通話篇

7本腕のペテン師Sz師三嶋らしゃし

一回目


「あの……とつぜん電話なんかして、すみません」


『いいのいいの、暇じゃなかったら断ってるから』


「……」


『それで、どうしたの?』


「その……つらくて、どうしようもなくって、電話しちゃったんです」


『何がつらいの?』


「……生きるのが、つらいんです。……ほ、ほんとうに」


『ふーん……なにかあったの?』


「いえ、なにもないんです」


『何もないのにつらいの』


「はい、なにもなくて、なにもできなくて……

 なにかしようとは思うんです。脳では理解できているんです。でも、いざ動こうとすると、体が動かなくて、なにもできないんです。

 今日だってメグさんに電話かけるのも、すごい躊躇したんです。でも、落ち込んでどうしようもなくなったらかけていいって、メグさんが言うから、甘えさせてもらって……ああ、ダメだ、俺はダメなんですよ、人に頼っちゃうし、ダメなんですよ……」


『頼ってもいいよ、大丈夫。聞いてるよ』


「……すみません。もう、どうしたらいいのかわからなくって、通販のおすすめ商品に練炭とか出てくるんです……調べた覚えはないんですけど、ロープとか、ガムテープとか、いっぱい出てくるんです」


『こわ!買わないでよ!?』


「だいじょうぶっすよ……ははは、さすがに買いませんよ」


『うん、そうして』


「そうします」


『いいこ』


「いいこってなんですか……子供じゃないんですから」


『いいの。いいこだから黙ってて』


「……はあ」


『………』


「………」


『……落ち着いた?』


「ええ、おかげさまで」


『そっか、よかった』


「俺なんかのために時間とらせちゃって、すみません」


『いいんだって、気にしないで』


「……はい」


『あと、謝るくらいなら感謝してよね』


「……ありがとうございます」


『うっ……なんか言わせてるみたいでやだなぁ。

 次からはコウくんから言ってよね』


「わかりました」


『よし、元気になったな』


「はい」


『また、つらかったら電話してきていいからね』


「そうさせてもらいます」


『じゃ、またね』


「失礼します」


――――――――


――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

通話篇 7本腕のペテン師Sz師三嶋らしゃし @pls

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る