月下美人
千紘
夢の続き
お題 『祈り、ささやかな幸せ、夢の続き』
*****
誰かと手を繋いでる。昔も見たことがある。茶髪の男性、顔はよく見えない。でも笑ってる、とても幸せそうに。私も楽しんでいた。でも、繋がれた手は、彼によってそっと解かれた。
「待って!離さないで」
目を覚ます。寂しい気持ちだけがぽつんと残った。菜々美は、枕元の携帯を手に取る。真っ暗闇を、携帯のブルーライトが照らした。時刻はAM3:18。目覚ましだけ確認して、菜々美は再び布団へと潜り込んだ。
「今、どんな夢を見ていただろう・・・・・・寝たら続きが見られるかな・・・・・・」
明日は、恋人の卓也と2か月ぶりに会う。遅刻は出来ないけれど、もう一度さっきの夢が見たいと思った。
卓也と出会ったのは、3年前の今日。友人が企画した合コンに、数合わせとして出席した時だ。黒髪でいかにも真面目そうな卓也は、見た目のとおり真面目で真摯な男だった。友人たちが飲んで騒ぐ中、端の席でウーロン茶を飲んでいた。
「お酒、飲まないんですか??」
「あぁ、得意じゃないんだ・・・・・・君も、お酒じゃないよね?」
「ノンアルコールです。私も、お酒得意じゃなくて・・・・・・」
「みんなすごいよね、お酒入って周りを見えてない」
「本当ですね」
あまりに呆れた声を出すから、思わず笑ってしまった。騒ぐ友人たちを見る。ばっちりフルメイクでいい感じにお酒も入って、めいっぱいアピールをしている。
「好みの男性いたかな??」
「ええっと。何だか話についていけなくて・・・・・・」
「そうか・・・・・・俺もなんだよね。自己紹介ちゃんと聞いてなくて」
「しょっぱなからですか!一番奥のイチゴのピアスしてる子がはるちゃん。ティズニー好きって言ってましたが、年に4回は行ってます。」
「年に4回?!ここからティズニーへ行こうと思ったら、片道6時間掛るんじゃない??」
「それだけ好きなんですよ!裁縫も得意で、自分でキャラクターの刺繍できるんですよ!」
「もしかしてそのキーホルダー・・・・・・」
「えへへ、はるちゃんに作ってもらいました!」
「すごいね~」
「真ん中の黒髪美人は、みつき。バスガイドしてます。歌がとても上手なんです」
「へぇ~聞いてみたい!」
「聞かせてあげたいです!初めて聞いた時なんて、私感動して泣いたんですよ。今度はカラオケでもしましょうか」
「いいね!」
「最後に四つ葉のネックレスしてる真帆。とっても優しくて、まじめな子です。毎日小さな幸せを見つけて、大切にできる子です」
「ささやかな幸せ大切にできるって、いいね」
「本当に。私、焦って余裕が無くなった時、いつも真帆の見つけるささやかな幸せに再確認するんです」
「・・・・・・どんな幸せなの??」
「職場までの道で一度も赤信号に引っかからなかったとか、たまたま入った店がキャンペーン中で入浴剤もらったとか、朝ごはんの卵が双子だったとか・・・・・・」
「へぇ、本当に日常だな。そんな風に考えたことなかった。」
「でしょう??」
「・・・・・・それで、君は?」
「私は、」
「菜々美!今日はお開きにしよう!みのるくんとはるちゃん大分酔っちゃったみたいで、二人して寝ちゃったの・・・・・・」
みつきが菜々美の席で言い、身支度を整えに席へ戻る。卓也は少し呆れた表情で寝ている二人を見た。そして、一枚の名刺を菜々美に渡した。
店を出てすぐ、タクシーが停まった。卓也が呼んでくれていたようだ。騒いでいた一人の男性がはるをタクシーへ運んでくれて、はると家が近い私が一緒に乗り込んだ。みつきと真帆は、二次会に誘われって叩き起こされたみのると卓也と6人でカラオケに行ったらしい。
酔ったはるを家に送り届け、菜々美もアパートに着いた。
「私もカラオケしたかったな・・・・・・みつきと真帆良いなぁ」
お風呂も入らずにソファーに横になると、鞄から名刺を取り出した。
「
携帯に番号を登録した。考えて考えて、「今日はありがとうございました」だけ送った。
付き合ったのは、出会ってから半年が経った頃。卓也の仕事は休みがなかったけど、仕事終わりなど、月に2回は会った。お出かけしたり映画を見たり、人並みのデートは2か月に1度くらいしかなかった。ほとんどが夕ご飯で、付き合ってからは菜々美のアパートに泊まりに来ることもあった。そんな卓也の転勤が決まり、今日は2か月ぶりに会う。
「今どこ?いつもの公園で待ってる」とメールを送る。
実は転勤してから、連絡は半分以下に減った。最初の内は、忙しいのかなと思っていたけれど、徐々に不安や不満が出てきた。嫌な想像が脳内に広がり、何度そんなことはありえない、想像だけであってくれと祈りを捧げたことか。今日会う約束だって、菜々美が計画した。菜々美が言い出さなければ、卓也から会いたいなんて言ってくれただろうか。
月下美人 千紘 @_bear
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