α 幕開け そして未来へ

ストーリー・作詞 紺谷 紅

構成・作詞 M.O  

~音響・アンサンブル~

【緞帳・中割り幕】

《ピンスポ・フットライト》

『歌詞』

[動き・立ち位置]

(セリフを言うときの注意点)

―動作―

♪曲名

〈場面転換〉


【緞帳:上げる】

【中割り幕:閉じたまま】

~笛の音~


[舞台下手階段よりハーメルン登場、礼]


~笛の音(少し音色を変える)~


[ハーメルン  アリスが登場する方向を見る]


[アリス 音につられて登場]


【中割り幕:開ける】

~笛の音止む~


アリス ―正気づく―

こっ、ここどこ?

っていうか、あんた誰?


ハーメルン ここは、ふしぎの国の入り口。

      あなた様をお迎えに上がりました。

      わたくしめは、しがない田舎 町の笛吹きでございます。

下僕なり奴隷なり、ポチなり何なりとお呼びくださいませ。


アリス はあぁ? 何でそんな偏った嗜好なのよ。


[チェシャ猫 舞台上手奥、アリスの背後から近づいていく]


ハーメルン 偏っている、と言われましても……。


アリス とにかく、今のは却下!

さっさと名前を教えなさい。

   私に下僕呼ばわりされたがったくらいだから、何でもいうことを聞いてくれるんでしょう?


ハーメルン ……(しぶしぶ) ラッテンフェンガー・フォン・ハーメルン。

※初耳の人にとっては聞き取りにくい名前なので、途切れさせる場合は・のところだけで


アリス ラッテンフェンガー、フォン、ハーメルン?

     長い! ハーメルンでいいわね?


ハーメルン もちろんです。


[チェシャ猫 アリスに抱きつく。]


アリス きゃああっ!


チェシャ猫 びっくりした?

      ねぇ、びっくりした?


アリス そ、そうね。驚いたわ。


チェシャ猫 そんなびっくり仰天どころか、昇天しそうになってくれたアリスちゃんにプレゼント♪

みゅーじっく~スタートっ♪


♪『♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪』


《フット:赤・青・黄で交互にライト転換

ピンスポ:白 観客席をぐるぐる巡らせる》


[チェシャ・ふしぎ  全員登場、ダンス]


[アリス  手を取られたりなどの軽い動作]


チェシャ・ふしぎ

『♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

白ウサ 木樵きこり 信号ずきん

オオカミ バッカルー エインセル

みんなふしぎの国の住人


アリスが来る前の ふしぎの国は

扉がいつ開くかを気にして

女王様が おまじないを

かけては祈る 今度こそと

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ ×4』


[アリス  唖然]


チェシャ猫 ようこそ、アリスちゃん。お帰り、のほうがいいのかな?

                   ↑読点を意識


ふしぎ   アリス、お帰り!


アリス (チェシャ猫たちを見て)ちょーっと待った、ストップ!


チェシャ猫 ん? なぁに?


アリス   (前を向いて)私はアリサ。トモダ アリサよ。

朝に田んぼって書いて朝田ともだアリサ。


ふしぎ   ―顔を見合わせたり―


チェシャ猫 (アリスを見て)ふーん。

      (前を見て)アリスか(右手を出す)、アリサか(左手を出す)。

      どっちが正しいかなんて、自分で決めればいいよ。

(観客に向けて)ただ、ここの住人にとって、君は「アリス」だ。


[チェシャ・ふしぎ  礼、上手袖へはける]


アリス ―見送った先を少し追いかけて―

何だったのかしら、あれ……。

      まあ、アリスとアリサ、似てないこともないし、いいのかな?


ハーメルン そろそろ参りましょうか、姫。

―アリスに近づいて手を取り、はけようとする―


アリス 手を離してちょうだい。

―手を振り払って、はける―


ハーメルン 待って下さいよぉ。

―アリスを追いかける―


【中割り幕:閉じる】

〈帽子屋シーンへ場面転換〉

《フットライト:青、ピンスポ:上手二階》


女王 (手すりに手をかけ、見回すように)あやつはまだか!

