冥土のツカイ(仮)

江富 藍

第1話

目に虫が入ることってよくあることだ。特に自転車通学なら。特に川沿いなら。



波野雪路はこの春から都立高校に入学し、中学まで打ち込んだバスケ部ではなく袴に憧れ弓道部に入部した。長い弓を肩にかけながら川沿いのいつもの道を学校へ急ぐ。桜も終わり、葉桜になった。暖かくなると悩みの種は羽虫。羽虫の大群になんども突っ込みながら走り抜ける毎日だ。当然目に入ったり、髪についたり、不快この上ない。しかし構ってもいられない。朝練が待っているから。


「もぅ、虫マジ腹立つ!虫キエロ!」雪路はブツブツ文句を言いながら走り抜ける。その時。いつものように虫が目に入る。

「うげっ」走りながら雪路は悶絶する。あーぁ、もぅ嫌になる、メガネかけるわ明日から!と思いながら片手で虫を取り出そうと目を触る。眼球で虫がバタバタするのを感じる。

「うげぇ!マジ痛!いったぁ!」いつもの羽虫ならこんなに痛くないのに…今日はなんかへんな虫だったのかな…。あまりの痛さに耐え切れず、公園のトイレに駆け込み鏡を見た。



「うっぎゃぁぁぁぁぁ」

鏡を見た雪路は腰を抜かしそうになった。

虫、は下まぶたで瀕死の状態だった。

問題は虫ではなく、雪路の目尻から手が生えていたことだ。細い…5ミリほどの長い長い腕の先に五本指の手がついていて開いたり閉じたりして虫を探しているような動きをしている。そして下まぶたの虫を捕らえた…虫は緑色に発光し一筋の煙となって消えた。すると手はそのまましゅるしゅると目尻に収納されたではないか。


「だ、ダメだこれ、わたし熱あるわ…び、病院いかなくちゃ…」あまりの事態に腰を抜かした雪路は、友人の若菜に熱が出たから病院に行ってから学校に行くとLINEをすると自転車をヨロヨロ押しながら病院を探して歩き始めた。

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