鵺の花
天竜 天女
第0章 黒鬼生誕編
巨大樹
地元の公立高校に入学してから数ヶ月。
中学の同級生ばかりだったせいか、あまり新鮮さを感じないままの生活を送っていた。
その日もいつものように、退屈な一日であった。
朝食を食べながらテレビを眺めていると緊急地震速報が流れた。
どうやらこの近くのようだが、震度1であったため俺は全く気づかなかった。
朝食を食べ終えた俺は制服の身だしなみを整え、いつものように高校へと向かう。
両親は仕事で俺よりも早く家を出ており、帰りもいつも遅く、日付が変わってから戻る時もあった。
そのせいか、小さい時からあまり会話をすることがなかった。
温かさを通り越して暑さを感じる中、足早に歩いていた。
すると、草が刈られ整理された空き地を過ぎたところで、小さい時からの親友である
家が隣同士と言うわけではなったが、歩いて2、3分の距離であったためよく遊んでいた。
いわゆる、幼馴染というやつだ。
「珍しく早いな、榊」
「数学の宿題のプリントやってないから学校行ってやろうと思ってな」
「あっ! 俺もやってない……」
「なら急ぐぞ」
息を切らしながら教室に着いた俺たちは、急いで宿題に取り掛かった。
互いに数学が得意であったため無言ではあったが、どちらが先に終わらせられるかを競い合っていた。
学年で1、2を争うレベルではなったが、こいつだけには負けたくないという思いはお互い持っていたのであろう。
結局二人ともぎりぎりで終わったため、勝敗をつけられるような余裕はなかった。
榊はクラスでも明るい方のグループに属しているようなタイプの人間で、嫌々させられた学級委員も難なくこなしていた。
スポーツも大抵は何でも人並み以上に出来る上、勉強も真ん中より上にいるためクラスでも信頼の厚い人物であった。
そんな榊を俺は羨ましくも、哀れにも感じていた。
どうして他人にそこまで尽力できるのか俺には理解できなかった。
そんな俺はというと、明るい方のグループに行けばそこで順応し、暗いほうのグループに行けばそこでまた順応する、悪く言えばどっちつかずの人間であった。
浅く広くの繋がりが多かったが、もちろん榊以外にも数人は心を開けるような仲の友達はいた。
勉強も全体的に見れば真ん中よりは上であったが、
スポーツは運動音痴であるため、何をやってもうまくいかなかった。
昔から両親は仕事で土日も家に居ないことが多かったため、近くの友達と遊ぶことが多かった。
しかし、中学や高校にもなるとそうはいかなくなったが、その分部活や塾などで時間は潰れていたため、孤独感はあまり感じていなかった。
正しくは感じないようにしていたと言ったほうがいいだろう。
だからこそ学校にいる間は知っている誰かがいるという安心感がほしかった。
その日の学校でも榊が輪の中心で、俺はそれを外から眺めているか、その輪に参加するかのどちらかであった。
榊が太陽なら、俺は雲。
それが俺にとっての日常。
榊にとっての日常。
それでも俺はそれに対して不満はなかった。
そんな日常を終えた放課後、珍しく榊と二人で下校することとなった。
そのため、その日の気分によって変わる歩調を榊に合わせながら俺は榊と話していた。
「今度さぁ、クラスの奴が2、3人家に泊まりに来るんだけど、お前も来いよ」
メンバーを聞いてみると嫌いな連中というわけではなったが、仲のいいと言えるほどでもないメンバーであった。
こういうのを断るのは悪い気もするが、正直面倒だった。
「親的にたぶん無理だから……」
俺は親の言いつけを基本守っているから、そう言われたらそれに従う。
反抗期と呼べるようなことも特にはなった。
その分、親孝行もしたことがないし、する気もない。
そんな俺は周りから、いい子だとか、やさしい子だとか、まじめな子だと言われてきたが本当はそんな人間ではない。
俺自身が一番よく知ってる。
俺は嘘つきだ。
嘘で作った自分は嘘の人生を生きていく。
だから俺は、榊の誘いも嘘で断った。
「そうか……じゃあ、また今度な」
「あぁ」
朝に榊と出くわしたところで、俺たちは別々の道に分かれた。
日も傾き、夕焼け空が赤ではなく紫色になっている珍しさに心を奪われながら、朝と同じ空き地を通り過ぎた。
なぜたか朝と違い雑草が生い茂っていたが、あまり気にならなかったためそのまま帰宅した。
次の日の朝
目覚まし時計を止め、もう少し寝るか寝ないかの葛藤を終えた俺はベッドから起き上がった。
その時、地面から強い衝撃に襲われた。
――地震!
頭では分かっていても緊急時であるせいか、体が言うことを聞かないままベッドの上でひたすら地震が治まるまで耐えていた。
窓が割れることもなく、小物が落ちる程度であったため、怪我をすることはなかった。
落ち着きを取り戻した俺は窓の外を見て驚愕した。
夜になっていたのである。
時間的には間違いなく朝であるため、正確に言うと空が暗くなっていたというべきだろう。
「なんだよ……あれ……」
青い空や白い雲は見えず、その代わりに木の枝や葉が空を覆っていた。
その枝を目で追いかけていくと、遠くの方で昨日まではなかった巨大な木が聳え立っていた。
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