白兎ノ封じ神(Sealed Gods in Shirato)

がーど(GUARD)

序章「終焉ノ序章」 "Prologue of The epilogue"

1話 終焉の予兆

白兎しらと封じ神ふうじがみ

Chapter1 "Signs of the end times"



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      プロローグ

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2019年6月20日 午後2時8分

県立七浜高校


 ぶおぉぉぉぉぉぉん


 青空を切り裂いて透明なエネルギー体が校庭に落下らっかした。

 瞬時に衝撃波ショックウェーブが放射状にはじけ飛んでいった。

 全ての窓ガラスを砕き、生徒たちの全身からだをすり抜けぎ倒す。

 凄まじい地響じひびきとともに校庭そのものがめくり上がり、立ち昇る砂塵さじんが周囲の色を奪い去っていった。




2019年6月20日 午後6時44分

 ピィーッ、ピッ! ガタガタン、 パラパラパラ ピーポーピーポー


 立ち並ぶ警官隊、泣き崩れる人々。

 瓦礫がれきに分け入るレスキュー隊員と大型重機、道を閉鎖する自衛隊員に上空を飛び交うヘリコプターの群れ。

 海沿いの小さな学校は、戦場さながらの厳戒態勢げんかいたいせい下にあった。


 クレーターのようにエグれた校庭。

 スーツ姿の男たちがその周囲で何かを探している。

 耳に無線機を仕込んでいる姿からも特殊部隊のようだった。


「こちら特作七班。ヒトヨン14:50ゴーマル到着、作戦継続中。」

『了解。ようやく本部も整った。状況は? どうぞ。』

「GPS測定による着地点、鉄筋変形から推測されるソニック強度ともに情報通りと判断。5日早まって発生した模様。他国エージェントの動きはなし。ターゲット捜索を継続中。」

『了解。現在、五班が向かっている。CRR 8、12番隊が半径2キロ隔離中。どうぞ。』

「コーピ。郡長ぐんちょうのオーダーは?」

『まだだ。かぶとの捜索継続と情報を求む。』

「ラージャ。PNG暗視ゴーグルの手配をお願いしたい。」

『了解。』


「班長、レスキューが入ります。止めますか?」

 長身のスーツ男が声をかける。

「いや、アレは外にあるはずだ。中は好きにさせておけ。」



(そろそろ暗くなる。埋まっていると厄介だな。)

 ガサッ

(ん?)

 ひしゃげた校門の周りを探していた小柄のスーツ男が物音に気付く。

 腰の赤いホルスターに手をかけながらささやく。

Sエススリー、校門のガレキ、裏側へ廻る。Sエスツー、ファイブ護衛を…』

 シャアアア!!

「ぐはっ!」



 ザザッ、ザッ

 異変に気づいたスーツ男たちが一斉にきびすを返す。

 銃を下に構えながら、夕暮れに赤く照らされたガレキを囲むように駆け寄っていく。

 先頭の隊長格の男が右手を上げ、指を振って回りこむように指示を送る。


(なっ?)

 首から血を吹き流しながら、小柄なSエススリーがヨロヨロと立ち上がった。

 長く伸びた黒兜くろかぶとのような頭部、遮光器土偶しゃこうきどぐうさながらに細く横長の目…

 鼻まで裂けた上唇からはみ出す2本の牙、腐りかけて赤黒く変色した頬の筋…


 首から上が、異形の兜に喰い盗られていた…




起源はじまり時代ときから定められていた人類終焉しゅうえんとき

誰も気にとめていなかった世紀末の伝承が具現化する。


奴らは僕らの中で生きていた。

そうだ、はじまりは突然やってきたんじゃなくて、ずっと前から目の前にいたんだ。


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      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ピィーッ! ゴォーール! ウェ~イ!


