水際の攻防(結晶シリーズⅡ)

イヌ吉

第1話

 大竹に「俺もお前のことが好きだ」と言われたのが、2ヶ月前。

 そしてそれは「でも卒業するまではお前とそういう関係にはならない」と言われてから2ヶ月経ったということでもある。


 最初はそれでも良いと思った。イヤ、もちろん言われたときはふざけんなこの野郎とすさまじい葛藤もあったのだが、それでも今まで気持ちも打ち明けられずにずっと隣にいたことを考えれば、お互いに好きだということが分かったし、キスぐらいなら出来るし、「先生は俺のだ」と思いながら一緒にいるのはムズムズして嬉しかったから、我慢することもやぶさかではないと思ったのだ。


 でも、今年29になる大竹と違って、智一はまだ17だ。人生で最大にエッチしたい欲求で膨れあがっている年なのだ。

 そんな自分が好きな男の隣にいて、2人で酒盛りもすればキャンプにも行くし温泉にも入る。会えばキスをして、それでも「そういう関係にはならない」とお預けを喰らっているのだ。

 ……はっきり言って、拷問だ……!



 ◇◇◇ ◇◇◇



 夏休み直前のある日。

 期末テストも終わり、久しぶりにのんびりとしたこの時期、今日も智一は大竹の部屋で、2人で飲んでいた。昼間はいつも通り優唯の面倒を見ながら勉強をして、夕飯を食べて、優唯が帰って、もう夜の9時。「自分の生徒とはそういう関係にならない」と言いながら、自分の生徒(しかも未成年)と平気で酒盛りをするとはどういうことだ。


 酒を飲んだ大竹は無防備で、顔を赤らめて機嫌良く鼻歌を歌ったりするのだ。いつもは見せない笑顔も大盤振る舞いで、そのまま横になって寝ちゃったりするのだ。

 大竹の気持ちを知らない時は、こんなことは全く自分を意識していないから出来ることだと思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。大竹は素で、お互いに「好きだ」と言い交わした智一の前でも、酔っぱらうとこうなってしまうのだ。


 何の拷問ですか~~~!!!


 今も目の前で「あ~、あちぃな」と胸元のボタンを外しながら、「ちょっと横になるぞ」とラグに肘をついて横たわろうとしている。


 赤らんだ目元とか、広めに開けられたシャツの間から見える胸元とか、男の色気が匂い立っちゃってるよ!どうしてくれるんだよ、それ!誘ってるんですか!?それは誘ってると理解しても良いんですか!!?


 だがごろりと横になった大竹にその気がないのは、もうさすがに学習した。こいつは本当にその気がないのだ。信じられない!! 目の前に若くてぴちぴちであんたが好きで堪らないあんたの彼氏(うわ照れる♡)が、いつでもどうぞ状態でいるのに!!!


「あのさぁ、先生……」

「ん?」

 上機嫌な顔を睨みつけるが、大竹には効果がない。酔っぱらって愉快な気持ちになっているのだ。

 どうしろというのだ。こんな大竹を目の前にして、どうしろというのだ!


「あのさぁ、ムラムラするんだけど」

「ムラムラ?」

 キョトンとして大竹が顔を上げる。ムカツク。マジで分かってないのか。


「あのさぁ、惚れた男が目の前で酒に酔って転がってたら、犯しても良いと思わない?」

「思わない」

「……」


 何で?と小首を傾げるな~~~~~!なんだそれ!可愛いつもりか!?チクショウ、俺も酔っぱらってるから、無性に先生が可愛く見えちゃうんだよ!!こんな、俺より10㎝も背が高くて(ちなみに俺は去年175cmだったけど、今年は178cmまで伸びた!まだ成長期だ!頑張れば先生の186cmに手が届くかもしれない!)、体格だって俺より一回りはでかくて、男の魅力ダダ流してるような先生が(落ち着け智一、それは目の錯覚だ!)、何でこんなに可愛いく見えるんだよ。酒の力、恐ろしい!!!