あの笛吹き男は!

アリスはいつ私のもとに来るのだ!


トランプ (女王見て)はっ。先ほどチェシャ猫のもとを発たれたとか…。

ですので、もうしばしお時間がかかるかと…。


女王 (トランプへ視線移す)遅い。そんなに待てぬわ!

(前を見て)帽子屋を呼べ! 今すぐだ!

      (少し視線下げて)どんな手を使ってでも連れてくるのだ。


トランプ  承知いたしました。

      ―はける―


公爵 女王様。いくらなんでもやりすぎではございませんか?


女王 公爵夫人、アリスは生まれてすぐ、私のもとから連れ去られたのだ。

   (前を見て)今すぐ、あの子に会いたい。会って、共に過ごすはずだった一七年間を取り戻すのだ。

(無表情)有無は言わせぬ。誰にも…。

      ※言わせぬ。までははっきりと。誰にも…。で余韻を残すイメージ

―はける―


公爵 (前見て)やはりやりすぎです、女王様…。

      …三銃士。


三銃士  ―黙って素早く登場・片膝をついて―(揃える)はい、公爵夫人。


公爵夫人 (前を見ながら)少し帽子屋が気になるわ。

     アリス様をお守りして。


三銃士  (揃える)公爵夫人の仰せのままに。


《フットライト:白》


アリス ―下手階段より、後ろを振り向いて―

(ルンルン)ねぇ、ハーメルン、なんだかおなか空いちゃった。


ハーメルン ―時計をチラッと見て―

     そろそろ、おやつ時ですか。

     この時間なら、近くで帽子屋がお茶しているはずです。

     なにかいただけるかもしれませんし、行ってみますか?


アリス   お菓子はあるの?


ハーメルン もちろん!

【中割り幕:開く】


ハーメルン ……あ、見えてきました、あそこです。


帽子屋   はい、あーん。ウサたん、おいしいですか~?

      そうですか~。良かったですね~。


アリス   ―驚き、後退り―

      え、あそこに行くの…?


ハーメルン まあ、ちょっとアレですが、悪いヤツではありませんよ。


アリス   ちょっとどころか……。


帽子屋   ―アリスに気づき、ウサたんを抱えて立ち上がる―

      どうしたんだい? アリス。

      そうだ、お茶でも飲んでいくかい?

      ※落ち着いてはっきり。


アリス   えーっと……。


ハーメルン いただきましょう、アリス様。


アリス   わかったわ。

    ここ、座るわね。


帽子屋   ここはウサたんの特等席なんだ。

      ※少しゆっくり目に

      座るならそっち。


アリス   ウサたんウサたんって、ただのぬいぐるみじゃない……。

      (手前の席)えーっと、ここ?


帽子屋   そうそう。


ハーメルン ―アリスが座るのを見届けてから―

      (左膝ついて)では、私はアリス様の足下に…。


アリス   そっちの椅子が空いてるじゃない。

      ねぇ、帽子屋さん、そっちは誰かの特等席なのかしら?


帽子屋   いやいや、ここは空いている席だよ。

      ささ、君も座って。

立ちっぱなしじゃあ、お茶ができないよ。


ハーメルン ありがとうございます。

      ―座る―


3人    ―一服―


アリス   おいしいお茶ね。


帽子屋   わかるかい?

      あ、お菓子もどうかな? おすすめはこれ。

      なかなか手に入らないんだけど、ちょうど人にもらったところでね。


アリス   ありがとう。いただくわ。

      ―食べる―

      …なにこれ、甘っ!


帽子屋   イギリスの伝統菓子で、ファッジっていうんだけど…。

お口に合わなかった?


アリス   ううん、最初は驚いたけど、癖になる味ね。

      たくさんは食べられないけれど、おいしいわ。

      ―ふとハーメルンの方を見る―

      そうだ、ハーメルン。


ハーメルン ―突然話しかけられて焦る―

は、はいっ! なんでしょうか?

