UTOPIA~last hope~

緋色

ACT.1 閉ざされた国

 太陽は厚い雲で覆われ、明るさに欠ける昼時。日差しがないはずなのに、暑さは変わらない。むしろ気持ちの悪い、肌にまとわりつくような嫌な気温だ。


「あっちぃー」


 風は時折しか吹かず、しかしその時折吹く風も生ぬるく、ライは滲む汗を拭きとりながら顔を顰めた。

 ライトリル――通称ライ、と呼ばれる彼は肩にかかるほどの金の髪を一つに纏め、細身の体躯と一見女性と間違えるほどの女顔であるが、生物学上ではれっきとした男性に分類される。


「すんげぇ、蒸し暑い……なんだよ、これ。これがニホンなのか?」


 つい数時間前に旧日本国土に足を踏み入れたばかりのライは独特の蒸し暑さに早々参っていた。


 今から約二百年前に起こった天変地異で何千年・何億年と築き上げてきた人類の世界は一度終わってしまった。

 生命は滅びの一途を辿り、今ではその数は過去に比べると激減している。


 ここ、旧日本国土――かつて日本と呼ばれていた島国も全体の人口はわずか二万人弱。人々が安全に暮らせている地域も五カ所しか明確にされていない。


(まあ、こんな島国に五カ所もあれば上出来だよな……)


 世界にはもっと荒んだ地域が多くある。それこそ人類が住むことなど出来ない場所がゴロゴロしている。そんな場所と比べるとまだというものだ。


「あー……それにしてもあつい……ここからどうしろっていうんだよ……」


 項垂れるライは考える気力を失いかけていた。

 予め得た情報によるとこのまま進めば街があるらしい。人類が今のところ安全に暮らすことのできる街だ。

 ライが数時間前に辿り着いたのは小さな港だった。街に港は最低限の警備しか配置されていない。この先の街までは一本道だというが、ほとんど整備などせれておらず、もちろん警備するものなどいはしない。

 週に一度、港と街を往復する貨物車が通るらしいが、生憎それは今日ではなかったらしい。


「なんつーか……こんなとこ呑気に歩いていたら襲ってくれと言っているようなもんだよな」


 静まり返った周囲からはなんの気配も感じられない。ほんの数分前までは。

 しかし先ほどからひしひしと肌で感じることができる殺気にライはため息をついた。そして同時に身を翻す。


「おっ、とと……」


 少し身体をずらした先に飛びかかってきたのは黒の物体。犬のような、狼のような形をした黒い動物。しかし動物というにはあまりにも可愛げがない。金色の瞳は発光し、通常ではあり得ないほどの大きな牙がむき出しにされている。そしてその胴体には浮かび上がった妖しく光る脈。


「変異種、か……まあ、見た感じ元野犬ってとこかな?」


 ざっと周囲を見やれば、全部で四匹それはいた。

 ニヤリと笑みを受けべるとライは瞬時に駆け出す。そして腰に下げていた対の短剣を手にしてまずは目の前の一匹を切り裂いた。

 一撃で急所を斬りつけた為、それはもう動かなくなる。だが休む間もなくすぐに背後に飛び、両サイドから襲い掛かってきた二匹に剣を向ける。切っ先をそのまま差し込み、切り捨て、そして背後から飛びかかる最後の一匹に対の剣を振るった。


