第壱拾捌話:Takoyaki@TheUnderground

 トーン、トートート、テケテーン

 トーン、トートート、テケテーン

   

 外宇宙金属酸性雨が降注ぎ、健康を損壊したルナティックムーンはどす黒く痘痕あばたな痴貌をかれこれ十日以上見せてはいない。ここはネオキリューガヤ。


 ケブラー繊維のノレンが汚染された雨を吸い、LEDボンボリの下で力なく垂れ下がっている。

 ムコウミズストリートの中でチョー・チョーも近寄らない、イマドキから外れた時代錯誤の店、それがチュルニャオオキイヨだった。


 ここはオスシ・カウンターか? いいや。

 ならばニクノドンブリ屋か? いいや。

 クールヤッコデリバリーか? いいや。


 焼き目のついた丸いボールが綺麗なマスマティクスとなって灼熱した鉄板の上で転がされている。海産物のコウバシイ香り!!

 イニシエ、ジョウモンからの、日本のデントウ的ファストメシ、ベストオブコナモノ、それがタコヤキ=ボールである。


「ヘイヘイヨ、ヘイヘイヨ」


 軒下の店主が目にも留まらぬテクニックでピックをさばきタコヤキ=ボールをひっくり返す。

 同魂型ヘッドマウントディスプレイに流れる舞子天気予報マイコチャンネルを眺めながら篭手返し。

 


醤油也ソイヤ」回転。「醤油也ソイヤ」回天。「醤油也ソイヤ」回転。「醤油也ソイヤ」回天。「醤油也ソイヤ」回転。「醤油也ソイヤ」回天。「醤油也ソイヤ」回転。「醤油也ソイヤ」回天。「醤油也ソイヤ」回転。「醤油也ソイヤ」回天。


 サイバネcybernetics義手でもないのにこれだけのことを出来る者は多くない。

 バカメ! ウォーランウータンハシンダワ!!


 タコヤキ=ボール。


 ヤマト・リパブリックの地より伝わったもので、コムギコ粉末の中にトウフミート、クレナイジンジャーを練りこみ、その生地に、ごろりと大振りにチョップされたバイオタコの切り身が投入されている。ボール状に焼きあがるそれは、麻薬性ハシシュはないが、そのトリコになった者は数知れぬ。ただ、ネオキリューガヤの地にはそれほど根付いていない。スポンサーダイカンシャ!!

 

「ヤグ・サハ。テンシュ=ソコモト、オマエハシンダ。タコヤキを寄越せ」


 店主が手を止めずにぐりっと眼球だけを動かす。軒先にいかにも、というヤクザモノネアンデルタールが二人立っている。


 双方とも同じ顔で同じように流れるような動作で致死毒の粘菌タンを吐いた。


 その後ろで放射能迷彩防護マスクに黒の三つ揃えスリーピースを着潰した気障キザな男が器用に煙草平和をしがんでいる(防護マスク越しに!! 防護マスク越しに!!)。


「ヤグ・サハ。イア! ラッシェー」高速でバイオタケフネにタコヤキ=ボールが盛られていく。  


 六個入りで三百円。オスシ・カウンターでオスシを三皿食べられることを考えるとそれなりに高い。


 それを三フネ。


ザッケンナーラーラーキャッキャーキャハー!! ファッキンドックサレオクトーパッスがーDead, rotten Cthulhu!!」


 胃の腑をぎゅうぎゅう締め付け垂涎止まぬ湯気を上げるフネを受け取りざま、地面に叩きつけてからヤクザがまた致死毒の粘菌タンを吐いた。


「ンナァンーラーウホゥルァァ。何度も言わせんなキャッキャーキャホホゥー」


「私の鯨鯢ボス、モットアメージング希望している。ヤグ・サハ、この土地全部、ジアゲしちまってマルカジリ」


 店主にとっては臍茶釜な案件だった。ヤクザサルヲタモノウスノロに因縁を付けられていちいちメクジラを立てていては一国一城のアルジはつとまらない。


「なぁ、テンシュ=ソコモト。になってるんだ。分かんだろIt's clever、この土地だけだ」 


 気障な収容委員会ジアゲヤである。ヤクザ二体。


 店主はヤクザに一瞥くれると再び、生焼けのタコヤキ=ボールを回転させ始めた。

 合点承知の助兵衛よ。おのれの土地がヤクザ・テリトリーゴリラレンジ内に存在していることなどは。 哄笑。

 何処にいるのだ、一城をまんまと取り上げられる阿保アホウなんて。店主はそんなヒョットコドッコイではなかった。哄笑。


「インガオホッホッホー!」ヤクザは剛毛逞しい懐に指先を突っ込んでフルオート連射可能なマシンピストルチャカを取り出し致死毒の粘菌タンを吐く。 


「ヤグ・サハ」


 ヤクザ肉の横から声がした。黒松色のトレンチコートに棒火箭を背負っている。外宇宙金属酸性雨が撥ねてヤクザ二体たまよけの脚毛を汚した。ハンチングを目深にかぶったその男は続けて言った。


