東京は滅んだ
遠嵜結乃
東京は滅んだ
その日、東京は滅んだ。いや、言い換えよう。その日も、東京は滅んだ。
180年ほど前、リニアモーターカーという高速鉄道が実用化されたそうだ。その路線は並行して旧式の高速鉄道が走っていたらしく、鉄道敷設の費用対効果は抜群に悪かった。にもかかわらずなぜ建設が押しとおってしまったのかと言えば答えは簡単で、建設当時の決定権を持つ人物が子供の頃、「未来にはリニアモーターカーが走る」という内容のSFに触れすぎたからだそうだ。
120年ほど前だろうか、当時のフランスを中心にある漫画が流行った。内容は極めて普通のよくあるSF冒険譚となっていて、核の炎に包まれた都市で少年が少女のために頑張って世界を救う漫画だ。これが面白いように流行った。世界中の子供はこの漫画の必殺技をマネしては母親にたしなめられた。もちろん作中でも東京は滅んだ。
東京を滅ぼす作品は次々派生し、ひとつの週刊誌の連載作品のうち四本が東京を滅ぼしていた時期もあった。その後の創作界においては「夢落ち」「楽屋落ち」「東京滅亡」は手を出してはいけない三大禁忌とされたものだった。
60年ほど前だろうか、始まりはたしかにきちんとした戦争だった。長期化した戦争を止めるために、わざわざ親切なことに発射予定日時と着弾予想地点を通達してから核攻撃を行った。一度目の東京滅亡だった。それから何をどう思ったのか、一週間後に別の国がまったく同じ地点へと攻撃予告をした。予告した地点から40mほどずれた地点へと着弾した砲撃の威力はすさまじく、二度目の東京滅亡だった。それからは月に二回ペースで東京は滅び続けた。
そんな時代があまりに長く続き、いまでは東京が首都だった事実は忘れ去られ、老人が懐かしむようにぼやくのみとなった。今では新型兵器を開発しては東京を滅亡させるのが各国の軍部の基本姿勢となり、滅亡の連絡も欠かさない。2010年代のサブカルチャー論のように東京滅亡論が語られるようになり、攻撃の合間を縫うようにして滅亡した東京を楽しむツアーが組まれるほどになった。「なぜ東京を滅ぼすのか?」東京の滅亡を指示する各国のトップが語ったことがある。皆童心にかえったようにさわやかな表情で「子供の頃からの夢だったんだ」と語る。
今日も東京は滅ぶ。
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