2011 3.11 14:46

おおさわ

1週間――その1――

 はじめに。

 この度、地震により被災した九州の方々にお見舞い申し上げます。

 ふつつかな者ではございますが、東日本大震災の一端を経験した身として、その心情・御苦労は如何ばかりかと心を痛める日もございます。


 社会の底辺ではありますが、財布の小銭や、所持しているカードや、登録しているサイトやら、そんなポイントなどかき集め、総計5000円くらいは募金致しましたか。こういうとき、無力って堪えますね、金持ちだったら、良かった。

 神様、私を金持ちにしておくと、こういうとき役立ちますよ。


 ノブレスオブリージュ。

 位高き者、務め多し。

 こんな風潮が、世間に当たり前になるといいと思います。

 寄付とかね。いいんですよ、別に、税金対策とかでも。

 余裕のある人が、誰かを助ける、そんな世界でいいと思うんです。


 自分が、エッセイを書こうとは数日前までは思ってもみませんでした。いえ、エッセイなんでしょうかね? これ。そもそも私個人は特に面白い人物でもなく、日々の生活も繰り返しの中で波乱に満ちてなどおりません。お話しするような特異な経験もございませんし。

 もっぱら、エッセイは眺めているものでした。カクヨムではエッセイに対してレビューも書いておりません。だいたい、言いたいことは聡明な作者様が書かれている通りのことで、そこに自分の言葉も含まれていたからです。だから、★を3つ投げるだけ、でした。


 じゃあ何で書くの? って、そりゃあ、書かずにはおられん人種だからでしょう? と説明するしかありません。コンテストも開催されるようですが、興味はありません。いい人ぶって、お涙頂戴で売名行為か。なるほど、そうかもしれません。熊本地震に便乗して東日本大震災を利用して不謹慎だ。冒涜、確かに仰る通りなのでしょう。


 私が、私に罵声を浴びせながら書いているようなものです。


 はじめに。

 東日本大震災で、私は内陸という恵まれた環境におりました。たいした苦労もなく、皆様に語れるような悲惨な経験などございません。地元は三陸沖に面しておりますが、実家は山の団地に、祖父が建ててくれた場所にあります。とうてい津波が到達する場所ではありません。知る限りの親類縁者に大きな被害は無く、最も危険な場所にいたであろう従姉妹も新居のおかげでそちらに移っておりました。


 これは、ただの自分語り。けじめと反省です。

 立ち上がり、前に進む為に、自分のケツを蹴り飛ばす、そんな文章です。

 だって、ようやく、私は、また大好きだった創作を続ける気になれたのだから、どうか、許して下さい。

 ちょうど、あれから5年ということで、ツィッターにて当時撮りためた写真なんかも上げていたんですが、今は中断しています。


 当時、昼頃に起き深夜から遅いときは朝方まで働くという仕事をしていた私は、小さな揺れで目を覚ましました。いったん眠ってしまうと、近所の火事であろうが起きないという筋金入りの鈍感さです。夢現で、ぼやけた天井を眺めていたのですが、さすがの揺れの大きさにベッドから跳ね起きました。

 揺れる床と軋む建物、棚から津波のようになだれ落ちるCDと本の数々。一瞬で私の足下はそれらで埋まってしまったのです。


「あーあ、仕事から帰ってきたら片付けなきゃなあ……」


 胸の不安と共に身支度をし、職場も大変なことになってるだろうなと焦りながら、やや早めに部屋を出たのでした。


 まず、ここで私は過ちをひとつ犯します。

 徒歩でも車でも可能な場所に職場と部屋はありますが、このとき、車に乗り込み、少なくなっていたガソリンメーターに気付き、途中で給油して職場に向かうべきだったんです。

 このことは、今でも、ずっと、後悔として色褪せません。

 少しでもガソリンが減ったら給油、この習慣は今でも続いています。


 職場まで徒歩すがら、やはり、人と車とから、何かしら騒然とした違和感を覚えました。


「あれ?これやばいんじゃ……」


 携帯電話は苦手でした。

 電話は通じません。


 職場に着きました。

 引っ繰り返したかのような騒ぎ、という状態はまさにこれ。

 このとき、本当に『やばい』という確信を持ちました。

 電話は駄目。

 メールだ。

 家族に無事を伝える内容を送り、親友達にはこう送りました。当時のガラケーから今はスマートフォンに変わってしまいましたが、今でも文章を覚えています。


 こっちは大丈夫、生きて会おうぜ。


 三人いる親友のうち、二人からは返信がありました。

 もう一人の親友とは、しばらく連絡が途絶えます。


 職場の片付けと商品とお客様の相手をしながら、同僚に声を掛けます。

 ここで、またひとつ過ちを犯しました。


「大丈夫?」


 大丈夫なわけなかったんです。家族と連絡が付かない。私の軽はずみな発言への恨めしげな視線は、やはり今でも忘れられません。

 頑張っている人に、頑張れと言えないのは、この経験ゆえでしょうか。


 しばらくは片付けを手伝い、気が付けば周囲はだんだんと暗くなっていました。停電していますから当然です。

 食料品の取り扱いもあるので、不安を抱えてまとめ買いに走るお客様の相手をしていきます。


「あなた達も不安でしょうに、ごめんなさいね。ごめんなさいね」


 老いたご婦人の言葉に、苦しくなります。

 生きる為に罪悪感って必要なんでしょうか?