《ピンスポ:帽子屋》


[帽子屋 2人の会話を横目に、ゆっくりウサたんを持って張り出し舞台上手へ]


アリス   ずっと聞こうと思ってたんだけど、私は一体どこに向かってるの?


ハーメルン このふしぎの国の女王様の下です。

      アリス様を連れてきてほしいと、仰せつかりまして。


アリス   どうして女王様なんかが私に?

      何の関係もないじゃない。


ハーメルン それが、ですね…。


帽子屋   アリス、君が女王様の娘だからだよ。


アリス   はっ? 

      ―立ち上がって帽子屋に近づこうとして―

      って、あれ…?

      なんだか目がぐるぐるするわ…。

      ―目をこする―


ハーメルン ―紅茶を調べる。のち、立ち上がって―

      帽子屋! どういうことだ!

      なぜ紅茶に眠り薬なんてものを!

      ―少しふらつく。椅子に座って―


帽子屋   悪いね。女王様の命令なんだ。ねー、ウサたん。


♪『♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪』


帽子屋   眠れよ この薬で

      眠れよ 身を委ねて

      僕が連れていく

      女王の下へ

      だからおやすみ アリス

      僕の薬で眠れ


[アリス 歌に合わせて舞台に倒れる]


2人    ―眠りに落ちる―


帽子屋   安心していいよ、このお茶会の席は君たちのための特等席にするから。

      いつでも遊びに来てね。


《フットライト:消灯》

【中割り幕:閉じる】

《フットライト:白》


トランプ  女王様! アリス様を捕らえたと帽子屋から連絡が!


女王    そうか、やってくれたか。

      帽子屋を労ってやらねばな。


[トランプ 上手袖にはける]


公爵    (諭すように。だんだんと訴えかけるように)

      女王様、実の娘に何をしたのか、おわかりでしょうか?

      これまで、あまり強くは申し上げられませんでしたが……。

      もう我慢の限界です。

      ハーメルンを迎えにやったのはいいと思います。

      一刻も早く会いたいと焦られるお気持ちもよくわかります。

      けれども、帽子屋に捕らえさせた? 眠り薬まで使って!

      そんなことをする必要がどこにあるのでしょうか?

      この国の住人は、慈悲深い女王様のことを良くわかっています。

      でも、アリス様は知らないのです!

      女王様のことを何も知らないままでそんなことをしたら、彼女がどう感じるかをお考えにならなかったのですか?

      …失礼いたします。

      ―上手袖へはける―


♪『♪♪♪♪♪♪』


女王    そう、そうね。あの子にはかわいそうなことをしてしまったわ。

      何もわからないままに…。怖かったでしょうね。


      『愛おしい娘 連れ去られた時

       この世を嘆き 何もかも恨んだ

       神様にお願いしたの

       あの子をどうか お守りください

       暗い夜に あの子が怯えても

       光る道を どうか授けて

       もう何も 恨まないわ

       あの子が生きている それだけで

       もう何も 望まないわ

       あの子が私を母にしてくれたのだから』

       ―哀愁を漂わせつつ下手袖へ―


《フット:消灯》

《フット:白》


[ハーメルン  アリスに向かって土下座]


アリス   ―目覚める。立ち上がろうとして転びそうになる―

      わっ! っとと、危なかった。

      足が縛られてるから、歩けないのね。

      ―ハーメルンにやっと気づく―

      えー…と、あの、ハーメルン、さん?


ハーメルン 申し訳ございません、アリス様。

      私としたことがっっっ!


アリス   いいわよ、そんなこと。

      顔を上げて。


ハーメルン アリス様っ!


アリス   ―体育座り―

      (前見ておずおず)ねぇ、私が女王様の娘っていうのは本当?


ハーメルン ええ、本当です。


アリス   そう。

      (ハーメルン見て)じゃあ、女王―お母様―が私を捕らえろっていったのよね?

      (不安そうに)どうして? 私のことが嫌いなの?

