講師志望・4時10分

@maple03

第1話

時刻は午後4時を指そうとしている


「そういうことか」


タカアキはテスト用紙を見つめながらタイミングを図った


タカアキが教室を訪れたのは1時のことだ

訪問の趣旨を告げるなりカウンターにいた中年女性職員が

暗い上目遣いで出迎えてくれた

その目は「何しに来やがった」と語っている

お呼びじゃない


教務主任という男が尋問を始める「なんで個別を志望したのですか?」

「誰でもOK、年齢不問、みんな集まれ~!」と書いてあったからだ


渡されたエントリーシートに「あなたのアピールポイントは?」

「気が利く人とよく言われます!」と書いたところを

「具体的には?」と真顔で聞かれ、未経験と言っているのに

「受験指導もしてもらえるんですかっ!?」と畳み掛けられる頃には

タカアキの頭は真っ白になっていた


1時間のテストをしてもらうという


「30分くらいで帰ってもらってもいいですけど!」


渡されたテストは中学生レベルではあるけれど、人世を救う社会学など何の役にも立ちはせぬ


タカアキは懸命に空欄を埋めようとするが埋まらない

1時間が経過し、2時間・・、3時間・・?


背後の職員達はなにやら社内イベントの話で盛り上がり、

ここにはいない職員の噂話や失敗談の間のつなぎ話にタカアキの品評を行っている「これ・・!?」「おう、びっくりしたわ!」

なにやら薄ら笑いを伴っている


やがてロビーには小学生から次第に集まり始め、

そのうち始業を待つ中学生、高校生でいっぱいになった


生徒たちは好き勝手に騒ぎわまり、時折タカアキをチラ見する


ぽつんと置かれたテーブルにしがみつき、タカアキはテストを睨みつける


「厳選された講師陣」とはこういうことか


時刻が4時10分を廻った


時は来た、それだけだ・・


「ゴラアアアアアッ!!」


タカアキは咆哮とともにテスト用紙を両手でぐしゃぐしゃに丸めると、

カウンターに駆けつけて主任の男に投げつけた


隠し持っていた三段式特殊警棒を取り出すと振り抜く


シャキーン!!


50センチに伸びた警棒で野郎の横っ面をフルスイング


「この低学歴が!!」


タカアキは唸りながらカウンターに乱入すると、

うずくまる主任の男をめった打ちにした後でアゴを蹴り上げた


次に唖然と見ている若手職員の目を突いてから乱打してから

そこらの花瓶を叩き割り、生徒たちが作ったと思しき粘土細工から飾り物から

片っ端から破壊し、辺りをササラモサラにしまくった


震えている中年女性職員に警棒を突きつけると言った

「なんで俺が怒ったかわかるか!?」


女性職員は深々と頭を下げると

「当方にも不手際があったかもしれません、今後このようなことがなきよう・・」

タカアキは人間力を発揮するその脳天に警棒を叩きつけると、

卒倒したブヨブヨ腹を蹴りつけ、吹き飛んだメガネを踏み壊した


「イマドキのイケメン茶髪ならてめえらのコミュ力で探しやがれ!!」


そしてカウンターの上に飛び乗って書類等をひとしきりササラモサラにした後、

棒立ちで見ている生徒たちに警棒を突きつけた


「よく学べよ」


「はいっ!」子供達はナイスな返事をした


「よろしい」


タカアキはにっこり笑うと短期職歴と空白だらけの履歴書を奪還し、

教室から遁走した


さぁどうする?帰る場所なんてどこにもないぜ?

刺せば監獄、刺されりゃ地獄


タカアキが警棒を携えたままモールを抜けて幹線道路を走るうちに

パトカーのサイレンが聞こえてきた


おいでなすった

パトカーからポリス達が降りてきて商店街へ駆け込んだタカアキを追跡する

住民たちも調子に乗ってタカアキにタックルを仕掛けようとする


追ってきた住民の1人が転倒し、警官たちも巻き込まれた

うわっ、マキビシだ!


タカアキは雑居ビルに駆け込むと、最上階までエレベーター、

そこから階段で屋上へ、さすがに息が切れてきた


屋上で寝転がっていると増援を加えた警官隊が続々と姿を現し集結してきた


タカアキは追い詰められた

背後にはフェンスとその向こうに拡がる空だけだ


偉そうな警官が説得を試みる


タカアキは大きく息を吐くと警官たちに向けていた警棒を放り投げ、

ニッと笑って肩をすくめてみせた、そして俯いた


それまで下手に出ていた偉そうな警官が警棒を拾い上げると

部下に渡し、今度はいよいよ胸をそらし返ってタカアキの捕獲に向かった


「ファッキンジャップぐらいわかるよバカヤロウ!!」


タカアキは吐き捨てるとフェンスを乗り越え

空中へと大ジャンプ、警官たちはその背中を見送るしかなかった


落下するタカアキを飛来してきたダッチワイフ

「ハメドールさしこちゃん」がタイミング良く正常位にキャッチした


「愛してるぜさしこちゃ~ん!」


タカアキはさしこを抱きしめてアウフヘーベン

夕日に薫る西の空へカラスとともに飛び去った

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