第4話 ソラの日記 一月一日
新年あけましておめでとうございます。と、正座をしたとうやが言った。
いつものようにわたしがおはようと言って通りすぎようとすると、とうやはちゃんと向き合って同じようにするんだと命令した。なんてえらそうな執事なんだろう。
でもそのときわたしはお腹が空いていたし、こんなことでとうへんぼくのとうやにへそを曲げられるのもめんどうだから、とうやの前に指先をそろえてすわって、同じあいさつをかえした。
そうすると、とうやにしてはめずらしく、わたしののどをなでて、よくできました、とほめた。たんじゅんな人間だ。
とうやがめずらしくテレビをつけると、映っている人間もみんなおめでとうございますと言っていた。どうやら日本中の人間が今日はこんな感じらしい。カレンダーが新しくなっただけでわたしの生活には何の変化もないのだけど。
リビングのソファに横たわると、とうやといっしょにテレビをながめる。好きな動画を見るのとちがって、テレビはぼんやりとしたないようなのであまり好きじゃない。だいたい人間があつまって何かのわだいでざつだんしているだけだ。
わたしはインパラを狩るライオンたちとか、ゾウアザラシのオス同士のなわばりあらそいとか、はくりょくのある動画が好きだ。そういうのばかりを流しているチャンネルもあるらしいけど、だからといってわたしがテレビばかり見るとも思えないので見られるようにして欲しいと言ったことはない。
つめとぎやおもちゃで遊ぶことや、なんといっても昼寝が一番重要だ。こればかりはゆずれない。
そんなわけでソファでうとうとしているとピンとなにかがひらめいた。音かにおいかわからないけど、これは、はるきの気配だ。そう思ってげんかんまで跳ねていくと、ちょうどガチャリとロックが外れる音がした。
ハッピーニューイヤー!
少しお酒のにおいのするはるきは、とてもきげんが良かった。ちゃんと出むかえに行ったわたしをほめて、にもつをおろすのもそこそこにハグしてくれる。
なんだ春来。こんな早く帰ってくるならメッセージの一つも入れろ。
とうやがおせちがどうの、宅配がどうのとはるきにあれこれ言っていたけど、そのあいだじゅう、はるきはわたしを抱え込んでにおいをかぐみたいに顔をおしつけていた。
あー、やっぱソラのにおいをかぐとウチに帰ってきたって気がする。
そんなことをつぶやいてはるきはわたしを床におろすと、皮のブーツを脱ぎながらおみやげの中ですぐに食べた方がいいもの、冷蔵庫に入れた方がいいものなど、とうやに説明する。
それからこれはソラにおみやげ。
そう言うと、ジャケットのポケットからストラップ付きの猫のお守りを出してくる。お守りは猫のかおのかたちをしていて、ビニールで保護されているのでよごれても大丈夫。そこに小さな鈴がついていた。はるきはさっそくお守りをチョーカーにつけてくれた。
チリンチリンとかすかな音がしてわたしは一目でこれが気に入った。なんでも電車で「ままさんぐほうじ」というお寺まで行ってきたのだそうだ。やっぱりわたしは、はるきが大好き!
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