      邪魔だから、私を殺そうとしてるの?


ハーメルン アリス様を殺すなんて! 畏れ多い!


アリス   ふざけないで。


ハーメルン ふざけてなんかいません。

      (前見て)アリス様が女王様に恨みを持つ隣国の者たちに連れ去られたとき。

      (一拍置いて)家臣だけでなく、女王様ご自身も必死で行方を捜して、この世界にはいないとわかったとき。

      そのときの様子をお見せできたらどんなにいいか。

      誓って言えます。あなたは愛されていると。

      (アリス見て)これだけは、このことだけは、誰にも歪めさせはしません。


アリス   (視線落として)じゃあ、私がお母様と離れ離れになったのは、お母様の望みじゃなかったんだ。

      (ハーメルン見て)あのね、ハーメルン。

      眠っている間、やさしい声が聞こえたの。

      (前見て)私を包みこんでくれるような、やさしい、温もりのある声が。

      あれがお母様の声だったのかな?

      ……ううん、きっとそう。

      あれがお母様の声だったのよ。


ハーメルン ええ、きっとそうです。


三銃士   ―下手階段より左膝ついて―

      姫様~! アリス姫~! ご無事ですか?


アラミス  あっ、良かった、生きてる!


ポルトス  いや、普通生きてるから。


アトス   ひとまずここから出ましょう。


[アラミス・ポルトス  慌てて姿勢を正す]


アトス   ―手を差し出して―

      さあ、アリス姫。

        

アリス   …ここから出たいのは山々なんだけど、足が縛られてるの。

      これじゃ、歩けない。


アラミス  それは大変だ!


ポルトス  今すぐほどきましょう。


アトス   いや、我ら3人で担いで行くという手も…


ハーメルン ―くすくす笑い―

      アリス様、手は自由なんですから、ご自分で解かれてはいかがでしょう。


アリス   (やや焦ったように)い、今やろうと思ったのっ!

      ―紐を解く―

      解けたわ。


アトス   アリス様、これからどういたしますか。


ポルトス  元の世界に戻りたいと思われますか。


[三銃士・ハーメルン  座ったまま]


アリス   ―ゆっくり立ち上がって―

      …そうね。

      (前見て)でも、私、どうしてもお母様に会いたい。

      会って、一緒に暮らしたい。

      (三銃士見て)ずっと一人ぼっちだって思ってたの。

      (ハーメルン見て)私には家族なんていないって。

      (前見て)みんなが当たり前に持っているものが、私にはない。

      ずっと悲しかった。寂しかった。悔しかった。

      (片耳を押さえて)眠っている間に聞こえてきた声が、ずっと耳から離れないの。

      私のことをどう思ってくれているのか、会って直接知りたいの。

      ―全体を見渡す―


[ポルトス・アラミス  会話、首を傾げる]


[ハーメルン・アトス  じっと聞く]


アリス   (三銃士見て)お願い、会わせて。

      (ハーメルン見て)少し怖いけれど、今会わなきゃ、絶対後悔する。

      (前見て)どっちにしろ後悔するなら、会わないで後悔するより、会って後悔したいの。


三銃士   ―顔を見合わせ、頷く―

      我ら三銃士、あなた様のお言葉に従うのみです。


アリス   ハーメルン、あなたは?


[ハーメルン   仏頂面で舞台右手客席側を見る]


アリス   ちょっと、聞いてる?


ハーメルン …聞いてますよ。


アリス   (しゃがんで)あなたの答えは?


ハーメルン ……。


アリス   ハーメルンってば!


ハーメルン もちろん、アリス様の御心のままに。


アリス   もう、何なのよ。

      何で答えは決まってるのになかなか言わないの。


ハーメルン (ぽそっと)だって、三銃士に僕のセリフ、取られた。

※↑読点を意識

アリス・三銃士

      え?


ハーメルン (振り返って)だって、僕のセリフ、取られたんだもん!

      こんな、こんなポッと出のやつらに!