「おわっり、と。あー……動いたら余計にあつい……」


 飛び散った金色の血を振るい落とし、屍になった四匹の胴体から小石のような塊を取り出す。血のように赤い塊は弱弱しく発光していた。


「こんなもんでも、少しはかねになるかなー」


 宿代ぐらいにはなるといいな、とそんなことを口にしながら、ライは再び街に向けて歩き始めた。


◇◆◇


 天変地異のその後も人類が減り続けた一番の原因は、あらゆる生物の突然変異にあった。

 それは動物、植物、昆虫、そして――様々な生物が変異し、それは残された人類の脅威となる。

 それまでに存在していた武器では変異種には到底太刀打ち出来ず、人類はさらに滅びの一途を辿り続けていた。


「やーっと着いた。全く、暑いは、変異種に襲われるは、……散々だ」


 人類の脅威である変異種を退け、街に辿り着いたライは一つ伸びをする。

 街は大きく賑わいを見せており、通りには露店が建ち並んでいる。


「おっ。これはLH武器じゃねーか」

「やや。これはお目が高いねおにーさん。……ん? いや、おねーさん、だったか?」


 武器の類を並べている露店の前で一つの商品を手に取るライだが、声をかけてきた店主の一声に思わず顔がひきつる。

 ライの容姿が女性のように見えるのは自他ともに認めることだ。とても不本意な事実なのだが、悪いことばかりじゃないのをすでに経験済みであった。


「いやー、悪かったよ。おねーさん。女性のハンターは珍しいからさ! お詫びと言っちゃあなんだが、特別におまけするよ!」


 愛想よく笑う店主にライもにっこりとを返した。

 そしていつもよりも少しだけ声のトーンを高くして話す。


「ありがとう、おじ様! じゃあ……そこのナイフを一本買うから、もう一本サービスしてくれる?」

「ん? ああ、これか。こんなのでよければ全然いいよ!」


 ライが選んだのは手のひらサイズの小さなナイフだ。この前のでなくしてしまったところなので丁度よかった。


「こんなんでもれっきとしたLH武器だ。護身用にはちょうどいいかもな! おねーさんはどんな獲物を狩るんだい? まあ、あんまり危険なのには手ぇだすなよな!」


 気さくに話しかける店主にライはありがとう、と一言残して立ち去る。

 手に入れたナイフは型は古いが間違いなくLH武器なので、変異種を狩るのに何も問題はなかった。

 このLHと呼ばれるものは人類の脅威である変異種に唯一対抗出来るとされている武器である。


 変異種が確認されて数十年後、ある鉱物が発見された。

 自ら淡い光を放つその鉱物はあらゆる自然の力に触れることである威力を発揮する。

 それは変異種に効果的で、それまで何をしても太刀打ち出来なかった存在が、その鉱物には明確な拒否反応を示していた。

 そこから人類はさらに時間をかけて、この鉱物を加工し武器を作り上げる。鉱物から作られた武器は変異種を退けることに成功するのであった。

 唯一の対抗手段とされたその鉱物を人類は希望を込めて呼ぶ――the last hope


『最後の希望』


 そこからLH鉱物と名付けられ、製作された武器をLH武器とした。


「えーと、ギルドは……って、どこにあるんだよ。ややこしいなあ」


 人口と建物が密集したこの街は道が入り組んでおり、始めて訪れた者が目的地を探しだすのは難しいようだ。

 大昔、この辺りは東京と名付けられていたらしい。しかし現在の街の名は『W-Ⅰ』という味気のないものだ。

 ライは街の地図がないかと周囲を見渡すが、それらしきものは見当たらずため息をついた。仕方がないので誰かに訊ねようかと考えたところで、聞きなれた電子音が耳元で鳴る。


『お、やっと繋がりましたね』


 ライの耳元に取り付けられている小型のレシーバーに温和な声が届いた。


『聞こえてますか? ライ?』

「聞こえてるよ。ったく、なにやってたんだよ。ミューア!」


 姿が見えなくとも、間違いなくそれはライの知る相棒のミューアの声で、彼は顔を不満げに変える。

 そんなライの姿が見えているかのように、レシーバーの中からミューアの小さな笑い声が聞こえた。


『いえ、ね。なかなか電波状態が悪いようで。街に着かないとおちおち通信も出来ないみたいですね。ライが街に着いてくれたからやっと繋がったんですよ』

「そーかよ。で、おまえは今どこにいるんだ? ニホンに来てるんだろうな?」

