もちこまれた面倒事
傭兵部隊の天幕───
現在、敵対している相手との戦争事を行っている領主に雇われた傭兵部隊が駐屯している場所である。
そして、本日行われた総当たりともいえる突撃戦が行われてから数時間が経過し、お互いがその日の疲弊や疲労を労う形で、退いている状況となっていた。
その後退した先にある野営地となっている傭兵部隊の部隊長の天幕の中で自分は、この部隊の偉い人とその副官さんとのご対面中であった。
「おい、アイツの手綱はちゃんと掴んでいろといっただろ?なぜ単独行動を許した?本隊の騎士団から被害を
「単独行動を許す許さない以前に、もう居なかったんです!本当です!!」
副団長からそう投げかけられる問いに、自分なりの精一杯の反論を論ずる。
今回の
わかってはいたことだけれど、こちらとしても大きく反論できる材料もないために、事実を述べるしかなかったのだが
「副長、それぐらいでいいだろ、"てんさい"の単独行動は今に始まった事じゃないだろ?」
「団長、ですが一応は戦時です。勝手な行動をとって戦術、しいては戦略に影響を及ぼす事を鑑みれば・・・」
「解った解った。いつも通りに後始末はは彼がするだろうから。それでいいだろう?」
生真面目な副長に対して、団長は何時も通りの事なかれ主義を貫いている。
そして、何気に「いつも通り」とこちらに視線を投げかけてくる。
つまり、「面倒事の責任」を自分に対して抱え込ませてくるとかやめてください。
もうそれだけでお腹がキリキリと痛みだしてきます。
それでも、そんな厄介事を受けまいと、なんとか回避しようと試みようと
「ちょっと待ってください!!単独行動を制止できなかった事実はありますが、その役目は最初から私では無理だと伝えたはずです!」
と、討って出てみる。
この
つまり、責任の一端は二人にもあるはずと、案にそう言いたかったのだが
「おかしいな。私は、一言も”
「ええ、私も一語一文なりとも、言ってはいませんね」
平然と返してきやがりますか・・・
そうですね、たしかに言ってませんもんね!お二人は!!
なんというか、空気的に自分がやらされている感があり、今迄もそういう流れでそういったポストについている状況にされてたんですけどね!!
しかも、二人の視線がにやけているのも腹立たしい。
「それでも"てんさい"の胃袋を抑えている君の言う事ならば、素直に聞いてくれるのだろう?」
さらりと笑顔で先ほどの打った手のさらなる追撃を喰らってしまった。
ですよね、逃げ道あっさりと塞いできましたよ。
ああ、逆に自分の胃袋をだれか助けてくらいなかなぁ
そう、団長の言う通りこの傭兵部隊で"てんさい"と称されるアレと相棒を組まされ続けている自分にとしては、単独行動を制止するだけの方法を一応は持っている。
そもそも、力づくで"てんさい"を押さえつけれる人物がこの傭兵部隊にいない。
なにしろ、その武に関しては部隊の中で頭一つどころか、とてつもなく飛び抜けてすぎていて、誰も一対一で勝ったためしがない。
それどころか、一対一どころか一対二十でも勝ったためしがないというか、二十人側の方が手も足も出すこともなく"一方的な蹂躙"で終わったぐらいである。
その二十人の中には、魔法使いの部隊員も含まれてたのにもかかわらず、その放たれた攻撃系魔法すら「斬ってかき消す」とか意味わからない現象まで発してまで圧倒というか、もう暴力というレベルで、である。
そうして団内でつけられた二つ名が『歩く天災』からそのまま『天災』とか『同居する不条理と理不尽』とか『
あ、一番最後のは天災さん本人が、色々と言われていた二つ名が気に入らないらしく、自身がそう口走ってた奴になりますが・・・
ただ、"天災"という呼称に関しては、ご本人が"天才"として誤認している様で"天才すごい!"と喜んでいた為、部隊内で大抵こちらの方で呼ばれていたりする。
これ、本当の事知ったらどうなるんだろうかね。もしかしたら、"天災"その物の文字的意味を知らないかもしれないけど。
そんな部隊内での扱いも「歩く危険物体」「呼吸をする厄介事」「触るな危険」とはれ物扱いされていたのだが、そんな"天災"を抑えるための手綱として、そしてその相方として強制される決定的な事件がおこる。
それは、自分が初めての炊事当番の時に起こった。
「ほひょほひふひょうひほひひい!ひゃれはふふっはほ!?」
(意味:このお肉料理おいしい!!だれが作ったの!?)
