DUNE

ザザーッサザザザーーッ!

砂埃を濛々と舞い上がらせながら、あたし知念祐梨はサンド・ボードを華麗に駆って、小高い砂丘の急斜面を猛烈な勢いで滑り降りてきた。

こぶを飛び越える大きなエアを極め、エッジを滑らさせて巧みに停まると、虹色に輝く偏光ゴーグルを額の上に掻き上げた。

滑降してきた丘の真上には、雲一つない夜空が広がっていて、真円の満月が怪しく輝いている。

フーッとひと息ついたのも束の間、無数の吹き矢がヒュンヒュンと空気を切り裂き、あたしの髪をかすめ飛んでいった。


「もう、ホントしつっこいわねーッ!そんなんじゃ女の子にモテないわよーッ!」

敵の姿を確かめる余裕もなく背後に向け叫ぶと、慌ててゴーグルを降ろして再び滑走を開始した。




エージェントのLINDAがこの話を持ち込んできたのは、一ヶ月半前のことだった。


「自然科学博物館からの依頼だ。内密の

内に盗掘品を元の墓所に戻して欲しいそうだ。やってくれるなCANDY?」


「見つけるんじゃなくて戻すの?いつもと逆じゃない?」


「元々イリーガルな方法で手に入れたお宝だとかで、展示はおろか所有してること自体ヤバいブツらしくてな。」


「何を今更。ロンドン博物館なんて略奪品のオンパレードじゃないの?」


「まあな。だが今はもうそういう時代じゃないって事さ。」

LINDAは年齢不詳だが、見た目の割に達観しているところがある。


「やれやれトレジャー・ハンターと墓泥棒は紙一重っていうけど、まさか返しに行かされるとはね〜。あたし生まれる時代を間違えたかも。あ〜あ夢が無いな〜!」

あたしは思わず嘆かずにはいられなかった。


「そういうな。由緒あるミュージアムとお近づきになっておいても損はないだろう?」


「まあそういう考え方もあるかもね。」


「要はポジティブ・シンキングだ。ここはひとつ貸しを作っておいて、お得意様に加えさせてもらうさ。」

流石、大人よね。


「で、期限は?」


「再来月に文科省の査察が入るらしく、来月一杯だそうだ。」


「じゃあ無理じゃない。前にも言ったけど、あたし憧れのイースター島にバカンスだもん。もう航空チケットもホテルも抑えちゃってるしぃ♪」

ここ一年間働き通しだったあたしは、誰にも邪魔されない念願の旅を時間を掛けて企画していた。

頑張った自分へのご褒美である。


「ん?それなら事前に秘書の小鳩菖蒲君に問い合わせた時に、キャンセルしておくから大丈夫だって言われたけどな。」


「なんですってーッ!?またあいつめ勝手にーッ!菖蒲ェ何処行ったァ!?」


「彼女ならさっき俺と入れ替わりに外出しますって出ていったぜ。」


「菖蒲の奴ゥ、またやられたァ!」

誰にも邪魔されないハズが、個人秘書に邪魔をされた。

あたしのご褒美はどこへいった?


「ヤリ手のいい秘書を持ったな、CANDY?」

LINDAは笑いを堪えて言った。


「うるさい!!」

あたしは世界一不幸なヒロインに違いない。




元St.バレンタイン学院の同級生で、あたしの押しかけ秘書の小鳩菖蒲(自称キャリアウーマン)。

彼女の策略により、まんまと夏休みを奪われた可哀想なあたし。

慌てて代理店に連絡を入れたものの、航空チケットもホテルも、予約の権利はキャンセル待ちの客にすべてが渡り、後の祭りだった。

空白のスケジュールですっかり持て余し、退屈が死ぬよりも嫌いなあたしは、仕方なくLINDAの依頼を引き受ける事にした。

そして彼の手配した飛行機で飛び、いまココにいる。




「ちょっとLINDAァ!なんであんなに追っ掛けられるワケ?一体奴らどういう盗み方したのよー!?」

まさに九死に一生の体で逃げ切ったあたしは、ホテルのラウンジから日本に怒涛のコレクトコールを掛けていた。


「おいおい時差があることを考えてくれ。明朝掛け直すからな。(ガチャン)」


まったくどいつもこいつも!新米トレジャーハンターへの仕打ちは厳しいわ。

あたしはバーに飲みに行く事にした。気分直しだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る