Lv999の次期魔王は魔王になりたくないんで家出することにしました。
もちもちおもち
魔王になりたくありません。 1
「ぼっちゃん、そんなことでは『魔王様』になれませんぞ」
じいやの檄が飛ぶ。
椅子に座らされおしかりを受けている僕の名は、
父はサタン、職業は『魔王』だ。
『魔王』っていうのは親子代々だから、僕は次期魔王というわけだ。
他から見ればなんの問題も無いように見える。
だが、それは大きな間違いだ。
........僕は別に『魔王』になんかなりたくない。いや、断固なりたくない。
だってそうでしょ? 勉強机の前に座らせられ、三時間も帝王学の本の朗読を聞かされ、途中途中にじいやの説教。
あげく、『魔王』になったら政治、経済、政略結婚、魔界国民の前でのスピーチ。休日があったと思ったら、行きたくもないどこかの貴族の舞踏会........。
なんていうか........そんなものになるために今の青春の時間を削っているかと思うと、真性のうつになりそうだ。最近だって酷い時はそのストレスでお腹をくだす........痛くてたまらない。
でも、『魔王』になりたくない一番の理由はきっとそこじゃない。
親にほとんど一緒にいられなかった過去からだろう。
王家の魔人族としてそれは当たり前なのかもしれない。
けれど、幼小の頃の僕には、自分が宝物を奪われてしまったように思えて........心の奥今も揺さぶっている。
「ぼっちゃん、聞いていらっしゃいますか !? 」
「聞いてるって! そんなに言われたら耳にたこができちゃうでしょ!」
いっそのことグレてやろうか? 十五なら思春期のど真ん中にいるんだろ?
勉強机の回りだけが明るく、あとは微かな蛍光灯の明かりだけの僕の部屋。
顔に影を作るように、じいやに少し反抗的な目を送る。
けど、あの人はそんなのおかまいなしだ。見てみないような振りをし、僕とは顔を合わそうとしない。軽く左手をグゥにし口に添え咳払いする。集中しろの合図だろうか?
「では、教科書三千四百ページから読んでまいりますぞ」
「........はい」
じいやの視線がまた、本に向けられる。
「王たる者、常に孤独と闘わなくてはならない。これは決断の場において王は常に一人であるからだ」
うわっ、孤独と闘いたくないよ............。
「ゆえに、王は自分の心を騙す術ををもたらなければいけなく。下の者には平等に、馴れてはいけない。親しみとは王が上という意識を阻害してしまうからだ」
幸せになることを奪われているかのようだ............。
「また、王とは自分の正義感に関わらず、自分に対する悪という存在を根絶やしにしてはいけない。これは、その悪を一つの要因として考えると必ず国のバランスを保つためのピースの一つになって........」ブゥーーーーーーーーー。
じいやの朗読の途中、サイレンが城内に響き渡る。勇者が魔王城に乗り込んで来た合図だ。
ここは勇者にとっては敵の殿城。この場所まで来る勇者はダンジョンという名の数多くの迷路、その中でのあまたの魔物達を乗り越えてきた歴戦の者達だ。
まぁそんなことはどうでもいい。とにかくじいやの責め苦から脱出する理由ができた。それがなによりだ。
勇者。その存在はいくら殺しても、いくらでも湧いてくる。
彼らの欲しいものってのはなんだろう? 地位? 名誉? それとも魔王城の遺産?
「じいや、ちょこっと行ってくるよ」
じいやの表情が曇る。だが、これは止められない。ちゃんとした口実だから。
「........主君に栄光あらんことを」本を閉じ椅子に座る僕に、じいやは軽く頭を下げ一礼した。
「じゃあ、行ってるよ」
「待ってくださいませ」
立ち上がり、勇者のもと向かおうと僕を慌てて止める。まだなにかあるのか!
「魔王になるもの、身だしなみが大切でございます」
........いいじゃん。........ジャージのラスボスがいても。
少なくとも、例の中二病的プロテクターを付けるよりはぜんぜんマシだと思う。
それでも渋々、うなずいた。
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