しい生活をしている人間なら、もうすでに眠っているであろう深夜。


その規則正しい生活を送っているであろう、その部屋の主。


その主が、規則的な寝息を立てているところに、そんな状態を確認するかのような淡く、小さな声。


自らが開いた、部屋の襖。

それを音を立てないように再び閉じる。


「…えへへ…」


穏やかに眠り続ける部屋の主、涼羽の寝顔を嬉しそうな笑顔で見つめるその人物。




――――涼羽の実の妹、羽月だ――――




この羽月にとって、兄、涼羽の部屋に忍び込むのはもはや必然としていること。

どんなに涼羽が自分の部屋で寝るように促しても、結局は忍び込んできてしまう。


いわば、常習犯だ。


最愛の兄である涼羽と一緒に寝るなんてこと、この小さな少女にとっては当たり前のこと。


だからこそ、こうして兄の部屋に忍び込むような真似をしてしまう。


とはいえ、涼羽ももはや諦めの境地に来てしまっている。

なので、とりあえずは妹に言い聞かせるように自分の部屋で寝るように促すが、どうせ入り込んでくるのだろう、と割り切ってしまっている。


案の定、自分の懐に潜り込むように眠っている妹が、目覚めた時に目に入るのだが…

そんな妹の姿を慈愛の表情で見つめていることに、本人は全く気づいていない。


結局は、妹が可愛いことに変わりはない涼羽だということなのだ。


「…お兄ちゃん、今日も可愛い…」


常習的に兄の部屋に忍び込み、兄の寝顔を見ているこの妹。


普通に見れば、目を惹く美少女にしか見えない容姿の兄の寝顔。

そんな寝顔が可愛いのは至極当然とも言えることであり…

そんな兄の寝顔を見るのも、この妹にとっては喜びであり、楽しみでもある。


そんな兄の寝顔を見れて、至福の表情の妹。


何度見ても、飽きない。

何度見ても、心奪われる。


普段はしっかり者で、頼りがいのある兄。

そんな兄の、こんな無防備な姿。


正直、何度見てもむちゃくちゃにしたくなる。


こんな兄と一緒に眠ることも目的の一つなのだが…




――――今日は、いつも兄にしてもらっていることを、まだしてもらっていない――――




どちらかといえば、そっちの方が目的となるのだ。


「…お兄ちゃんの…お兄ちゃんの…」


すでに我慢が利かなくなっている様子の羽月。


静かに眠り続ける兄の身体を覆う掛け布団をそっとめくり…

寝巻きとして着用しているジャージのファスナーを下げ…

そのまま、ジャージの前を開く。


インナー代わりとしている、真っ白なタンクトップと、それに包まれた、白く艶やかな肌が、暗闇の中に晒される。


さらに、タンクトップの裾を引っ張り上げ、兄のその華奢な上半身をさらけ出してしまう。


「はあ…綺麗…」


見てるだけでうっとりとしてしまう程に綺麗な兄の上半身。


その中にぽつんとある…


ここ数ヶ月で少し大きくなった感のある、薄く桜に色づいた、胸の飾り。


羽月の視線が、その飾りの方に向く。


「…今日、まだもらってないもん。だから、今もらうの…」


羽月が、これほどまでに兄、涼羽にべったりと甘えるきっかけとなった願い。

涼羽が、これまで自覚のなかった母性本能を表面化することとなったきっかけ。


母の授乳を求めるように、兄にそれを求めてしまう妹、羽月。


この日、クラスメイトである美鈴がこの家に来ていることもあり、涼羽が半ば意識的にスルーしていたその行為。


「…お兄ちゃん…もらうね?…」


きっちりと被っていた掛け布団をめくられ、その上半身を晒されても、意識の覚醒が見られない兄。

普段は眠りが浅い方に入るため、割とちょっとしたことでも目覚めてしまうのだが…


この日はよほど疲れていたのだろう。


その規則的で静かな寝息が、途切れることもなく…

今は閉じられているその大きくくりっとした目が、開くこともなかった。


そんな兄の露になった懐に潜り込むように布団に入り込み。


