7話 神話の記憶

Chapter7 "Memory of Gods at War"


「神話ノ時代、"十二天将てんしょう" は地上界に "秩序ちつじょ統治とうち" を与える役目を持って|生み出された。彼らは、地上で活動するためのかい、"八十神やそがみ" と呼ばれる巨大な執行傀しっこうかいを作った。」

 白革のロングコートを着たクサギは白衣の先生にも見える。


 ふわ~あ~ぁっ

 疲れ顔の封人が大きなあくびをする。 


 ウッ、ン・ン

 クサギは咳払せきばらいすると、担任の先生みたいに封人の顔をのぞき込む。


「封人くんが分かるように現在いまの言葉で言い換えよう。

 十二天将というカッコいい名前の人工知能じんこうちのうが作られた。

 脳みそだけだから、アンドロイドみたいに体を造った。

 そいつは巨大で超強まじつえぇボディだった、ということだ。」


 ピクッ、と反応する封人。


「"浄魂" を急ぐ八十神は、神の血を人に注いだ。当然、魂の変化に "冥府ネザーランド" も気付く。それを危惧きぐした "十二月将げっしょう" の "神后シンコウ" は "大冲ダイチュウ" と一緒に地上テラの調査をこころみた。

 知らないとは思うが、空洞アガルタ地上テラを結ぶ道は "時空門じくうもん" しか存在しない。その時空門を唯一操ることのできる存在が大冲ダイチュウだった。後世に伝わる稻羽之素菟いなばのしろうさぎは、その時の大冲ダイチュウの話、ということだ。」

 試験に出るぞ!という雰囲気で、クサギは力を入れるが、封人はまぶたは再び閉じかかっていた。


神后シンコウの動きをとらえた八十神は、彼女たちを時空門で抹消しようと暴挙に出る。さすがの大冲も裏をかかれ瀕死の状態になった。なんとか神后を地上界に届けるが、既に八十神に囲まれていた。

 絶体絶命の大ピンチ!

 なんと! その時、八十神の一人 "オオナムチ" が神后を救い窮地きゅうちを脱したんだ!」


「あのぉ、先生ぇ… そろそろ休憩しませ…」

 熱く語るクサギに封人の声は届かない…


「オオナムチと神后たちは、冥府の力を借りて八十神を封じ込める戦いを始めた。大陸で、ティタノマキーア とも伝えられる壮絶な戦がそれだ。

 長年に渡る八十神の兵士 "百のまがらい" との攻防戦は、天をも揺るがし、創造主のクローンを消滅させ、アガルタさえも壊滅かいめつしかけた。

 でも、ついには勝利する。八十神を奈落ならくに封じ、オオナムチは地上界の統治を完成させた!」


 ゴク、ゴクッ、ゴク、

 クサギはイネが差し出した白湯さゆを一気に飲み干すと、今度は静かに話し始める。


 「それで浄魂が加速するはずだったんだ。ところが、今度は天府ヘブンとの間で大きな戦が始まり、逆にオオナムチが封じられてしまった。以来、我々、数千年に渡り地上界を見守り続けることとなった。誰も気付いていなかった、あのいままわしい "八十神ノ呪念じゅねん" に触れるまでは…」

 クサギの話が一段落する。


「あのぉ…先生、授業みたいでまるで分かんないっす。

 "ハゼリア" のことじゃ、ないんすか?…」


 はぁ~っ

 「そういえば あなた、名前は?」

 ため息混じりで割り込んだミコは何故か苛立っていた。


「白神 封人、これから16才っす。"ハゼリア" で師団長マスターやってま~す。」

 「さっきから "ハゼリア" って、なに(怒)!」

「えっ?、ミコりん、知らないんですか…?」


 封人は素で驚いた表情を浮かべていた。

「超メジャーなネトゲっすけど…月将とか天将とかの設定も似てる…し…?

 えっ、これって、"ハゼリア" のイベントじゃないんすか?」

改めて面々を見回すと、興奮して声が裏返る。

「マジもんすか?

 じゃ、じゃあ、先生とミコりんって、どうやって兎の姿に変わるんすか?

 武器、僕はLevel8回廊のシークレットって分かります? あれが良いです!

 あと、メイ…さんって外人っすよね? 妹とか…」


 バコッ!


「クサギ、月将の気を感じないけど、誰か残ってる?」

 ミコは封人の顔面を踏みつけながら話を変えた。


「えっ? "太乙タイイツ" が下にこもったままで、"小吉ショウキチ" がいつもの部屋にいるはずだけど? やっぱ感じない?」


(やっぱ、って? また、"アガルタ" に行って確かめないとダメそうね。)


 ミコは妙な異変を感じ始めていた。

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