「タコヤキ=ボールは一フネ何個ですか?」


「六個です」


「それじゃ、一フネ。それとアッタカイサケを」

真っすぐに男の指先が「付喪神百年午睡」と書かれた勘亭流に伸びている。


「ヤグ・サハ! ラッシェー」


 男は寒そうにトレンチコートの襟をそばだて、超速回転しながら焼きあがっていくタコヤキ=ボールを見つめていた。


棒火箭? ンンンダコラ?ウホッ? ンッキャーキャ?」ヤクザモノが腰をかがめて男を下から睨んだ。矢場やばくハカバニチカイ! 凶相ガンツケである。


 普段なら、この動作過程で大抵の者は失禁するが、あいにく男はキカクガイなことをヤクザモノは知る由もなかった。当然である。ソウカイグループに通じるものゴリーランルールであればこそ、マッタンのヤクザゴリラの悲しいところだ。

 また、ソウカイグループゴリーランルールにツテのないしがない収容委員会ジアゲヤの気障男も同様だった。


「今夜も冷えるね、テンシュ=キデン」


 男は「付喪神百年午睡」と彫り付けられたトックリを渡されるとオチョコに注いで一息にあおった。

 くうううう!!

 あたかもコマーシャルのごとく、美味そうに頬を緩ませる。


 立ち飲みこそ、外宇宙金属酸性雨に冷えきったウシミツアワーの楽しみである。「スゴイトテモビミデアル」その間、ヤクザモノは激怒した類人猿のごときゴリティカル渾身の右フックナックルウォークを男のボディに放っていたがかすりもしなかった。「ンホォォォォ?」ヤクザモノはまたその横でマシンピストルチャカを弾こうと軽すぎるトリガーを引いた。

 20発の9mmパラベラム弾Si Vis Pacem, Para Bellum

 柔肉を抉って殺傷したらしめる凶弾だがかすりもしなかった。「ンホォォォォ?」


 ジアゲ屋も首をかしげ呟いていた。「ンホォォォォ?」



スッゾオーラーイッンッキャッキャーッ!!」


 からぶったパンチファンブルをいぶかりながらも水を差されたヤクザモノゴリラ1闘牛然モーゼンといきり立ったが、男も店主も意に介さなかった。


 ヒットしなかった弾丸をいぶかりながらも水を差されたヤクザモノゴリラ2闘牛然モーゼンといきり立ったが、男も店主も意に介さなかった。


「それじゃあ、オアイソしてくれたもう。此処に五百円ダマを一枚」棒火箭を背負いなおし、コートをひるがえしつつ、男は視線を店主に放りやったが、返ってきたのは「オオキニヤイト!」の素っ気ないこだまだ。

 男は去った。店主の動作から器量を見極めたうえでの弾正台……いや、ノントラブルが信条のヤスケ・サジらしい立ち居振る舞いである。


なんだノンあいつノンワッケワカンネエバナナン」「さあなノンワッケワカンネエバナナン


 顔も仕草も相似しているヤクザモノゴリラが同じように震えていた。寒さゆえではない。突如沸いた尿意をこらえる。結石かもしれない……。

 一人はからぶった右コブシをさすりながら。一人は硝煙を漂わせるチャカの銃口を見つめながら。

 それもまもなく。ヤクザモノ二体ゴリラクローンは最初の目的を思い出し、われに返った。土地収用ジアゲである。

 ジアゲボスHomo sapiensは金と権力が欲しいだけだ。アラゴトの役には糞ほども立たない。糞は投擲できるゴリティカル


 ヤクザモノはLEDボンボリをワンツーパンチで圧倒的粉砕し、ノレンの架かっているバイオタケをやおら引き抜き、ハスにかまえ、そして致死毒の粘液タンを吐いた。


ワッハハハハハワーキャキャキャキャキャ感傷的な光景だなウホホホウ実際早いウッホーウ!!」「そもそも早いウッホーウ!!」


「ヤグ・サハ。死んだら終わり。私のジアゲのお金いらないです。チャメシマエ。ヤッチマエ!!」 


 韻を踏んだジアゲ屋の怒号が飛んだ!怒りのドラミング!。 



 バイオタケが振り上げられ、振り下ろされる。マシンピストルチャカが構えられ、トリガーが引かれる。


 ボンボリが消え薄暗くなった店内で、店主はピックを超速回転させている。


 DOGAGAGAGAGAGAGA!! BTOOOOOOOOOOOMM!!!!