アリス・三銃士

      (顔を見合わせ)何それ、面倒臭っ!


ハーメルン 私にも言わせてください。

      私はアリス様のお言葉に従うのみです。


[ハーメルンに手を差し出して立たせる]


アトス   (気を取り直したように、前を向いて)

      あなた様のお言葉に従うとは言ったものの、我ら三銃士、訳あって共に女王様の下へ行くことはできません。

      ※落ち着いて、はっきり


アリス   どうして?


アラミス  (立ち上がって前に少し進み)僕らは代々、女王様にお仕えしてきた家柄でね。


アリス   それなら、別に会っても問題ないじゃない。

      (駆け寄る)一緒に行きましょうよ。


ポルトス  (立ち上がって)お仕えするといっても、表向きはそうじゃないんだ。

      (前見て)みんなが女王様の決断に従う。これは当然だ。

      そうでなくては国が成り立たない。

      (アリスの方を見て)

      でも、もしその決断を実行して、あとから女王様自身やこの国の住人が苦しむ結果になってしまったら?

      それは全て、女王様の責任だ。


アラミス  (アリス見て)そうならないように、僕らは存在するんだ。

      (前見て)女王様が後悔することのないように。人々が幸せであれるように。

      僕たちの存在が女王様に知られてしまっては、女王様も、人々も、今までの幸せを疑うようになる。    ※↑読点を意識

      (噛みしめるように)そして、これからの幸せも。


ポルトス  (アリス見て)わかるだろう、なぜ我々が女王様に会えないか。


アリス   でも、あなたたちは日陰の存在でいいの?


ポルトス  (アリス見て)確かに、女王様にお仕えしていることを公にはできないけど、でもそれがなんだっていうんだい?

      生きていくための家も、お金も、食料だってある。

      (見渡す)色んな人に囲まれて、今、幸せに生きていけているんだ。

      ※はっきり

      これ以上、何を望むことがある?


アラミス  ある一面から見れば、僕らは確かに日の目を見ることがない存在なんだろう。

      でも、僕らはこれが幸せなんだ。

      日の目を見れないことで卑屈になって、これが幸せなんだと思いこんでしまおうとしている訳じゃない。


アトス   (前見て)影は影なりに、幸せに生きているんですよ。

      ※含み笑いNG

      (アリス見て)おわかりいただけましたか?


アリス   (三銃士見て)ええ、わかったわ。

      あなたたち、強いのね。


[三銃士  礼]


アトス   (礼をしたまま)その言葉が、何よりも励みになります。

      ※落ち着いてはっきり


[三銃士  体勢戻す]


アトス   それでは、王宮への行き方はそこの笛吹き殿にお願いしましょう。

      ※はっきり


アリス   ―頷いてハーメルンを見る―

      えっ、ちょっと待って!

      (三銃士見て)

      ハーメルン、あなたたちがかっこよすぎてまた拗ねちゃったじゃない!

      そこに対するフォローはなし?


三銃士   (揃える)ご武運を!

      ※はっきり

      ―下手階段より去る―


アリス   はあ。忙しい人たちね。


ハーメルン ―三銃士が消えた途端に復活―

      (晴れやか)それでは、アリス様、邪魔者も消えたことですし、女王様の下へ参りましょうか!


アリス   切り替え早っ!


[ハーメルン  笛を吹く]


~笛の音~

【中割り幕:開く】


アリス   ここが、お母様のいる場所…。


ハーメルン ええ、もうすぐそこに。


《フットライト:白》

[アリス・ハーメルン   しばらく歩く]


トランプ  (驚き、切羽詰まった感じ。上手二階より)

      ア、アリス様!

      早く女王様にお知らせしなければ!


女王    何だ、騒々しい。


トランプ  女王様! アリス様がいらっしゃいました!


女王    アリスが? 今、会いに行くわ!

      ―体育館二階からステージまでダッシュ―

        

トランプ  じょ、女王様! アリス様はそちらではございませんっ!


アリス   今から、本当にお母様にあえるのね!