「ねぇ、させてよ先生」

「何を」

「ムラムラするって言ってんでしょ」

「だから何を」

 智一は取り敢えず大竹の上に覆い被さって、唇を交えてみた。

 ここまでは大丈夫なのだ。

 大竹も舌を伸ばし、酒臭いキスを深めてくれる。

 だがそのまま襟元に差し込んだ掌を胸に移動させようとすると


「ダメ」

「なんで!?」

「お前は俺の生徒だから」

「今更でしょ!!」

 もう何度このやりとりをしたことか。

 ギィ~~~!! もうマジで生殺しなんですけど先生!!!

「ね、先生これほら、触ってみてよ」


 大竹の太腿に、さっきから大竹とエッチしたくて堪らなくなっている自分の腰を押しつけてみる。さすがにコレで分からぬほどの鈍感ではないのだろう、大竹の体がびくりと跳ねた。


「ね、これ、どうしたらいいと思う?」

「……マスでも掻けば?」


 マジで言ってんのかこいつ……っ!?

 大竹を見れば、さすがに気まずそうに目を逸らしている。


「……」

「……」

「……分かった」


 智一が立ち上がったので、「トイレはそっちで、寝室はあっちだ」と指さす大竹を睨みつけ、ティッシュ箱を取りに行くと智一は大竹の顔の前に腰を下ろした。


「ここでする」

「……え?」

「見てて、先生」

「……ぇえっ!?」

 大竹はままま待てと慌てたが、もうこっちは怒り心頭である。そっちがその気なら、こっちもその気だ!


 智一は大竹に見せつけるようにズボンのボタンを外すと、ゆっくりとズボンを膝まで下ろし、それから大竹の目を見つめながら下着をずらした。


「……うわっ……」

「先生さぁ、男好きになったのは俺が初めてだって言ってたじゃん?」

「お、おう……」

 こんな間近に男の物を目にすることなど今まで無かったのだろう。いや、それ以前に、半勃ちとはいえ、勃ち上がった自分以外のブツを目の当たりにするのも初めてのようだ。それを見て良いものかいけないものか迷っているように、大竹の目がチラチラと視線を泳がせている。


「じゃあさ、これ見て萎えちゃったりする?」

「……いや……」

「じゃあ、先生のも、勃つ?」

「……」


 ごくりと、大竹の喉仏が上下した。

 大きな喉仏だ。


 切れ上がった筋肉とか腕に走る血管フェチの智一は、当然のように喉仏も大好物だ。もちろん、その喉仏の左右にあるくっきりと浮き出た首筋も、智一を堪らなくさせる。

 ……あの首筋に舌を這わせて、喉仏を甘咬みしてごりごり転がしたい……。


 酔った大竹を前にしていると、どうしようもなく興奮する。それはそうだ。手の届くところに、焦がれた男が転がっているのだから。

 智一も大竹と同じように唾を飲み込むと、それから唇の端をペロリと舐めた。


「先生がコレ見てその気になるかどうか、試してみようよ。……見てて」


 大竹の前で、自分の下半身をゆるゆると扱く。大竹は固まったように、それでもじっと見つめていた。智一のソレは、下から軽く扱き上げただけで、すぐに形を変えた。

 大竹に見られていると思うと、それだけで胸がゾクゾクした。大竹が目の前にいるだけで、今自分のを育てているのが大竹の手であるような気がした。


「……先生っ」

「っ……」

 大竹が、鼻にかかったような息を漏らした。大竹のズボンに目をやると、そこは大竹もちゃんと興奮していることを、智一に教えてくれる。


「先生、先せ…っ、ね、先生も、やってよ」

「……何を……」


 ぎこちなく大竹が返事を返すが、智一が何を求めているのかなど、大竹に伝わっていないはずがなかった。その証拠に、大竹のズボンは、先程よりもはっきりとその形を示しているのだから。


「先生も、俺の前でやって見せて」

「……だから、卒業するまでは……」

「卒業するまでエッチはしないよ!だけど、見せっこ位良いでしょ?こき合いしようって言ってる訳じゃないんだし」

「こき合いとか見せっことか、都市伝説だろ……?周りでそんなことしたことある奴、見たことねぇぞ……?」

「いや、山中先生はしたことあるらしいよ?」

「それはあいつがゲイだからだろ?つうか、お前はこき合いとか言われて何とも思わないのか?相当イカレてると思うんだけど……」

「思わない!」

「……それは、お前もゲイだからか……?」


 ゲイと言われても否定する気はもうない。多分最初から自分の性癖は同性に向いていたのだ。女と付き合っていた時期はあったが、それは向こうから言われて、流されて付き合っていただけだった。その時は彼女のことが可愛いと思っていたし、もちろん、体の欲求もあった。だが、彼女を抱いても、大竹を思って一人でマス掻いている時ほどの興奮すらなかった。


