AWAKENING
嘆いている間もなく、サイドテーブルに置いたばかりのスマートフォンの着信音が短く鳴る。
噂をすれば影、とはよく言ったもので、LINDAからのチャットメッセージである。
『エマージェンシー発生。CANDY、至急連絡されたし。LINDA』
「だったら自分から連絡して来いっつーの。」
あたしは先刻から続く憤りもあって、悪態をついた。
自分の名誉の為にも言っておくが、職業柄基本的には我慢耐性は強い方である。
だがこうもボヤキ癖がついてしまっている要因は、あたしの周りの人間達の超マイペースぶりの所為なのだ。しかも菖蒲などは、祐梨のツッコミは斬った刀で斬り返してくれるから気持ちがいいなどとのたまうので始末に悪い。
とはいえ、彼女のボケはあたしを退屈させない一服の炭酸飲料みたいなものなので、大目に見てやって頂きたい。
さて仕方ない。すっかり目が覚めてしまったあたしはスマートフォンを手に取ると、LINDAへIP電話を掛けた。
流石はエージェント、待たせる事なく直ぐに電話に出る。
「CANDYか?」
「ええ。どうかした?」
「トレジャーモンスターの隠しアイテムの出し方が解らな・・・」
ピッ!あたしは速攻で電話を切った。
折り返しのコール音が鳴る。溜め息一つすると、着信ボタンを押した。
「で?」
「相変わらずジョークが通じないな?」
「また切ろうか?」
「まあ待て。実はWTHA(世界トレジャー・ハンター協会)から連絡があってな。会長直々の依頼だそうだ。」
「トリプルビルの?」
「ああそうだ。君が海外でミッション中なのは伝えたが、先方もあまり時間の猶予がないらしく、直ぐにも着手して貰いたがっている。どうする?」
「勿論受けるわ。」
あたしみたいなルーキーのトレジャー・ハンターに対して、会長からの依頼などそうそうあるものではないのだから、願ってもないチャンスだ。迷う事なく即答した。
「OK英断だ。そう返事をしておこう。詳細は次の連絡で伝えるが、恐らく直ぐに飛んでもらう事になるだろうから、出立する準備だけ整えておいてくれ。」
「解ったわ。」
「ヨロシク!」
「じゃあね。」
笑えないユーモアの達人でもあるエージェントだが、LINDAは実に凄腕だ。
あたしがトレジャー・ハンターの世界で頭角を現してこれたのは、彼のサポートの尽力が大きい。
基本的に彼の取ってくる仕事は、危険も伴う反面、遣り甲斐もある。そもそもデカいミッションには危険は付き物だし、或る意味危険の大小そのものが、トレジャー・ハンターというアンダー・グラウンドな職業の仕事の尺度を示している部分もあるのよね。
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