『いいえ。まさか。ずっと遠いところ……少なくても東洋ではない場所にいますよ?』

「はああああ?!」


 通りゆく人々など気にすることなくライは叫び声を上げた。周囲が驚きで凝視してくることに気付き、慌てて物陰に隠れ、声を潜める。


「おい、どういうことだよ? こっちでデカイ狩りがあるから行けって言ったのはおまえだろ?」

『ええ、そうですよ。なんでもA級変異種の群れが発見されたそうで。連合からギルドに正式な依頼が出されています。報酬も破格です』

「そうだな。おれはおまえにそう聞いて、ここに来た。で、なんで言い出しっぺのおまえがニホンにいないんだよ?」


 ライは見えない人物が笑っているようで、苛立ちを込めて剣呑とする。実際、その顔が笑っているのだと想像に難くない。


『僕が行くとは言ってませんよ? そもそも実戦はあなた向きでしょう。大丈夫、あなたなら一人でもやれます。もし失敗したら遠くから冥福を祈っておきますよ』

「あのなあ……!」

『まあ? どうしても無理だと思うんならやめてもいいのでは? ライは優秀なハンターだと僕は思っていたのですが、無理な獲物ぐらいいるでしょうしね? いいんじゃないですか? あはは』


 あきらかにこれは挑発だ。そう、挑発されていると分かっていても、聞捨てることなど出来ない。それはライのプライドが許さない。

 だから顔を引きつらせながら静かに答える。


「……いいさ。受けてやるよ、その依頼。つーか、分け前なんてねーからな!」

『情報提供料ぐらいは頂きたいものですね』

「ああ? んなもん、ギルドに行きゃわかることだろ?」

『いえいえ。これはA級依頼ですよ? パスコードがいりますって。あなた、ニホンでは無名なんですから』


 それにライは舌打ちをした。

 ライは他の地域ではそれなりに変異種を狩るハンターとして名を馳せている。腕前もなかなか優秀でA級と呼ばれるとりわけ危険な変異種を何度も狩ったことがあるほどだ。

 しかしここはほぼ鎖国されたような状況の旧日本国土である。実際に鎖国されているわけではないが、人類は用もなく辺鄙な島国にやって来るほど余裕など持っていない。それはライも同じで、初めての地域でその名が知れ渡っているはずもなく、まさしく無名のハンター。実力も分からない者にギルドもA級依頼を簡単に預けるはずはない。


「わかったよ。まあ、その話はあとでするとしてだな。ギルドがどこにあるかわかるか?」

『それぐらいお安い御用です。現在地からギルドまでナビゲートしますよ』


 そしてミューアはライの電波を拾い上げ現在地を確認し、ギルドまでの道のりを音声ナビゲートするのであった。


◇◆◇


 世界で街と認識されている場所には『ギルド』と呼ばれる場所が必ず一つはある。

 ギルドとは、世界を纏める唯一の組織、『世界LH連合』が作り上げた存在で、変異種を狩る仕事を人類に与える為に作った窓口である。

 LH武器があっても人は好んで自ら危険な場所――変異種の傍に近寄ることはしない。しかしそれでは何の解決にもならないので、世界LH連合はギルドを作り上げ、報酬を用意し、変異種狩りの仕事を依頼するようにした。その報酬は一般的な職に比べると破格なものが多く、腕に覚えのあるものが次第に名をあげるようになる。

 そういう仕組みを作り上げた中で、変異種を狩る者を人類は狩人ハンターと呼び、今では最も知名度の高い職業となった。


「意外にデカイな、ここのギルド」


 ライはギルドの中を見渡し、驚いたように目を見開いく。

 寂れた島国だと、侮っていた。街は人と建物が密集していたので、ギルドもそれに然りだと考えていたのだが、実際はここだけが大きく広い造りとなっている。


「なんだ、新顔だな。お姉さん、ハンターか?」


 誰の事かと考えるまでもなく、自分のことだと分かったライは小さく頷いた。

 目の前にはライよりか二回りは大きい体躯の男がおり、人の好さそうな笑みを浮かべている。


「へえ、女のハンターってのは珍しいな。新人か? ここは初めてのようだが……驚いただろ?」

「まあ……」

「そうだろうよ。ここは日本にあるギルドの中じゃ一番デカい。ギルド専用の病院が上にあるからな。尚更だ」


 そういって男が上を見るのでライも同じように見上げるが、そこには天井があるだけだ。ギルドの奥の方へ目をやれば、階段と昇降機があるので、そこから上に行くことができるのだろう。


