TREASURE LOVERS

あたしの名前は知念祐梨。


自分で言うのもはばかられるけど、イイトコの娘として育てられた。

所謂、良家の子女って奴ね。

幼稚園から女子大まで、エスカーレーター式のSt.バレンタイン学院。

周りの友達は、世間の事なんか全く知らない箱庭育ちのお嬢さまばかり。

勿論あたしもその内の一人だったワ。


でも、ある日、従姉に連れられて観に行ったシネマがあたしの価値観を全て変えたの。


ワイルド・ガーリーなヒロインの名を冠したシネマ『CANDY HEART』。


どんなに凹んだ夜も、“CANDY HEART”の胸のすくアクションを観ればスッキリ元の自分を取り戻せた。


なんの夢もなかった一人の女の子の生きる道に全く違う方向を示してくれた憧れの女性。

彼女と出会ったその時、あたしの目の前に光り輝く一筋の道がひらけて見えた。


チョッパーハンドルのアメリカンバイクにまたがり、クールなコルベットのオープンカーを駆って暴れ回る目の覚める様な金髪で、エレガントなターコイズブルーの瞳が超セクシーな銀幕の主人公。


彼女の愛用2丁拳銃は、S&W M36LS Revolver - LadySmithとSEECAMP LWS 32。

相手を威嚇する大振りなRevolverと、上着やスカートの中の ホルスターの隠し拳銃。

コレがあれば天下無敵、どんなトラブルに巻き込まれても大丈夫なはずだった。


でも忘れもしない、あのシリーズ因縁の3本目。

南米の宮殿遺跡で、激しい銃撃戦の末、撃たれて崖から下の 激流に転落した彼女。

To Be Continue.の文字にドキドキして、既に10年が経つのよね。

ハリウッドの主演女優とスタジオとの不仲は決定的だとか、 でもシネマのプロデューサー兼監督はその女優以外と組む気は 全くないだとか、大人の事情が分かる年齢にはなったけど・・・

スリルと期待に胸舞い上がらせた幼いあたしの心は、 まだあの頃に置き去りにされたまま・・・。



だから、あたしは決めたの。

想い出の中で生き続けている“CANDY HEART”永遠の魂を、絶対このあたしが引き継いでやるんだって。


“CANDY HEART”の個性と信仰と自由の象徴である “Treasure Island”の刺繍を極めたトレードマークのスカジャン。


彼女の愛するコーコランのタンカーブーツ。

ヘビーデューティーダブルストラップ&バックル仕様で 上の方のバックルストラップは外してだらーんと垂らして

履いてやると超カッコいいのだ!

元々、米軍のTANK乗り御用達のブーツで、直ぐに着脱出来る様になっているの。

アドヴェントなトレジャー・ハンターには、ピッタリなアイテム。



St.バレンタイン学院の高等部に通い出して間もなく、突然両親がビジネスの都合でドバイに移住することが決まったのを期に、思い切って一人暮らしをしながら日本に残ることをかたくなに主張。

余りに強固なあたしの決意に諦めたのか、両親は、毎日スマホメールを送るコトを条件に、しぶしぶ認めてくれた。


当初は、女の子のらしい瀟洒なマンションに住んでたんだけど、こんなチャンスいつまでも無駄にするもんですか!


ストリートで知り合った友人の口利きで手に入れたのがトレジャー・ハンターの秘密基地に相応しいCLUB跡地ってワケ。


あたしの城、club『ザナドゥ(宮殿)』。


舞台装置は整った。

トレジャー・ハンター・2代目CANDY HEARTとしてのアクション・アドベンチャーな人生が、いま始まるわ。





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