 やっぱり、自分はゲイだったのだ。今後もし他の人を好きになるとしても、その対象はきっと年上の男性だろう。


 でも、そんな人が現れるとは思えない。

 だって、目の前に大竹が転がっているのだから。


「お願い先生!先生がやってるとこ見せて!」

「やだよ!お前そんなことになったら、それだけで終わらせる気ないだろう!?」


 元々お互いに酔っているのだ。段々興奮して訳が分からなくなってきた。智一は大竹の上に息子丸出しのまま覆い被さって、大竹のズボンのボタンに手を掛けようとし、反撃を受けた。いきなり体を回転させた大竹に足で胴体を挟まれたと思ったら、腕を取られて絞め技を掛けられたのだ。


「しょうがないだろ!やりたい盛りの高校生なんだから!! って痛い痛い!ちょ、マジ痛いって……!!」

「高校生の間はしねぇよ!!! 俺はあいつらみたいなことはしねぇって言ってんだろうが!つうかまずソレをしまえ!!」

 腕ひしぎ逆十字固めを掛けてくる大竹の足をタップして、なんとか外してもらう。ちくしょう!先生プロレス技とか!それ普通可愛い彼氏にかけるか!? 背も体格も全然適わないんだから、そんなのこっちが不利に決まってんじゃん!! いや、彼氏と認識されてるかどうかも怪しくなってきたけど……!


 さすがに距離を取って、泣きそうになりながら、それでもまだ吠えてみるのはやっぱり酔っているからだろうか。


「あいつらみたいなことって言うけど、3Pじゃないなら『あいつらみたいなこと』にはならないって!!」

「3Pとか言うな!! そういう前の男とのこと匂わすなって言ってんだろ!!」

「……なに?同僚のセックスを知りたくない?」

 半分むくれてわざと大竹を煽るようなことを言ってみると、意外な返事が返ってきた。


「お前が他の男としてるとこ想像したくねぇんだよ!悔しいだろ!!」


「……」

「な、なんだよ……」

 急に押し黙った智一に、大竹が逆に不安になったようだ。そっとこちらを窺ってくる。


 大竹が手の届く範囲まで顔を寄せてきたその瞬間。


「うわっ!?」


 智一は大竹の首に腕を絡ませて抱き寄せると、唇を奪いながら押し倒した。

「ちょ……設楽!ダメだって言ってんだろ!!」

「それって焼き餅だよね!? 焼き餅焼いてくれるんだ!好き!! 先生、大好き!!!」

「やめろバカこの酔っぱらい!!!」


 まだぽろりと出ているソレを、大竹のズボンの前立てに重ねてグリグリこすりつけながらキスをする。最初は暴れていた大竹も、キスだけならと最初に宣言していたせいか、次第に大人しくなって、キスに没頭し始めた。


 舌を絡ませ、口蓋を舐め上げ、舌を甘咬みし、唾液を送り込んで、歯の裏を舌で辿る。大竹の舌をギュウっと絡めて吸い上げると、大竹が鼻から震える息を吐き出して、そっと身震いした。


 感じてるのだ……。

 そう思うと、堪らなく滾ってくる。


「ね、先生。触って良い?」

「ダメ」

「先生の触りたい」

「ダメだって!」

 返事も聞かず、大竹の分身をズボン越しに触り、ずっしりと重みのあるその形に指を這わせる。

 何度も温泉で見たことはあるが、それは当然大人しく眠ってる状態だった。

 でも今は……。


「すげ、先生の大きい……。窮屈でしょ?これ、出しちゃおうよ」

「ダメだって言ってんだろ」

「じゃあ俺の触って。触ってくれるだけで良いんだ。お願い先生」

「ダメだって!だから、それだけじゃ済まなくなるだろ!?」

「済まなくなっちゃえば良いじゃん!! なんでそんなやせ我慢しないといけないの!?」

「お前は俺の生徒だからダメなんよ!」


 はっきり言って、その台詞はもう聞き飽きた。じゃあ先生は自分が高校生の時、そんなに清らかな体だったとでも言うのか!?

