見習いキューピットの矢も借りたい!
ゆでん
第1話 見習いでもなんでもいいから
毎朝7:15分に起き、片道30分程度の高校に通い、授業を受けたり、仲の良い友人と喋り倒し、週3の写真部で後輩が撮ってきた写真を編集したり、帰りは本屋やゲームセンター、カラオケなどに寄り道をして帰る、普通の男子高校生である。
なので、当然最近(というか高校に入ってからほぼずっと)「彼女が欲しい」を連呼している。
因みに京次は17歳。つまり高2である。
京次は、生まれてこのかた、恋愛経験というのは、友人が勧めてきたゲームでしか無い。
昨今では、街に出ればカップルであふれ返り、電車の中ではお互いの頭を寄せ合いながら、スースーと寝息を立てたり、路地裏に入ってしまえば、それはもういかがわしい、こんなところには書けないようなことをしている。
噂に聞けば、中学生で彼女が居る人間はクラスに一人は居り、高校になると、クラスの三分の一は彼女持ち。果ては、小学生で彼女をゲットしている輩も居るそうだ。
羨ましい限りである。
そんなわけで、京次のクラスにも毎日のように彼女の自慢話ばかりしてくるやつが大勢居る。ウザイ。
そのため京次は彼女を欲している訳なのである。
「よーするに自分も自慢したいんだろ。」
「ああ、違いねぇ。」
目の前の平均的な男児と、平均からは、少しふくよかな男児が首を縦に振っている。
今は昼休みが始まり、各々が、コンビ二で買ってきた弁当やらパンやらをいくつかの友人グループで分かれて談笑しながら食べている。
「違う!お前らは『彼女』という存在を甘く見すぎている!」
すると、その三人グループで形成されている内の一人である男児が勢いよく立ち上がる。
「今や『彼女』は一つのアピールポイントのようなものなんだ!『彼女がいる』というフレーズだけで、『こいつは出来るやつなんだ・・・』と、思わせることが出来る!『女性に気を使うことが出来るやつなんだ・・・』と思わせることが出来る!そう思われたくないのかお前らは!」
「「ねぇな。」」
二人が即答する。
「大体、『女性に気を使うことが出来る野郎』ってキャリアが必要になんのなんてホストぐれーだろ?なぁシン。」
「ああ、つか京次、彼女欲しいだけなんだろ?だったら今時ネットで出会い系サイトでも調べりゃ、お前の女の子バージョンみたいなのって、幾らでも出てくるって。」
京次は、「なんもわかってない!」と言い放つと、教室を飛び出した。
●
しばらく校舎内を歩きまわるが、結局中庭のベンチに行き着く。
京次の通っている学校は最近出来た割には珍しく、校則やらが嫌にお堅い学校であった。校長の「父兄との関わり合いを出来るだけ持つ」なんてものがあるせいで、弁当を作らなければいけないのだが、皆はほぼビニ弁である。いや、それはどうでも良い。問題は、学食が無いことだった。そのほかにも、「勉学に支障をきたすために、携帯電話等の持ち込みは一切禁止」だし、勿論屋上は使えないし、都会にあるせいで、グラウンドは狭い。そのため、中学生の頃から憧れていた、屋上で弁当や、放課後のクラスで皆でゲーム、などは出来ない。
京次のこの学校の憩いの場は、友人と話す教室か、この中庭兼グラウンドのベンチくらいだった。
元々この学校に入るとなったのも、自分が入れそうなラインの学校ということと、友人のシンとハルが受験するからという理由だけだった。
因みに、シンは
感傷に耽っていると、遠くでドッジボールをしていたグループに目が留まる。
3人ずつに分かれてプレーしている中に、この学校の制服を見事に着こなし、無邪気に笑う顔が見える。
「
京次の口から発せられた名前は、容姿端麗、性格も見事に男子の人気を得ている。ちなみに、高2女子で最も可愛いランキングの、堂々一位をものにしている。勿論京次も一目惚れの勢いであった。
「ノノコ~先生が呼んでるよ~」
二階の窓から女子が手を振る
望々子は「はーい」と返事をして教室に戻っていく。
その光景を、京次は口を半開きにした状態で見ていた。
(あそこまで可愛くなくてもいいからなぁ・・・)
京次は落胆し、視線を落とす。
あれだけ言っておいて若干諦めムードの京次は、そのまま元気の無い足取りで教室へと向かう。
●
結局あれからは授業を受け、部活の活動日でも無かったのでそのまま帰った。
今日の、特に昼休み後からは一段とテンションが低く、寄り道する気にもなれなかったので、直行ルートで家に向かい、今は自分の部屋のベッドの上で仰向け状態である。
(恋のキューピットが居ればいいのになぁ)
起き上がる。
自分でも馬鹿らしいが、もはや神頼みの域である。
「もし、キューピットが居るなら、俺んとこにきてくれ・・・」
ボソっと呟くが、瞬時にため息をついてそのままベッドに倒れこむ。
そもそも、神サマなんてこの世にはいねぇし、もし居たとしても、俺のことなんか見てくれやしねぇよと、自分で勝手に卑屈になる。
その瞬間である。
「見習いでも構わんか?」
「へ?」
京次の腹の上に、2,3等身大の身体に羽を生やし、頭に輪かをあつらえた天使っぽいものが現れた。
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