へっキャッざまあねえウキャキャキャ……ってキャ……ゴボボーッ!?」


 ジアゲ野郎Homo sapiensはタコヤキ=ボール屋「チュルニャオオキイヨ」の軒先が、

 放射能迷彩防護マスクの向こうで徹頭徹尾に破壊され、粉砕され、千切られ、木端微塵になるのを見た。


 いや、幻視した。そして嘔吐した。 


 ジアゲ屋の放射能迷彩防護マスクにタコヤキ=ボールをつまむツマヨウジが刺さりグラスにひびを入れていた。粉砕! 絶対安心の防酸、防毒、防刃、防塵、防弾加工なのに!? その上、IRCでこの事を類人猿施設ゴリラレンジに伝える手段も消え失せた。


 左右を固めていたヤクザ(経費をケチった所為だ、クーロンヤクザShoggoth-10型)二人はジアゲ屋よりもっと悲惨な運命をたどっていた。


 平時においてはいたって普通の、しかし今となっては冒涜的なまでに禍々しい「明朗会計」「食材確保」の四文字が店主の装着している同魂型ヘッドマウントディスプレイの鏡面にLEDとして浮かび上がり、狂神的透徹な無言の意思表示としてユッグゴトフの血痕を暗示するかに明滅し流れていく。

 ヤグ・サハ! 眼にも見よ!!

 やおら店主が鉄板の上でオーケストラの指揮者のようにピックを躍らせたのだ。 



「IAーth」超速回転。跳ね上がったタコヤキ=ボールがヤクザの腕にめり込む。(ゴア表現!!)超速回天。


「IAーth」超速回転。(ゴア表現!!)「IAーth」超速回天。(ゴア表現!!)「IAーth」超速回転。(ゴア表現!!)「IAーth」超速回天。(ゴア表現!!)「IAーth」超速回転。(ゴア表現!!)「IAーth」超速回天。(ゴア表現!!)「IAーth」超速回転。(ゴア表現!!)「IAーth」超速回天。(ゴア表現!!)



 瞬きをするごとに、タコヤキ=ボールが口当たり柔らかなコナモノにあるまじく、まるで宇宙の開闢直後、時空が指数関数的に急膨張したインフレーションの終了後に相転移により生まれた超高温高密度のエネルギーの塊に弾かれたベアリングボールのようにヤクザの腕といわず、顔や胸や股座またぐらに撃ちこまれていく。さながら卓越した未知の次元に棲むガンスリンガーの所業である。ものの数秒でヤクザモノはまばらに繊維をまとった、ただの自主規制ひきにくと化した。 


「ヤ・ヤグサハァァァァァァ!! そ、尊君は一体……?!」


 と続けようとしたが、ジアゲ屋Homo sapiensは最後まで言い遂げられなかった。


 瞬き一つ、後を追うように、ジアゲ屋Homo sapiens自主規制ひきにくと化した。


「沢山撃つと実際当たりやすい」


 真理である。であるが、それを実行するのは容易いことではない。

畜舞エ也ちくまえや 悪姿待餌あしまに 伴棲ともす 炬火都かがりびと 伴餌ともに 帰依逝躯きえゆく 環我見業わがみなりケリ」

(畜生どもよ、悪しき姿を餌に待ち、伴に棲まん、かがりびの都、伴なう餌よ、帰依し逝かんとからだは、環におのれの業をみるだろう)

 付喪神百年午睡に酩酊しているかのように熱い息を吐き出し、店主は夢見ごちた。


 いあ! 星辰揃いて黄泉がえりし深淵の旧支配者よ!

 しかして誰あろう!! トヨトミ=クランに属し、ヒガシカタを恨み骨髄に徹する、ロクジョーカワラで斬首されたかつてのグレータージブノショウ、ミツナリイシダのソウルが店主には宿っているのだった。  


 ひとえに、タコヤキ=ボール屋「チュルニャオオキイヨBigC」がヤクザモノの手にかからず存在しているのは、ミツナリイシダのソウルが持つ意志のためゆえである。店を襲撃するヤクザモノはすべからく同じ運命をたどる。


 店主が店から出てくる。

 ソウルはもう姿を消していたが、独りの狂ったタコヤキ=ボール・ジャンキーBigCと、

 ミツナリイシダとを、どうやったら区別出来るのか。否、常人には出来やしない。


 店主BigCは、三人の(いや、もはやバイオミートと呼ぶのが相応しい)身体を引っつかみ、苦もなく店裏まで移動させるとニュルニュルと軟体動物が蠢く巨大水槽にぶち込んだ。店主BigC自慢のオーガニックタコ、クトーニアンの生け簀である。

 ヤグ・サハ! ル・リエー、フタグン!!

 慣れた手つきでの後始末である。こうして幾多のHomo sapiens、Shoggoth、Tcho-Tchos、Yah-Tehが言葉を残すこともなく、姿を遺すこともなく、闇に葬られていったのだ。


 時折襲撃に来るHomo sapiensなど、クトーニアンの餌だ。こうして、店主は、ネオキリューガヤをタコヤキ=ボールでわが世のニルヴァーナに。そしてミツナリイシダはヒガシカタを討伐し天下を獲るという野望で合致していた。


 ジョウモンより伝わる名言、アブハチトラズとはこのことである。



【補陀落山の佐治さん:

 第2018話『石田三成はBigC!? 決戦! ネオキリューガヤ!!』】



 トーン、トートート、テケテーン

 トーン、トートート、テケテーン

 待てども果てども星辰夢見のお伴に一本「付喪神百年午睡」、

 酒造会社九十九蔵 の提供でお送りしました。

 番組企画制作:霧生ヶ谷ケーブルテレビ

 (C) 2018 真霧間キリコ

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