ゆるやかな上下動を規則的に繰り返す、その胸にある飾りを、そっと口に含む。


その行為、そして、それそのものを味わうことの甘美さ。


それを知ってしまっている羽月が、目の前に突きつけられているその誘惑に抗えるはずもなく。


一日たりとも我慢できるはずもない、その極上のそれを…

しっかりと味わうかのように、口に含み、そっと吸い始める。




――――文字通り、母の授乳を求める赤ん坊のように――――




兄の胸に顔を埋め、一心不乱に、それでいて静かに優しく、兄の『お母さん』を吸い出そうとする。


兄の『お母さん』を味わい、求める。




――――男であるはずの、兄の胸の中で――――




さすがに、ここ数ヶ月、この行為を繰り返され…

以前よりも鋭敏になっているそこに吸い付かれたことにより…


それまで規則的だった涼羽の寝息のリズムに、雑音(ノイズ)が入りだす。


「…すう…ん…っ…」


ピクリとする、兄の手。

兄の身体。


このままでは、目覚めてしまうかもしれない。


そんな危機感が、羽月の理性に訴えかける。

訴えかけられた理性が、羽月の欲望に忠実な本能を抑えようとする。


しかし、すでにこの最高の幸福を味わっている今の羽月に、そんな理性の訴えが通じるはずもなく…


むしろよりその本能を刺激するだけの、最高の調味料(スパイス)となってしまっている。


あの日以来…


初めて兄にその願いを告げ、それをかなえて貰い――――




――――その極上の幸福感を知ってしまった時―――――




それ以来、一日たりとて欠かすことなく…

この数ヶ月、ずっとその幸福感を味わい続けてきた羽月。


もはやなくてはならないものとなっているそれ。


今、それを味わい、感じていられるこの幸福に満ちた時。


それを途中で止めてしまう、などという選択肢など、この少女に存在するわけもなく。


むしろ、目覚めて欲しい。

目覚めて、いつも自分に向けているあの慈愛に満ちた笑顔。

それを、見せて欲しい。


その慈愛を、自分だけに向けて欲しい。


そんな願いさえ、欲望の中に組み込まれてしまう。


その願いを聞き入れるかのように、涼羽の寝息に入る雑音(ノイズ)が大きくなっていく。


じょじょに、じょじょに。

しかし、確実に、大きくなっていく。


心なしか、身をわずかに捩じらせているような動きまで見せつつある。


自分がこうする時、いつもびく、びくと、大きな反応を見せる。


そして、そんな反応を…

それによって感じてしまう、その心の中を全て焼かれてしまうような激しい羞恥を…


それらを見られたくないと、思わず顔を逸らして、自分から見えないようにしてしまう。


そんな兄の、恥ずかしがっている顔を見たくて…


そんな顔をこっちに向けて欲しい。


そんなおねだりを、無邪気にしてしまう。


妹である自分のそんなおねだりを、恥ずかしがりながらも聞きいれ…

そんな羞恥に支配された顔を、向けてくれる兄。


そうして、さらに羞恥にその顔を染めてしまうのだが。


でも、そうしながらも、あの慈愛に満ちた顔を自分に向け…

背筋を、その華奢な身体を震わせながらも…

優しく自分を包み込み、頭を撫でてくれる。


見せて欲しい。

いつものように。


そんな兄を、見せて欲しい。


穏やかで、安らかな眠りを妨げることになるのは分かっている。

それでも、我慢できない。


だから、もう歯止めは利かない。


だから、それを包み込んでいる口の動きが…

その吸い付きが、激しくなる。


その身体の反応が、さらに大きく、はっきりとしてくる。


胸の中から上目使いで兄の顔を覗き込んでみると、瞼がぴくぴくと動き出している。


早く。

早く、目覚めて。


早く、目いっぱい甘やかして。


そんな羽月の願いが加速するのに比例するかのように、涼羽の身体が、どんどん覚醒していく。