 外には公衆電話があったので、少しばかり列が出来ていました。

 建物を見渡しても、人が途切れる様子もない。

 夜の闇はどんどん深まり、人の顔の判別さえ難しくなる。

 私は、同僚の車を借り、他の同僚を連絡のついた家族の元へ送り届けた後、職場に戻り、そこから、走って部屋へ。自分の車で再び職場に戻りました。

 舌打ちはガソリンメーターを見たからです。


 建物の窓から見える場所に車を置いて、エンジンを掛けたままライトをハイビームにして照らし、仕事を続けます。ガソリンやバッテリーの不安はありましたが、何も考えないようにしました。

 車載充電器もあったので、同僚やアルバイトの子達の携帯電話に充電させて、家族と連絡が取れるといいな、と声を掛けました。

 私の実家とは、連絡が取れません。

 人の列が消えたのを見計らって、公衆電話から実家に電話を掛けましたが、やはり通じませんでした。


 建物に戻ると、人の流れも消えつつあり、同僚達と軽口くらいなら叩ける余裕も出てきます。見渡せば、残っているのは、雑誌とお酒くらいなもので、まあこの光景を見れば、乾いた笑いくらいは出るというものです。


 商売ですから、お仕事ですから、やれるだけのことを、出来るだけのことをしたまでです。

 このときの様子を感謝するツィートを後に見つけました。

 甲斐があった、そういう気持ちになれました。


 営業終了。

 皆で、こういう結論に至りました。だって、もう売るものないんですもの。

 早々に店じまいしている人達もいるのに、と。お客様から感謝や他のお仕事の方々を揶揄する言葉も頂きました。

 妙な高揚感です。達成感と言ってもいいんでしょう。

 このときは気付きませんでしたが、ちょっと私は危うい感じだったのかもしれません。


 俺たちはここまでやったぞ!早々に逃げやがって!人々の役に立ってこその仕事だろう!


 恥ずべき思考です。守るべきものの違いを、価値観を他人に押し付けようなんて、何ておこがましい。


 私は、同僚の一人を自室に泊めることとなり、残ったお酒を買い込みました。

 部屋は少し寒い程度でした。

 依然として、電気は使えませんでしたが、ガスが使えたのは、かなり有り難かったですね。オール電化を否定するわけでもないですが、選択肢って多く持っていた方がいいんだろうなあ、とは思いました。

 ちょうどコタツもしまっていなかったので、同僚はそこで寝てもらうとして。

 さて、ビールを飲みながら、これからどうしたものかと考えました。

 携帯電話は生命線だ、と理解していたので、充電の残りが気になります。しかし、この状況下で情報は欲しい。このとき思い出したのが、デスクトップを買った為、使っていなかったノートパソコンです。USB接続から電源を確保、充電を開始した携帯電話からワンセグで、今回の地震の被害を知り、言葉を失うのでした。


 河(?)が燃えてる映像なんです。正確には、燃えた瓦礫や建物が漂流している映像ですか。

 流れる炎が闇を照らしている。地獄絵図かと思いましたね。


 翌日、目覚めた同僚を見送り、思い至りました。


「ライフラインとハザードマップだ」


 軽装かつ寒くないように、両手は自由にショルダーバッグを背に。

 私は、部屋と職場の生活圏及び商圏の現状を把握、伝達しようと歩き回るのでした。

 ここが営業してる。この店は商品が何個まで。この建物はひび割れて瓦解の恐れあり、近付くな。仕入れた情報を逐一、同僚や友人、知り合いにメールで送る。

 そんな行動を2、3日繰り返したでしょうか。

 ここでも過ちを犯しています。

 ガソリンスタンドの前を通り過ぎてようやく気付くのです。


 街にガソリンが、無い?


 家族と連絡が付いたら、地元に向かおうと思っていた矢先。

 もう私の車のガソリンは空っぽ同然です。市内を探し回るだけの量も残されていません。思えば数週間前に実家に顔を出して、帰りにスタンドに寄らずに帰ってきたのだった。地元まで車でおよそ2時間の距離。

 頭を抱え、歯軋りをし、己の無能を呪う。


 何で、あのとき!


 まあ、既に自衛隊による交通規制も始まっていたはずなので、今更向かっても逆に身動きとれなくなっていたか引き返したか、どちらかだったのでしょうけれども。


 失意の中、やることもなく、職場に向かいました。信頼されているのか、鍵は私が預かっていたので、まあ、お留守番みたいなものですかね。このとき、明るいうちは話題の漫画のコミックスを読んで時間を潰していました。作品名は割愛させてもらいます。

 暗くなってからは、建物の掃除をしてました。掃除は良かったですね。何も考えなくていいんですから。ただ繰り返すだけの作業です。


 さて、電気の復旧や、食料品のルート確保は意外に早かったです。

 家族とも、連絡が取れました。

 これが、一週間の出来事です。


 書いてて、何か、嫌になってきました。

 次は1ヶ月を書こうかと思っていたんですけど、ここで止めても何も言わないで下さい。お願いします。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る