第6話 あんた人を呪う才能あるよ

 あたしが引いているのにも構わずに、奥野さんのおしゃべりは続く。


「ちょっと気難しくて近寄りがたい雰囲気あるけど、いいなぁ、素敵だなぁって思って眺めてたの。実は私イケメンウォッチングが趣味で」

「は、はぁ、それはまた斬新な趣味をお持ちで……って、あたしイケメンなの???」

「うん、美形ってカンジ! その姿もばっちり似合ってるけど、私は普段の野性味あふれる姿のほうが好きだな」


 そして「まだ進学先が決まってないなら女子校も視野にいれてみて、鈴木さんは女子校こそが真価を発揮できる場所だと思う!」と、熱心に勧められてしまった。

 いやいや、そんな不純な動機で進路を決めるのは如何なものかと思います。

 ちなみに、ならば男子ウケする女子とは一体どんなものだろうと気になって訊ねてみたら、奥野さんは興味なさそうに窓際の調理台で皿洗いしている女生徒を指差した。

 ツインテールが印象的な小柄な女生徒は、たしか太田とかいったかな。

 全体的に小作りで整っていて、顔は少し丸いけど、目が大きくてまつ毛が長い。

 仕草などがいちいち女の子らしくて、ものすごい美少女って程ではないけど、リアルな可愛さがそこには詰まっていた。


(うむ。あたしとは違う種族だ)


 そうこうしている間にも時間は確実に歩みを進め、授業終了のチャイムが鳴り響く。結局ほとんど手伝えなかったけど、出来上がったクレープはそれなりに美味しかった。



◆◇◆◇◆



 ぐぬぬぬ……。

 腹立たしいことに、ホームルーム終了の合図とともに教室から逃げ出す計画はマッハで頓挫された。

 あたしがカバンに手をかけて立ち上がろうとしたら、すでに西園寺が目の前にいて、足止めをくらったのである。

 アクション起こすのはえーよ。こいつ絶対すばやさ255あるだろ。



 さいおんじは いっしょにかえりたそうなめで こちらをみている

 なかまにしますか?


 はい

→いいえ



「鈴木さんもう帰るの? よかったら一緒に」

「ごめんなさい、今日は用事があって急ぐの」


 やーだよ。

 一緒に帰ったりなんかしたらどんな噂をたてられることやら。西洋人の血が混じっているあんたは気にならないかもしれないけどさ。

 今だって何人もが耳をダンボにしてこちらの様子を窺っているんだ。純日本人の奥ゆかしいあたしとしては断固拒否するッ!

 そのまま戸口に向かったところで、西園寺が悲しそうにぼそりとつぶやいた。


「そっか……残念だ。時間があれば、これを葬るのを一緒に見届けてほしかったんだけど」


 言いながら自身のカバンからごそごそと取り出したのは、藁でできた不恰好な手作り人形だった。

 こ、これは……まさか……!


「それ、なに」


 あたしが口元をひきつらせながら問うと、西園寺は手にしていた不恰好な人形を『お守り』と称した。

 ちげーよ! それ藁人形だろ!!!


「このお守りはね、一度この土地から離れた時に作成したんだ。なかなか手放し難くてずっと持っていたのだけど、いい加減けじめをつけようかと思って」


 そう言って西園寺は透き通るような笑顔をみせた。そして、


「もう必要ないから捨てる。焼いてくる」


 ひいっ。まてまてまて――――!!!

 こいつが去った後の不運な日々がよみがえって、今、心拍音が凄いことになってるぞ。

 これは危険なものだ。ただちに確保してお寺で供養してもらわなくてはならない。


「そ、その人形可愛いっ。いらないならちょうだい!」

「こんなの物が欲しいの? 鈴木さんのセンスって独特だね」

「う、うん。私、人形とか大好きでね、その子に一目ぼれしちゃったみたいなの。どうしても欲しい。絶対ほしい。お願いします。ね?」

「……どうしようかな。焼き払うところを鈴木さんにも見届けてほしいと思ったけど、欲しがられるとは思いもよらなかった」


 そこまで言うと西園寺はちょっといじわるな顔をして、「一緒に帰ってくれたらあげる」と告げてきた。

 おいっ。あたしは用事があるって述べたばかりだけどぉ!?

 なんとかして人形だけ貰えないかと粘ってみたものの、西園寺は頑として首を縦にはふらなかった。くっそ。

 交渉に失敗したあたしは観念して、笑顔をひきつらせながら一緒に帰ることを承諾する羽目になったのである。ギギギ。



「予定があるんじゃなかったの? べつに明日でもよかったのに」

「う、うん。よく考えたら急ぐこともなかったから」


 こっちは一刻も早くそれがほしいんだよ!

 ああくそ、ヒガシが部活じゃなかったら、襟首を引っ張ってでもついて来てもらったのに!!!

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