「ん…んっ…?…」


どこか甘やかな声をあげながら、ついにその目が、開き始める。


自分の背筋を直接なぞられるかのようなその感覚。

神経に直接訴えかけるようなその感覚に、思わず身を捩じらせてしまう。


そして、気づく。


この感覚は、あの時の。

あの時の、感覚だと。


それを自覚した瞬間、脳が覚醒する。


どこかまどろんだような動きだった瞼が、覚醒する。

普段のその大きな目を形作るように、見開く。


そして、目の前の――――




――――自分の胸の中に顔を埋めながら、その飾りにちゅうちゅうと吸い付いている、妹の姿が、その視界に映る――――




「っ!…は、羽月…何して…んっ!」


覚醒した脳が、その感覚を認識してしまう。

その感覚が、涼羽の身体に過剰な反応をさせてしまう。


どことなく甘い声が、淡くその部屋に響く。


いつもの『母の愛情』を求める妹の姿。

その妹が、その求める行為として、自分の胸に吸い付いてくる。


それが、過剰な反応を己が身にさせてしまう。


「ん…お兄ちゃんのおっぱい、ほしいんだもん…」

「だ、だからって…んっ!…こんな時間に…!ひっ!…」


恥ずかしい。

恥ずかしくてたまらない。


こんな反応をしてしまう自分が、あまりにも恥ずかしい。


もう何度もされていることなのに、未だに慣れない。

未だに、過剰な反応をしてしまう。


いや、むしろ最近になってより過剰な反応をしてしまう。


そして、そんな自分をこの妹に見られること。


それが、自分の羞恥を際限なく膨れ上がらせてくる。


だから、この妹から顔を逸らしてしまう。


の、だけれど…


「だめ、お兄ちゃんの顔、ちゃんと見せて」


この妹は、それを許してはくれない。


この妹は、こんな自分の顔をもっと見たいと言ってくる。


「くうっ…は、恥ずかしい…」


この反応も、いつも通り。

恥ずかしすぎて、まともに見ることなんてできない。


背筋を貫くかのようなこの感覚も。

それを、こんな行為で感じさせられていることも。

それをしてくるのが、自分の実の妹だということも。


全てが、恥ずかしい。


そのうえ、こんな、羞恥に染まりきった顔を見られるなんて。


絶対に、嫌だ。


いつも、そう思っているのに。


「お願い…お兄ちゃん。見せて」


下から覗き込み、上目使いで見つめながら懇願する妹の姿。

それを見てしまうと、抗えない。


右の胸から与えられるその感覚。

それが、自分にまともな抵抗をさせてくれない。


だから、いつも受け入れてしまう。

恥ずかしくて、恥ずかしくて。

とけてしまいそうなほどに、恥ずかしいのに。


顔を向けようとすると、途端に羞恥が膨れ上がってくる。


膨れ上がる羞恥を自覚しながらも、妹の方に顔を向ける涼羽。


「…えへへ。可愛い」


このセリフも、いつも通り。

いつも通りで、恥ずかしい。


それでも、その羞恥よりも、この妹を喜ばせたい、という母性の方が勝ってしまう。


高宮 涼羽という少年は、常にそうだから。


身を焦がすような羞恥に。

その身体を捩じらせてしまうような感覚に。


それらを与えてくるのが、目の前の妹だったとしても。


やっぱり、涼羽は妹、羽月を優しく甘やかしてしまう。


「!ひうっ!…」


ぞくぞく。


そんな感覚が、涼羽の背筋を貫く。


羽月が、より兄の愛情を求めて、激しく吸い付いてくる。


羞恥に打ち震える兄の姿を堪能しながら、その極上の幸福感を貪るように味わい続ける羽月。

そんな妹を喜ばせたい一心で、燃え上がる羞恥に、自分を襲う感覚に耐え続ける涼羽。


どこか甘い蜜月のような雰囲気さえ感じさせるそのやりとり。


この兄妹の、そんなやりとりは、まだ続く。

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