      ねぇ、私の格好、変じゃないかしら?


ハーメルン よくお似合いですよ。

      青は女王様と対になる色ですし。


アリス   (はにかみ)そうかな。


女王    アリス? どこにいるの?

      アリス――――!


[アリス・ハーメルン   声の主を探す]


女王    ―舞台袖から飛び出す―

      アリス! 本当にアリスなのね。

      ―アリスを抱擁―


ふしぎ   アリスだ! アリスが帰ってきた! 帰ってきたぞー!


《ピンスポ:アリス・女王に移す》

[ふしぎ 静止]

《フット:青》


女王    ずっとずっと会いたかった。

      ―だんだんと抱擁を緩め、アリスの目を見る―


♪『♪♪♪♪』


女王    あなたが向こうの世界に行ってしまったとわかったとき、どんなに絶望したか知れないわ。

      たくさんの者にいやな役回りをさせてしまった。

      あなたに早く会いたいからって帽子屋までけしかけて。

      怖い思いをさせてごめんなさいね。


アリス   いいえ、大丈夫よ。聞いて!

      (女王と向かいあって)

      『私は まどろみで

      (前を見て)

       確かに聞いたの

       やさしくて 温かい

       陽だまりのような声

       お母様の声と

       全く同じ

       憧れが 現実に

       (両手広げ)

       夢みたいな心地よ

       あなたのやさしさが

       私を つつんで

       あなたのまなざしが

       私を 癒すの』


女王     (アリスに向かって)

      『どんな魔法よりも

       素晴らしい奇跡

       あなたが今ここにいる

       (手を離して前を向く)

       私の 腕の中に

       二度と会えないと

       みなはそう 言った

       いつの日か 夢は叶う

       強く願うのならば

       あなたのひとみが

       こんなに 愛しい

       あなたのぬくもりが

       私を 癒すの』


アリス   (女王に向かって)お母様に会ってよかった。

      憧れだったの。こうやって、本当の家族と触れあうことが。

    ↑手を握る


女王   (アリスを見て)

     『あなたとこうして 巡り会えたこと


アリス   (女王を見て)

      今ここで 話せること

        

女王・アリス

(見つめ合って)

      かけがえのない時間


アリス   (下手客席)

     遠い空の彼方


女王    (上手客席)

      悲しみ越えて

        

アリス・女王

どこまでも とんでゆける

      大切な人のため

        

アリス   あなたのやさしさが

      私を つつんで

      あなたのまなざしが

      私を 癒すの


女王    あなたのひとみが

      こんなに 愛しい

      あなたのぬくもりが

      私を 癒すの』


アリス   このままこうして

      手を取り合って


女王    あなたの 温もりを

      感じていたいの


アリス   私、このままずっとお母様と一緒にいたい。


女王    アリス…


[女王・アリス  少し見つめ合う]


ハーメルン (声のみ)

      たっ、たた、大変です~!

      世界を繋ぐ扉が、もう…閉じかけています!

  

《フット:白》


女王    そう…。

      (アリスとの時間を惜しむように)もう、お別れなのね。

      あちらの世界とこちらの世界を繋ぐ扉は(一拍)いつ開くかわからない。

      あなたがあちらに行ってしまってから十七年間、扉が開くことはなかった。

      アリス、会いに来てくれて、本当にありがとう。愛してるわ。

      こんなときだって、どう声をかけていいのかさえわからないなんて。


アリス   どうして? どうしてそんなことを言うの?

      私はこのまま、この世界で、お母様と一緒にっっっ!


バッカルー (生声)そうですよ! 女王様!

        

オオカミ  (生声)女王様のこんなやわらかいお顔、初めて見たんだ!

        

エインセル (生声)アリスがここにいてくれなきゃ!