「で、お姉さんはどの依頼を受けるんだ? なんなら俺が一緒に行ってやろうか?」


 ライのことを女性だと勘違いしたまま話を続ける男に、わざわざ訂正を入れるのも面倒だと感じ、男の申し出にやんわりと断りを入れる。


「大丈夫、ありがとう」

「そうかい? まあ、なんか困ったことがあれば言ってくれや!」


 あっさりと引き下がる男に安堵し、ライはそのまま受付に向かい、ミューアから教えてもらったパスコードを受付係に伝えた。


「お姉さん、本気かい?」


 受付の若い男はライと依頼書を見比べて心配そうに顔を曇らせる。とてもじゃないがA級依頼を女性一人がこなせるとは思ってもいないのだろう。

 こういうとき女顔は不便だと改めて思うのだ。しかし訂正をいちいちしていたらきりがないので、ライは基本的に否定の言葉を口にすることはない。もちろん、肯定をすることもないのだが。


「大丈夫、ありがとう」


 訝しる受付の男の言葉を流し、ライは先ほどと同じようにもう一度やんわりと言った。

 ハンターは訳ありの者が多い。ライもそんな一人ではと勘繰った男はそれ以上追及することなく、ご武運を、と一言で返す。

 それを有り難く思い、そのまま隣接する換金所に向かった。

 どこのギルドでも受付と隣接するように換金所はあるものだ。


「すみませーん。これ、いくらになる?」


 ライは受け皿に四つの赤い小石のような塊を置いた。

 この赤い塊は変異種の体内から取り出せる『核』と呼ばれるもので、世界LH連合が日夜欲しがっている物質でもある。更に元をただせば、この核が欲しいから世界LH連合はギルドを用意したと言っても過言ではない。

 その為、依頼された狩りはこの核を持ち込むことで完了したと判断される。

 また換金所では報酬の受け取りの他に、変異種から取り出せるこの核を現金に換金することもできるのだ。


「小さな核だね……これなら四つで八千Gゴールドってとこかな」

「ま、そんなもんか」


 換金の対応をしてくれたのは正真正銘の年老いた女性だ。

 核を引き取り、代わりに八千Gゴールドを受け皿に置く。

 ライはその金額を確かに確認し、懐にしまった。


 世界が終わり、残された数少ない人類は独自の文明を築くよりも、一つに団結することを選んだ。

 その表れの一つが通貨と言語だ。

 未だに地域に根付く人々の間では旧通貨や旧言語が使用されていることもあるが、ギルドでは決まってGゴールドと呼ばれる通貨で統一され、また一つの言語を共有化している。


「まあ、宿代ぐらいにはなったな」


 そう呟いて、ライは今夜の宿を探しにギルドを後にした。


◇◆◇


 その日の晩、ギルドの近くに手頃な宿を見つけたライは、さらに近くにあるおすすめの居酒屋で一人夕食をとっていた。

 このおすすめとはミューアが調べたもので、お酒を飲まなくても十分に美味しい食事ができ、また価格も手頃ということからライは満足していた。


「ねえ、君。ちょっといい?」


 食事に集中していたライは、声をかけられて、ふと顔をあげる。するといつの間に目の前の席に人が座っていた。


「だれ……?」


 目の前にいるのは若い女性、少女といっても差し支えないほどの若さである。黒に近い焦げ茶色の髪を左右で三つ編みにし、大きな眼鏡をかけている。東洋人のような容姿で、そばかすがやたらと目立ち、どちらかと言えば地味な印象を持たせる少女だ。


「君、ハンターなんですよね? ね?」

「まあ……」


 突然現れた、まったく見知らぬ少女に顔を寄せられ、ライは曖昧に頷く。それに少女は瞳を潤ませ、目の前で両手を握り合わせた。


「よかった……! 私、君を探していたんです!」

「は?」

「昼間ギルドに行ったら、君の事教えてもらって……ああ、よかった!」


 全く話が見えないライは一人感極まる少女を見て眉根を寄せる。

 なんやかんや一人で話していたが、要約するとA級依頼を受けたハンターがいると聞いて探していた、といったところだ。


「で、結局なんの用?」


 どうでもいい話に発展しそうな予感がして、適当に話を打ち切り、用件を尋ねる。少女が一人話している間に食事は終えてしまった。ライとしては早く宿に帰りたいと考えているのだ。


