なつうた

こうやって彼女は記録になる

ぼくの頭の中で生きるものになる

彼女の影は色濃くアスファルトに移って

ぼくがそれを見て微笑んでいたあの夏が

いつの間にか歴史になる


彼女の口ずさんだ歌が

ぼくの耳に残るのに

彼女の中にはぼくはいなくて

心焦がすのはぼくばかりなのだろう

幻の声と花とあの夏はもう二度と来ないのに

夏だけは均等にぼくの元にやってくるんだな


彼女の口ずさんだ歌の題名がわかって

それを聴いてたら彼女に会いたくなって

もう会えないんだなと思い知る

会いに行けるんだ今だって

それなのにぼくの時間は進まない

足が動かないのは何故だろう


側にいたいんだいまだって

君に必要とされてたい

それなのにそういう訳にもいかないな

世界は残酷だなんて知りたくもないこと

知ってたんだ知らないふりしてただけで

そうやってるだけできみの側にいれたんだ


彼女と歌った歌をまだ覚えてるんだ

題名も何もかも全て

全部鮮明に今でも思い出せるんだ

それなのに君はいないんだな

そうやって縋っているのはぼくだけだろうな

それなのにやめられないんだ


鳴いていた蝉と蒸し暑いあの空気が

済んだ夏空に吸い込まれて

入道雲の側を飛行機雲が横切って

夏だなって眩しそうにする君を

もう見れないんだなって残念がってるのは

ぼくくらいのものだろうな


ぼくの中の彼女は永遠の幻で

今の彼女はあの頃の夏じゃない

あの夏は二度と来ないけど

それでも会いたいと言えば

彼女は笑い飛ばしてくれるだろうか


彼女は遠くに行ってしまって

ぼくは追いかけることすらできなかったけど


そこだけは変わらないでいてくれるだろうか


そこだけは変えないでくれているだろうか

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