第十三話 回想シーンって作品によっては蛇足になるよね

 リリスがこの世界を支配するようになってから、それぞれの土地を管理する悪魔達はその象徴として自らの城を建てた。その中でもリリスの住んでいる魔王城ニヴルヘイムとベルゼブブの魔城ムスペルヘイムの二つの城は他の城と比べても格段に大きく、そして豪華に建てられている。

 これはリリスとベルゼブブが大きな城好きという事ではなく、もっと単純に、自らの力と権力を分かりやすく示す必要があったためである。

 リリス達が管理しなければならないのは人間達だけではない。

 昔から彼女達に仕えている悪魔も同様に管理しなくてはならないのだ。

 悪魔とは本来、欲望に身を任せ堕落した天使や人間の末路として存在していた。過去には人間に乗り移り大量虐殺を行った者や、酷い時には神の名のもとに戦争さえ引き起こした者もいる。

 それが善か悪かと問われれば悪に属する行為なのは間違いない。

 なにせ、彼らは文字通り悪魔だったのだから。

 だが、当たり前だが、それを罰しようとする者は悪魔の中にはほとんど居なかった。

 それはそうだろう。

 元々の原因は数あれど、悪魔になる前の彼らは宗教的にも人道的にも悪とみなされる行為に手を染めた者達だったのだから。

 物を盗むのは当たり前。

 嘘をついて痛む良心など持ち合わせていない。

 人を殺して得られるのは罪悪感よりも快楽。

 だが、そんな悪魔の中にも比較的マトモと呼べる者が居た。

 

 それがリリスである。

 

 最古の悪魔、悪霊の母、吸血鬼として長らくの間人間達と触れ合ってきた彼女には、いつの間にか人間性と呼べるものが出てきていた。それは誰よりも人間と接してきた彼女に与えられた特権だった。

 ベルゼブブはそんな彼女をどこか冷めた瞳で見下していた。

 悪魔とは悪の象徴でなければならない。

 ゆえにベルゼブブは蠅騎士団を作っては幾度も天界に戦争を仕掛けていた。それが悪魔としての正しい行為だと信じていた。

 けれど、いつの日からかベルゼブブは悪魔に人間性を与えようと奮闘するリリスの姿に、見下すのとは違った意味で視線を奪われるようになっていた。

 それが何故だったのかは今でも分からない。

 ただの興味だったのかもしれない。

 もしくは、悪魔だから悪という既成概念を壊そうとするリリスが格好良く思えたのかもしれない。

 

 

 ベルゼブブは、リリスの次に人間性を取得した悪魔となった。

 それからの彼女の行いは目を見張るものがあった。

 暴君と暴食の悪魔だった彼女は、別の逸話に登場する『高貴な館の主』としての特徴を伸ばし、彼女の元に集まった蠅騎士団に教育を行い、今現在こうしてリリスの願いを実現するために人間達を管理するまでに至っている。

 

 残虐なベルゼブブはもう消えた。

 今の彼女は人間達と同じように笑い、悲しみ、喜ぶことの出来る悪魔になった。

 

 だからこそ、ベルゼブブはリリスの願いを叶えなければいけない。

 

 

 もう、ベルゼブブにはそれしかないのだから。

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