さとり

宇野 かずき

第1話 聡里の日々

 ケータイのアラームが耳元で大音量で鳴り響いている。

「うるさい…。」アラームを止め、時計を見る。

午前3時。朝方に勉強をする娘を起こす時間。娘は自分で起きてくれるが、起床の確認をする。階段の下から娘の名前を呼ぶだけだが、返事があったら起きていると確認できたことにしている。

「娘が朝3時に起きて勉強してるのよ。自分で起きてくれるけど、ほら、心配だから、私も一緒に起きてるのよ。」と、ママ友に自慢したい自分と、先月から海外赴任をした夫に、ちゃんと娘の面倒を見ていると言いたい自分の為。

 午前3時に起きても何もすることがない。

朝ごはんとお弁当の支度は5時からで間に合う。洗濯だってこんなに早くする必要はない。掃除しようにも、午前3時に掃除機をかけるなんて近所迷惑も甚だしい。

結局、録画したドラマを見るか、通販番組をぼんやり見るだけになってしまう。

 ドラマなら恋愛だって、仕事だって、思いのままなのに、現実では、何ひとつ思い通りに進まない。進んだことがない。

 私って、思い通りにいかない人生なのよね。悪いことの方が圧倒的に多いもの。

 恋愛ドラマを見ながら、私は、自分の人生がつまらないものだと感じていた。

変化も刺激もなく、だだ時間が過ぎていくだけ。

 友達には「パートの給料が自分の小遣いになるなんて羨ましい。」って言われるけど、私だって不満はある。

 夫との関係は良好だが、10年以上セックスレス。キスなんて、結婚式以来した記憶がない。

夫が結婚式以来キスしない妻なんて聞いたことがない。セックスだって、夫が果てればおしまいの自分勝手極まりないセックスだった。そんなセックスも、10年以上ご無沙汰だ。私のことなんて、母親か家政婦位にしか思っていないだろう。誕生日も、結婚記念日も、夫から何かもらったことなど無い。

私を羨ましがる友達は、誕生日も、結婚記念日も、ご主人からプレゼントをもらっている。夫の妻に対する愛情の差ははっきりしている。

 お金だけじゃない。もちろん、お金は必要だけど、愛情だって夫婦生活に必要なのだ。

 お金と愛情、どっちを選ぶ?と聞かれたら、私は両方と答える。

どちらか選ぶのは難しい。どちらも選ぶ私は欲ばりなのかもしれない。 

 周りから見れば、満たされているかもしれないが、私の心も体も満たされていないのだ。

 スマホをいじりながら、旦那は海外だし出会い系でも始めてみようかな。

 ふと、出会い系で遊んでいる友達の顔が浮かんだ。

 絶対、出会わなきゃいけないってことはないものね。

登録する名前だって適当でいいし、顔だって出さなくていい。電話番号だって教えなきゃ分からないし、メールだってフリーメールにすればいい。私だって分からなければいい。

 色々考え始めたら止まらなくなっていた。

 サイト。出会い系のサイトを探さなきゃ。私に向いてそうなところ。怖くなさそうなところ。

 きっと、昼間なら、こんなに真剣になることはなかったろう。

 私は、出会い系サイトを探すことに夢中になっていた。

 日記が書けるという出会い系に登録し、私は初めての日記を書き始めた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さとり 宇野 かずき @monako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る