キズモノ青春クライシス

めしづかねぎし

第1話 クラスのあいつはヤバい奴!?


「お前のことが嫌いだ! 付き合って下さい!! 」


放課後、私はクラスメイトの有明に屋上へ呼び出された。

開口一番、彼はそう言った。

それは短いながらもそれなりに培われた、私の考え方や、物の観方やらを、見事にぶちのめしたのだ。


世界は変えられる。


そう、ゲスの手によって。


それこそが大青春計画。

私は、その壮大な計画の一端として組み込まれていく……。




                          ☆☆☆



 その日の朝学校に来ると、下駄箱の中に手紙があったの。そこには『今日の放課後に屋上に来てくれ。大事な話がある。有明サツキ』って書かれていて。

 ……これは告白かしら。

 しかしながら、有明サツキ、といわれて、正直ピンとくるものがない。

 クラスメイトにいたような気もするが、如何せん、影が薄くてはっきりとは思い出せない。



自分で言うのもなんだけど、私、仲川天音はクラスの中心人物。

先生からの信頼も厚い、かどうかは定かではないけど、クラスではそこそこ人気者。

クラス内外問わず、複数の男子生徒に告白されたことがある。


まぁ全員振ったわけだけど。



 別にどこが気にくわないとかそういうのじゃない。ただ心から人を好きになる。その気持ち自体がよく分からない。


 結局人間自分が一番可愛いの。自分以上に大切な他人なんて、私にはいない。


それでも仲がいい友達はいるし、周りからのウケもそれなりにいい訳だから、何も困ることなんてない。それが私の処世術。何か悪いことでも、ある?


 放課後。

手紙通りに屋上に行った。


 そこにいたのは一人の男子生徒。クラスで見たことがある気がする。 つまりこの人が有明サツキね。


なんとも平凡な顔立ちで、特記すべきところは皆無。教室でも影が薄くて、発言はほとんどしない。友達が全くいないということはないだろうけど、間違ってもクラスの中心人物ではないから、話したことは一切ない。

 どうしてこの人が告白を? とは思わない。


 前にも何度か全く話したことのない男子生徒に告白されたことはある。


「教室でずっと天音さんを見てて、それで! す、好きになりました! すみません!! 」

 なぁんて言って告白してきたり。


 ずっと見ててってストーカーじゃん。すみませんと思うならはいつくばって地面にでも頭埋もれさせて窒息死してろよデブ、と思った記憶がある。


 謝るくらいなら告白してくんな。としか言いようがない。




 大体みんな言うことは同じだけど、人によって違うところはある。


 その些細な違いを内心で嘲笑うのがちょっと楽しくなってきてしまっている。


 よくないとは思いつつも罪悪感がないのだから仕方がない。


 私に告白してきたのが運の尽きだったとしか言いようがないわね。





 さて、この有明サツキ君は一体なんて言ってくるのやら……。





そう、思っていた矢先に、


「お前のことが嫌いだ! 付き合って下さい!! 」


……聞き間違い、もしくは告白する相手を間違えた、はたまた斬新な新しいスタイルの告白方法……?


「えっと、有明、君。だよね? 今日は何で私を呼び出「俺は変態だ。おそらく、そうなんだろう。そうじゃなければお前みたいなブスに告白なんてしないはずだから」

…………っ!

 今、ブスって。

 ブスって言った? もしかしてだけど。

 いやぁ、そんな、気のせい、だよ、ね?


「俺の名前は有明サツキ。クラスの中心にいて私カワイイ! とか思っちゃってるアバズレ女には認知されてない存在であることは重々承知している。俺みたいな教室の隅でヒマワリの種を齧ってそうな根暗男はお前らみたいなカワイイと世間一般で言われている糞女と妄想でセックスしてオナるのがお似合いの残念な立ち位置がお似合いだと思われているかもしれないわけだが、そんな俺があえてお前に告白、をしにきてやったぞ」


弾丸のように繰り出される言葉。

 コイツは、何を言っているの?

 かろうじて内容は聞き取れたけれど、意味が理解できない。こんなこと、初めてだ。

 相手とは同じ言語を使用しているはずなのに、絶対的な壁を感じる。


「まぁ落ち着け。いきなり自己紹介をされて戸惑っているかもしれないが、今から俺はお前に告白することになった経緯を説明しようと思う。こんなことを言うと無理矢理人に強制されて嫌々お前に告白すると思われてしまうかもしれないから予め言っておくが俺がここにいるのは他の誰でもない、まさに俺自身の揺るぎない意志によるものであることを念頭に置いてほしい」


私が反応しなくても、目の前の男は勝手に話を進めていく。

 そもそも話を聞く気がないようだ。


「実は俺には好きな子がいるんだ。己惚れるな! お前じゃない!!」

 と、いきなり声を荒げた。

 まだ何も言ってないよ……。いや、本当に。何だこいつ。


「俺が好きな子、それはズバリ、山田湯女さんだ。俺は湯女さんが大好きだ。教室の片隅からじっとずっと見ていた。何度見てもカワイイ。世界を超越するレベルでかわいいと思う」


山田湯女、とはクラスメイトだ。

 しかし彼女もあまり目立つ存在ではなく、話したことは……それなりだ。

 顔は言っちゃ悪いが中の中か下。

 こんなこと言うとナルシストかと思われるかもしれないけど、あくまで客観的にみて、私には遠く及ばない。私は美容のために努力しているが、彼女にはそれが見られない。

 磨いたところでそんなに変わる顔ではなさそうだが、だからといって磨かない理由にはならないだろう。素朴な顔立ちで、見るからに田舎娘、といった感じ。化粧っ気はなく、眉も太い。手入れされていない肌質だ。トリートメントとかもつけていなさそう。横を通っても、JK特有のふわっと香る女子の香りが全くしないのだ。美容室行けよ、って思う。


