第6話 タイ 空港までの送迎バス(?)
「それじゃ、明日の朝十時発。ヤンゴン着の便で良いわね。滞在は一週間。帰りの切符も手配済みだからね(多分こんな感じの英語)」
「イ、イエス、サンキュー」
「ウェルカム、時間に気をつけて。良い旅をね(恐らくこんな感じの英語)」
「?」
「グッドラック」
「サンキュー」
タイのカオサンロードにある旅行代理店で、僕は生まれて初めて英語で飛行機のチケットの手配をした。
最初は不安の塊で店内に入っていったが、向こうも英語が喋れない旅行者の対応に慣れているらしく、かなり丁寧に応対してくれた。チケットの手配までに正味二時間もかからなかったと思う。
僕は難なく次の目的地までの切符を手に入れた。
値段は3,700バーツ。これも高いのか安いのかよく解らなかったが、飛行機の往復代金が3,700バーツに対して初日のタクシー代金が1,600バーツ。明らかにタクシー代をボッタクられた事を実感していた。
僕の泊まっていたゲストハウスでは空港までバスの送迎をやってくれているようで、100バーツ以下の値段で時間も広範囲に渡って運行しているらしかった。これを利用しない手はない。代理店から戻った僕はさっそく例の受け付けの少女にバスの手配を頼みに行く。
「明日の朝、空港までのバスをお願いします」
「あら?出発するのね。何時?」
「八時のバスで」
「オーケイ、じゃあ明日十分前のくらいにここに来て」
「サンキュー」
「サンキュー」
六日も滞在してたのに少女の反応はすこぶるドライだった。確かにロクなコミニュケーションもとっていないから当たり前なのだが、幾らなんでも少し寂しかった。どのみち次タイに戻って来てもここに再度泊まるつもりは無かった。ここは建物自体は綺麗だけど、高いし日本人がいなさ過ぎる。話し相手が欲しかった。次は日本人宿にしようと固く決意したのだ。
その夜、ひとまずタイのゲストハウス最後の夜という事で常連になった下のカフェでポークソテーとタイ米のセット食っていた。正直大して美味くもなかったけどどうしてだか感慨深い味がした。
夜眠る前に少しだけミャンマーのガイドブックを読み、まだ見ぬ新天地に期待を膨らませて目を閉じた。
翌日は朝早くに目が覚めて、僕はいつも通りに散歩に出掛けた。いつも通りの道を通り、すっかり見慣れたチャオプラヤー川にしばしの別れを告げた。たった六日間で何を大袈裟なと思うかもしれないが、僕にしてみれば孤独なこの数日間でチャオプラヤー川が心の拠り所だったのだ。
ゲストハウスに戻って支度して部屋を後にする。ロビーに降りて行くと既に車が待機していた。しかしソレはバスというかただの少し大きめのバンで、中に入ると欧米人がギュウギュウのすし詰状態だった。全員が狭過ぎる車内で酸素不足に陥っており僕が乗り込むと
「なんだテメエ、まだ乗ってくんのかよ」
とでも言いたげ目で僕を睨んでいた。
「恨み言ならバス屋に言えよ」
と心の中で言い返し、僕はすし詰の仲間入りを果たした。
来た時と同じように流れて行くタイの見知らぬ風景を眺めながら、いつかこれを懐かしく思う日が来るのだろうかとただ呆然と考えていた。タイの最初のお別れは実にあっけないものだった。
そしていよいよ。ミャンマー入りを果たす。
続く
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