 校庭に突き刺さる初夏の暑い日差し。

 チャラ目で子供っぽい笑顔、小麦肌のいわゆるモテ系少年。

 爽やかな汗を光らせながら微妙なダンスパフォーマンスを魅せる。


(あん? リア獣、克彦かつひこくんか…)

 最上階の三階右奥、窓枠から垂れたスライム状の白い腕がピクッと動いた。


(俺だったらそんなクソシュートじゃすまないわな。

 食後じゃなかったら参戦してやったのに…

 その決めポーズ… ちょっとヤバイかも…)


 海のパノラマを一望いちぼうできる一番後ろの窓際席とくとうせき

 磯の匂いを連れた爽やかな風が優しく頬をかすめる。

 まだ、あどけなさの残る色白の少年は、涼しげな眼でサッカーゴールの先に浮かぶ黄金こがね風波かざなみを眺めていた。


(ん?)

 ふと、隣の学年一グラマラス女史 "Fカップ 琴乃ことの" の揺れる胸元に眼がとらわれる。

 ボタンの隙間に見え隠れするピンクの透けブラ…

(顔に興味はないけど…こっちはねぇ~ってね、

 あと、ちょっと…で、 げっ、現代社会?)

 さり気ない教科書ブロック…

(せやな~ でも、なんで分かるんだろう?

 い~っつも 琴乃ことのちゃんには察知さっちされてるっーか…)


いたっ!」


(くそっ、また…

 目ん玉の奥がチクっとすると、むか~しのほこらっつーの? 変なのが見えてきて面倒なことが起きんだよなぁ… 今日はそうなる前に、っと…)

「ふわぁぁ、 あ~あ~っ」

 大きなあくびを残し、机に上の組んだ腕の中にその小さな顔を沈めた。



 東京オリンピックまで あと400日、16才の誕生日まで あと40日。

 そんな、6月の終わりの退屈な 5時間目。

 ヘタレ高校生 "白神 封人しらがみ ふひと" は、いつもと同じ、ありふれた毎日の中にいた。






      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「…そこで、今年は世界の総人口が75億人を超えた上に、さらに長寿遺伝子ちょうじゅいでんし "サーチュイン" の臨床りんしょう試験でミトコンドリアの活性化が確認され、ネットでも "アンチエイジングの功罪こうざい" って騒がれていますよね? でも注目すべきは、全世界の新生児先天異常しんせいじせんてんいじょう発生率が 18.2% と、想定より遥かに高い数値であることが、昨年10月、はじめて確認された… ここ! ポイントですからね!

 で、それに加えて、おととしの三原新山下みはらしんざんもとの小噴火、この時の火山灰吸入による細胞性細気管支炎さいきかんしえんなど、特に子供に与えた影響が数値化され…」

 残念な美魔女ただの おばさん先生の甲高かんだかい熱弁…


 …クーッ…クーッ…


 見えない遠赤外線えんせきがいせんの束に包まれた彼らの眠りを誘うだけだった。



つう~」

 封人ふひとは何かに刺されたかのように飛び起きた。

(くっ、そっ… 今日は両方かよ…

 はじめてこの痛みが来やがったのは…

 そうだ、高校受験でテンパってた去年の誕生日…夏休み中に補習で呼び出された上、下駄箱で "千翠つばさ" にケリ食らった、あの "いまいましい昼休み" …

 ケツじゃなくて目に激痛が走って、いきなり神社みたいな景色が見えはじめて、本当にんじまったんだと焦った焦った。

 しばらく うずくまってたら千翠つばさのやつ、泣き出しちゃったっけ…)

 思い出し笑いを浮かべる封人。

 隣の琴乃ことのまゆをひそめる。



「…それと、先月、月内部からの超高周波で分解された、と公表されていた中国の嫦娥じょうが4号。この超高周波の実測値と先天異常発生率に…」



(ん? 今日の まぼろし は妙にでかい。

  深い洞穴どうくつ

   とりでなのかな?

 げっ、青色に染まってきた…


  ヤバイことが、起 ・ き ・ る !?)

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