と、炊事担当の時につくった、自身のオリジナル創作肉料理を口いっぱいにほおばりながら、巨漢な女性が放った言葉で、自分の部隊内での運命が決定づけられた。
「管理不行き届きと言う事で、まずは"天災"を探して連れてくるように」
担当者責任とでもいう事を強調するかの如く言葉をねじ込んできたよ・・・
そうだよね、逃げ道ないよね・・・
「ハイ、ワカリマシタ・・・」
あきらめの境地を悟り、その天幕から出ようと入口の布を開けたら、人垣が出来る中を遠くからこちらに歩いてくる人物が見えた。
「はなせ!!はなさんか!!!この筋肉女!!私を誰だと思っている!!!!」
「いいかげんうるさいな、静かにしろって」
どうみても、片手で持ち上げられるレベルでもない大きさでもない人物を、軽く片腕で抱き込むように抱えながら、猿ぐつわの代わりという風に、折れた剣の柄側を相手の口の中に放り込んでいた。
相手はなすすべなく口奥深くに突っ込まれて固定されてるし・・・うわぁ・・・
「おぅぁ・・・ぉぅぁ・・・!」
嘔吐しようとしても出来ないというこの無常なるジレンマ感みたいな、自分だったらアレ、やられたくないわ・・・
ふと耳に同じ様に「うわぁ・・・」という声が聞こえてきたので、そちらのほうを見てみると、自分と同じように眉間にしわをよせる様に団長と副団長もその状況を眺めていた。
そして、自分のそのドンビキな視線に気づいたのか、彼女は無邪気な笑みをこぼしながらこちらに声をかけてきた。
「"飯屋"!!相手の大将つれてきたよ!!これで明日から飯屋の飯くえるよね!?!」
えーっと、自分の名前、そろそろ覚えてくれませんかね?
ってぇ、ちょっと待ってください?!
今、すんごく聞き捨てならない言葉が混じった内容が聞こえましたよ?
何事かと出てきていた副長さんや団長さんも、目を大きく見開きながら、その彼女に抱えられて目を白黒してみている相手を見るや否や、「敵となってるなんとか公爵じゃないか・・・?」「ワタシの記憶にも、そうとしか・・・」とか言いあってますよ。
あーあー、自分は聞こえなーい聞きたくなーい
「というか、うわぁ・・・ほんとマヂで何やってるんですかあなたは・・・」
「それほどでもないよ?」
なぜか照れてくる天災さん・・・
「いや、褒めてないからね?全然これっぽっちも褒めてないからね?」
いや、ほんとにこれっぽっちも褒めてないのに、なぜうれしがるのだろうか。
「それで、ほかの敵はどうしたんだ?」
あ、再起動した副長が冷静に状況確認をしようと行動をおこしてきた。流石あらくれものたちと、非常識が混在する傭兵団をまとめ上げてる御人です。
「敵?うーん、強い奴なんていなかったけど?」
えーっと、あなたにとって「敵=強い奴」でしたっけ、そうでしたね。というか強くないと敵とすら認識しないっていう思考が非常識という事に気付いてくれないかなぁ。
ほら、副長すらも「何いってんだコイツ?」みたいな顔してるよ?
仕方がない、自分がうまく話を引き出していくしかないか・・・
「えーっと、その抱えている人物の回りにいた人たちがいたでしょ?」
「んー・・・あぁ!そういえばいたな!」
「で、その人たちをどうしたのかな?」
「ちょっと撫でたらおとなしくなったぞ?」
はい、ちょっと撫でておとなしくなった。頂きました。
あなたのその撫でておとなしくなったってのは、相手気絶したとか戦意喪失したとかなんですよ?
その言葉を聞いて、団長や副長も、「またか・・・」という顔にかわったよ?
まぁ、それはちょっと置いておいては、さらに聞き出してみようと
「それで、その後どうしたの?」
「一番大きい幕の一番奥に座ってる奴が大将と教わったから持ち帰ってきた」
あのね、捨て猫とか捨て犬とかを持ち帰る感覚で言わないでくれると助かるんですけど?
自分からは見上げなきゃいけないくらいの体躯に対して、似つかわしくない綺麗すぎる顔でにっこりと笑顔になっていても、全然魅力的に感じないのは何故なんですかね?
しかも、その回答を聞いていた後ろのふたりは、片手で顔を半分隠したり、眉間を指でつまんでたりしてますね、ええ、ええ、その心境よーくわかります。
「まいったな、本隊の貴族様にはどう申し立てしようか」
「同感ですね。彼らは面子を気にしますから、我々が手柄を立てる事すら嫌うでしょうし」
「だが、この状況を報告しない訳にもいかないだろう」
「ええ、そこが問題です。報告するとすれば、懇意にして頂いているライン侯に話を通すべきかどうかかと」
「うむ、それぐらいしか手がなさそう・・・か」
「はい。あとは、誰を行かせるか、ですかね」
「誰にするか・・・か」
とまぁ、視線を正面にもどせば、背後から自分が何とか聞こえる程度の小さな声で話をすすめないでくれませんかね、あと何故か視線らしき物が背中に突き刺さってるのを感じるんですけど?
ああ、これって自分が連れていけという流れなんですね?解りたくありませんよ?
それよりも、なんであなたは毎度毎度厄介事を持ち込んできますか?
ああ、もう、お腹痛い・・・
「あぁ、もう(傭兵団)辞めたい・・・」
「え?飯屋やめるのか?なら私もついていっていいか?」
ちょっと待ってください、なんでそうなるの!?というか付いてこないで!?
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