「そうですね。君は今日、A級依頼を受けたと聞きました。そこで、です。ぜひ私も一緒に連れて行ってもらえませんか?」

「はあ? 嫌に決まってるだろ」

「そこをなんとか。お願いします!」


 その場で頭を下げる少女にライはため息をつく。こんなもっさりした少女を狩りに連れて行くなど無謀というものだ。しかもA級の狩りにだ。


「お願いしますと言われても、無理だって。危ないし」

「でも……私一人だともっと危ないんです!」

「え、なに。行くこと前提なの?」

「はい!」


 頭がおかしいとしか思えない少女の発言に、思わず顔がひきつった。


「いえ、あの、私こう見えて連合の研究者リサーチャーなんです……」


 明らかに不審の目で見られていることに気が付いた少女は慌てて身分証を取り出した。

 そこには世界LH連合の研究者リサーチャーであり、有川ミクと名が記載されている。


「へえ。若いのに、珍しいな」

「いえ。それほどでも」


 研究者リサーチャーとはハンターと並んで昨今で知名度の高い職業である。変異種を狩る者をハンターとするならば、変異種の研究をするものをリサーチャーと呼ぶ。

 世界LH連合はハンターから得た核を元に、所属する研究者リサーチャーが変異種の解明や更なる対抗手段を模索しているだのだ。


「私は今度のA級依頼に指定されている変異種の研究を請け負っているのですが……その、一人ではどうしても不安で……」

「いや、そもそも研究者リサーチャーが直接出向く必要なんてないだろ?」

「今回は、核だけでなくその生態も実際にこの目でみて研究しようということになっていまして……でも護衛に来るはずだったハンターの方が来れなくなってしまったんです」


 沈んだ声で話すミクという少女は深い溜息をついた。

 稀に研究者リサーチャーがハンターと行動を共にするというのは聞いたことがある。珍しいことではあるが、全くないわけではない。しかしその際には世界LH連合が指定したハンターが護衛につくのが定石なのだ。


「いや、探せば他にいくらでもいるだろ。それか新しい護衛を派遣してもらうとか」


 なにもライでなくていいはずだ。A級依頼ということで、受けるものは少ないかもしれないが、皆無ということはないだろう。待てば組織の方から代わり護衛を決めてくれるはずだ。

 しかしミクはライの言い分に首を小さく横に振る。


「それじゃあ、駄目なんです。だってもしかしたら君が狩ってしまうかもしれないじゃないですか。そうすると生態をこの目で確認できません」

「ああ、そうか」


 それも目的の一つであれば、確かに待ってはられないだろう。ライが先送りすれば話は別となるが、生憎彼にそのつもりはない。


「お願いします! 足手まといにはなりませんから! なんなら、ここの食事代も払いますし、依頼料も別でお渡しします!」


 万年金欠のライからすると、少女の申し出はとてもありがたいものだ。さらに一歩も引く気配を見せないミクに、諦めることを決める。そして大きく息を吐き出したのだ。


「……わかったよ。その代り、死んでも責任とらねーよ。それもちゃんと連合に伝えておけよ」


 これだけは言っておかなければ、あとから世界LH連合が抗議してきたところでライとしては迷惑なだけだ。だから念押しして言うのだが、ミクは聞いているのか聞いていないのか分からない状態で、しかし確かに嬉しそうに返事をする。


「ありがとうございます! 本当に、よかった」


 なんだか疲れてしまい、その後もしきりにお礼を言い続けるミクの言葉をうっかり聞き流しそうになっていた。


「君が女性のハンターで、本当によかった!」


 そして、ミクが付け足したその言葉の意味を思い知ったのはその翌日のことだった。

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