「……えっと、じゃあ告白する相手を間違えてるんじ「黙れブス。お前は黙って話を聞いていればいい」


「………………」


「俺は湯女さんが好きだ! だが、天音。お前は俺の大好きな湯女さんを虐めているだろう」


「はっ!? な、なんのこと!」


「ほら、声を荒げた。図星ってことだろ」


「違うわよ! 勝手なコト言わないで!」


「何が違うんだ。俺はこの目で見たんだ。放課後、お前と愉快な糞女の仲間たちが湯女さんにカツアゲしていたところをな。確か『今日こそは持ってきてくれたよね?湯女。三千円だよ? それくらいあるっしょ?』そんなことをお前は言っていた。涙目になって震える湯女さんの肩を掴んで、激しく揺らしていたな。『払えないならどうなるかわかってんの?』などと言って近くの机の脚を蹴り飛ばした」


「………っ」

思わず、目を反らす。

 あれは、仕方がないことだったのだ。

 周りの友達が祭りたて挙げて、調子に乗って……。

 気づけば後には戻れなくなっていた。

 でも、誰にもバレないようにやってたのに……。なんでこんな奴なんかに……!

 ……いや、臆することはない。

 こいつはクラス内ヒエラルキーの中でも底辺。今のところ私は最上位に位置する。

 底辺の言うことなんて、一体誰が信じるっていうの?

 皆も先生も、信頼の厚い私の方を信じるに決まっている。強気で行こう……!


「………はっ! だから、何? たとえそれが本当だとしてもあんたに告発する勇気があるの? 大体好きな人がイジメられてるのに助けもせずずっと見てたってことでしょ? アンタ。なっさけないわね。そんな奴に脅されたところで私が屈すると思ってんの?」

挑発的に言う。


 しかし、相手は怯まなかった。

 どころか、何故かきょとんとした顔になって。


「えっ? 好きな子がイジメられてんだよ? 半泣きなんだよ? 見るしかないじゃん」


「……えっ」


「好きな子がイジメられてる姿って……なんつーか興奮すんじゃん? ガン見ですよモロ見ですよシコりますよ」


 えっ、やだ……こいつ本当にキモイ。

 えっ、こわいこわいこわい。

 やばいやばいやばい。

 やばいってこいつ。

 完全に犯罪者予備軍だよ。


「………な、なな何が目的、なのよ!」


「だから告白っつってんだろ!」


「湯女にはもう手ださないから! 二人でお幸せになればいいと思うよ!!」


 急いで背を向けて、逃げようとするも、腕を掴まれた。ぎゃあああああ!


「ちっげーーよ! 俺が告白してんのはお前なの」

 やだよーー! どういうことなの!

 こわいってこの人。こわいって!!

もはや軽く私が涙目になりかけている。

 いやいや、気をしっかり持て! 私!!

 こんな男なんかに屈するな!!


「お願いします。手を放してください」


「俺の話を聞いてくれたらする」


「聞くから! 聞くから話して!」


「……分かった」


 離してくれた。


 足が震えて、逃げるに逃げられない。

 掴まれた腕一体に鳥肌ブツブツ。


「俺さ。昔から嫌いな人間が多かったんだよね。結構ちょっとしたことで人を嫌いになっちゃうんだ。なんかお前もそういう人間っぽい気がするけど」


「え……」


 図星、だった。

 人のいいところよりも悪いところの方が見えてしまう。いや、人のいいところを見ようとしないだけなのかもしれない。だから、簡単に人を嫌いになる。

 だから私は気にしないことにした。

 嫌いな人間は嫌いなまま。表面は通常通りに友好関係を保つ。


「嫌いな人間が多すぎて、嫌だったんだ。何とかしようと思って、あえて嫌いな人間の近くにいることにしてみた。そしたらそいつのことが好きになった、りすることはなかった。むしろどんどん嫌いになっていった。でもそこで不思議な気持ちがわいてきたんだ」


「不思議な気持ち……?」


「一言でいえば、興奮だ」


 たすけて!


 全く理解できない!

 マジカルバナナで何があっても連想できない言葉が突然降ってわいてきちゃったよ!?


「相手は俺のこと嫌いじゃない。あたりまえだ。自分のご機嫌とってくれて、何でも言うこと聞いてくれる人間だからだ。太鼓持ちっつーか、取り巻きとか手下みたいなもんだ。だから俺のことはおそらく好いていただろう。見下しながら、使い勝手のいい道具と思いながら、気分を良くしていたのだろう。でも俺は嫌いだ。まさか相手は俺が自分のことを嫌いだなんて思ってもみないだろう。そう思うと興奮した」


 ワカラナイ。


 理解、できない。

 どうしてそこで興奮するの。

 興奮病なの。

 なんだって興奮できちゃうんじゃないのコイツ。


「そしていつの間にか逆転現象が起こってしまった。俺はその興奮を得るために、あえて嫌いな人間のそばにいることを好むようになっていったのだ。俺は! 世界で一番嫌いな人間の一番近くにいたい!!!」


 唖然とするしかなかった。

 そんな大声で恐ろしいことを発さないで……。


「そこでお前だ! 仲川天音!! 今のところ俺は大好きな湯女さんを虐める筆頭格のお前がこの世界で一番大嫌いだ。だから」


 そこで相手は言葉を切って、真っ直ぐに私を見た。


 その瞳はどこまでも真摯、真剣そのものであった。


「俺と付き合って下さい!!! お願いしますっ!」


 何、だと……

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