「良いじゃん!もうこんだけキスもして一緒に酒盛りもしてる仲でしょ!? 条例なんかクソくらえだ!もう今更だよ!!」

「そうじゃなくて!!」


 智一のそこは、もうダラダラと涎を垂らし、大竹のズボンの前立てをいやらしく濡らしている。大竹の体にすりつけただけでこの体たらくだ。早く触って欲しくて我慢できない。


「そうじゃなくて、何なんだよ!ね、話しは手短にしてよ?俺もう爆発しちゃうよ!」

「だからいつも言ってんだろ!お前とそうなったら、学校でお前を他の生徒と同じに扱えなくなるに決まってるって!この状態ならまだなんとか踏みとどまれるけど、これ以上になったらもうそんなの無理だって!俺の中には教師として越えられない一線ってのがあって、それ超えちまったらもう教師なんて続けらんねぇよ。頼むよ設楽。俺だって我慢してるんだから……!」


 大竹の必死の顔に、なんだか胸がキュゥっと来た。 

 先生が俺のために我慢してるとか……!

 うわ……、先生、そんなご馳走みたいな顔……!!!

 いやいやいやいやいや。ダメダメダメダメダメ。

 落ち着こう。ちょっと自分、落ち着こう。


 智一は大きく一つ息を吐いて、大竹の顔から視線を外した。

 確かに、智一は学校でも自分が他の生徒に比べて大竹の「お気に入り」だという自覚はあり、それは他の生徒からも「大竹に懐いている」とからかわれるほどだ。多分、これ以上学校で大竹が自分を特別扱いしたら、それは大竹の校内での立場を危うくし、自分もからかわれるだけでは済まなくなるだろう。それはやはり避けるべきだと、多少時間が経って酔いが醒めてきた今なら分かる。


 分かるけど。

 ……頭では分かるんだけど……。


「じゃあ、ちょっと撫でるだけで良いから!」

「だから!」

「マジでちょっと撫でるだけ!ちょっと触るだけで良いから!!そしたら俺、その手の感触をオカズに、こっから卒業するまで耐える!本当に耐えるから!!!」


 大竹の前に晒されてる智一の息子は、もう本当に爆発寸前らしい。まず、そのカウパーを拭いてくれ!あちこち垂れてるから!なんだその分泌量!高校生マジハンパねぇな……!


 大竹はカウパー腺液で出来たラグのシミと智一の真剣な顔を交互に見交わして……そしていきなり立ち上がった。


「先生?」

「……手、洗ってくる……。飲み食いして汚れてるから……」

「え?」

「汚い手で触って、感染症でも起こされたら困る」

 大竹の顔が真っ赤だ。首の後ろまで赤くなっている。


 え?それってひょっとして……


「いやあの、そんな気を遣って貰うようなモンでもないし、俺いつも手なんか洗ってから扱かねぇし、ちょ……待って先生、ここで放置?せっかく触ってくれる気になったのに!?!?」


 スタスタと洗面所に向かってしまった大竹の背中と、自分のぶるぶる痛いほどに張りつめた息子を交互に見る。それから、先程の大竹の意を決した顔を思い出す。


 先生……俺のちゃんと触ってくれようとした……。

 それだけで嬉しくて、ぎちぎちになったそれを「良かったな、お前」とちょっとつついたら……。



 ……その後の惨事は思い出したくない……。



 ちょっとつついただけの刺激で、そいつが簡単に暴発したとか。

 大竹が戻ってきたときには尻丸出しでラグに飛び散った濃い奴を必死に拭っていたとか。

 大竹の厭そうな顔とか。

 その後の堪えきれずに大爆笑された顔とか。

 もう死んでも思い出したくない……orz



 取り敢えず智一は、もう二度と寝技で後れを取らないように、肉体改造に励むことにした。

 いつか来たるべき、卒業の日を迎える時のために……。

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水際の攻防(結晶シリーズⅡ) イヌ吉 @inu-kichi

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