第2話 悪、推参
「オラオラオラオラオラオラオラオラ~~~~wwww」
「蹴るべし蹴るべし! 更に蹴るべし、じゃ!!」
「視界に入らないでくれません? 目が汚れるので」
「バカ、ナ…………」
(おおう……)
それは戦いと呼ぶには一方的過ぎた。
悪の秘密結社とそう公言した彼らに対して、男と信者達が下した判断は即排除。神へ捧げる祈りと儀式を邪魔した異物は消し去るべきだと、彼らの教義に則り行動した。
「ファーwww 弱過ぎワロタwww」
「わざわざ草生やしてまで言うなや大将。本当の事じゃが流石に可哀想そうじゃろ」
「経験値稼ぎ(スライム並)だね」
「ねーwwww」
(うわあ……)
青年の振るう拳は距離も過程も無視して一人また一人と信者を打ち倒し、軍服の男はヤクザばりの華麗な蹴りで腹をぶち抜いていく。少女、もとい幼女にいたっては、彼女の視界内に入った信者が兆候もなく(毒舌を受けつつ)倒れ伏していくという有り様。
気付けば狂信者集団であった彼らは、狂信者(一人)という状態に。
ただただ圧倒的と言わざるを得ない。
挙句に彼らの物言いがあんまり過ぎて、誘拐被害者であるミナですらも引くレベルであった。
「ナンナノダ……ナンナノダ、ホントウに……キサマら!?」
「さっき言ったでしょう、悪の秘密結社だって。頭が悪いんですか? 悪いんですねわかりますw」
「まあ正確には、この街を傘下に治めちょる悪の秘密結社(代表)つーもんなんじゃがな」
「私知ってるよ。元締めって言うんだよね? 偉い? 陛下褒めてー」
さっぱり分からない。
あとちょくちょく青年が煽りに来るのがものすごくうざい。
これが普通の感性を持つ人間ならとっくに切れてしまうところだが、男には彼らの言葉が意味する事が理解出来たようだ。
「ソウかキサマら……ゼツメツシャ、か!?」
(……!?)
ゼツメツシャ。絶滅社。
中学に上がったばかりのミナですらも聞いたことがある。
彼女が住む街の住人なら必ず一度は見聞きしているだろう。
曰く、世界破壊者の集団。
曰く、真理の到達者達。
曰く、狂人のすくつ(巣窟にあらず)。
ただ単に結社と呼ばれることもあれば、帝国インペリウムや軍勢レギオー、十三魔神など複数の名で知られる組織。
(……ひみ、つ?)
割と普通にニュース番組にも取り上げられるくらいの組織なのだが、まあ様式美という奴だろう。
だがミナの胸中に浮かび上がるのは二つの疑問。
ある種有名人である彼らが、なぜ此処に居るのか。
そして現状こそ敵対……と言うかほぼ相手方は全滅しているが、同じ悪だろう狂信者と戦うのか。
そんなミナの疑問を代弁するかのように、男が怒りと苛立ちを隠しきれない声色で、静かに問いかけた。
「ナゼ、ジャマをスル? オマエたちも、ワレワレとドウルイダロウ!」
「…………はあ?」
男の問いに対して、肩をすくめやれやれというポーズを取る青年。そんな事も分からないのかと行動だけで煽ってくる。
「答えたれや大将。どっちにしたって結末は変わらんのじゃし」
「えー」
(えーって……)
「陛下、有情破顔拳って奴です」
「北斗じゃな。また夜更かししたんか」
(外野少し静かに!)
言葉を発せられないのがこれほどの苦痛だとミナは初めて知った。よりにもよって悲鳴でも嗚咽でもなく、ツッコミたいという衝動の中で。
「はあ……いいだろう、質問に応えてやる。お前達の邪魔をする理由は幾つかある。
一つ、仕事だから。あんたらこの街に来る前から誘拐と殺人やってるね? 政府からこっちに要請が来たわけよ。
二は目障りだから。外様の組織なんて邪魔なだけだしね。
んでもって、三つ目。いいか、よく聞けよ狂人。これが一番大事な事だ。耳の穴かっぽじってよく聞けよ。
いいかあ、俺は――――ロリコンだ」
(…………)
「…………」
なんか最低な告白をされましたけど――そう思ったミナはきっと悪くない。
だが、そんな理由で信者たちと儀式を壊された男の胸中は如何なものだったろう。
「同じロリコンとして貴様らの神は許せんよなあ。≪Yesロリータ!Noタッチ!≫という紳士の誓いも守れないのか。
それを誘拐! 強要!! あまつさえ物理的な危害を加える!!?
そんな神(ロリコン失格)はいらんし、そんなの崇める信者もいらんよなあ!!!」
淡々としかし内に秘める情熱を露わに、外道ロリコン神への怒りを告げる。
「ロリは愛でるものだ。そうだろう?」
なっ? と何故かミナに向けていい笑顔で言い放つ青年。
無駄にきらりと白い歯を見せつけてくる。
(まさか……)
これはあれか、私がロリだから助けにきましたとか言いたいのかこのロリコンは。
「然りっ!!」
(うるせえ! てか心読まれてる?!)
「ロリの事なら一から十まで十全にな!」
ツッコミたいという衝動がミナの中で迸る。
しかしそれ以上に耐えがたい衝動に駆られていたのは、当然だが途中置いてきぼりにされた狂信者の方だ。
「フ――――」
「麩? それとも譜?」
「負かもしれんのお。負けを認める的な」
「風かもしれないよ。信仰対象にあやかって」
「「「Hahaha!!」」」
よく見るアメリカンなドラマにある表現である。
「フゥ――――ザァケルナアアアアアアア!!!!」
(ですよねー)
狂信者、本日二度目の発狂である。
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