        

白ウサギ  (生声)アリス様、行かないで。

        

ふしぎ   行かないで。

      行かないでくださいよ。

      ずっと一緒にいてください。


女王    (軽く目を向けて。静かな、有無を言わせぬ声)

      お黙りなさい。


[ふしぎ  ぴたりと声が止む]


女王    (アリス見て)ねぇ、アリス。

      あなたがこのままずっと、ここにいてくれたら、私はどんなにか幸せでしょうね。

      (左斜め前見て)

      でもね、それはいけないことなの。それだけは、私がやってはいけないこと。


アリス   (近寄って)どういうこと? 全然わかんない!


女王    (前を向いて)

      あなたの母が、もし私だけなら、迷いなく共に暮らしたでしょうね。


アリス   私のお母様はお母様だけよ!


女王    (アリスに向かって)本当にそう?

      よく思い返してみて。あなたを育てたのは誰か。

      あなたの、本当の名付け親は誰か。

      こんなにやさしい子になったんだもの。

      きっといるはずよ。


アリス   (前を向いて)あ…。


女王    (アリスに向かって)そう。今のあなたがあるのは、その方のおかげね。

      あなたは本当に愛を注がれてきたのね。

      私はあなたを失った時、たとえようもないほどの悲しみを味わったわ。

      これ以上、私のような思いをする人が出てきてほしくないの。


♪『♪♪♪♪♪♪』


女王    (アリスに向かって)

      『年老いた王様 この世を去るとき

      (前を向いて両手を広げる)

       未来を信じ 言葉を紡いだ

      「あの子がもし 愛された子なら

       辛くても 別れを告げよ」と

      「もう誰も 同じ苦しみを

       味わうことない世界に」と

      (アリスに向かって)

      夜空の星の下で

      あなたが生きてくれるのならば

      あなたを送り出そう

      母として出来ることを

      今成し遂げよう


アリス   (前を向いて)

      お母様と共に 生きる道を

      求めるけれど それは出来ないのね

      私には 向こうの世界で

      愛してくれる 人が待っているから

      もう誰も同じ苦しみを

      味わうことない世界のため

      私は旅立つわ

      あなたの愛をこの胸に抱き

      それでも忘れないで

      お母様がくれた命

      繋げてゆくから

        

男子    愛とは 解き放つことだ


女子    愛とは離れてあげること


全員    自分の幸せのためでなく

      涙こらえ 伝えよう

      夜空の星の下で

      愛を伝えに あなたの下へ

      なりたいものになるため

      星からの金を求め

      一人旅に出てゆくのよ

      険しい道を越えて

      旅に出る


アリス   私はアリサ。朝田アリサよ。

      今までも、これからも、ずっとずっと、朝田アリサ。


♪『♪♪♪♪♪♪』

       僕の心で

       輝く思い出たち

       瞼を閉じれば

       蘇るあの頃が

       君の温もりに

       何度も救われた

       遠い記憶の中で

       君は笑う

       十七年の歴史が

       今も身体に流れてる

       僕らの声をそら高く奏でよう

       力合わせて みんなみんな


       時の流れに

       生まれたものなら

       ひとり残らず

       幸せになれるはず

       みんな生命いのちを燃やすんだ

       星のように 蛍のように

       僕らの声よ天高く響いて

       僕らはひとつ みんなみんな

       僕らの声を天高く奏でよう

       力合わせて みんなみんな


カーテンコール

ふしぎの国の住人

 白ウサギ A.I

 エインセル E.O

 オオカミ W.K

 バッカルー K.T

 木樵 N.T

 信号ずきん・赤 M.S

       青 M.F

       黄 R.Y

 歌 N.T E.N S.M


トランプ兵 Y.N 声:N.T

チェシャ猫 R.T 声:M.N

三銃士

 アトス A.N 声:T.M

 ポルトス H.I 声:S.Y

 アラミス G.T 声:K.T

帽子屋 K.H 声:K.K

公爵夫人 A.M 声:S.N

ハーメルンの笛吹き Y.K 声:Y.S

女王 K.O 声:F.K

アリス H.S 声:M.O


照明 M.S M.N K.M

アンサンブル N.K Y.N R.H J.M E.M R.M

緞帳 M.F

指揮 R.M

伴奏 M.N

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