博士と姫の50日間

うーま

第1話 増田との話

ピッ ピッ ピッ ピッ




「あの~、博士」




ピッ ピッ ピッ ピッ




「博士、話聞いてます~?」




ピッ ピッ ピッ ピピッ ピッ


やはり──この地点に何かがある。


「博士!!!」


「……なんだ、まだ用があるのか?」


「なんだ、じゃないですよ!やっぱり話聞いてないじゃないですか!」


「聞いている」


「……聞いてるのなら、せめてこっち向いてもらえませんかねぇ……」


「もう答えたはずだ。そこに置いてある紙以外に渡すものはない」


「……あのですね、博士」


空間に異常……?時空が歪んでいるのか……?


「相下あいした衛門えもん博士、あなたの才能は確かに素晴らしいものです。世界の数歩先を行く数学問題の解明、常人では決して思いつくことはない発想。あなたは紛れもない天才です。しかし……」


エネルギー密度が極端に高い……しかも不安定だ。このままにしておくのは危険すぎる。


「あなたから定期的に貰う殴り書きの紙束ですけどね、非っ常~~~に分かりづらいんですよ!字も汚いし!論理も飛躍しすぎてて訳が分からない!せめて!せめて論文形式でまとめて頂きたいのです!」


「当然だ。お前達が一日二日で理解できるはずがないだろう。楽をするな。隅から隅まで読み込め。論文は書かん」


「こちらは多額の研究資金と機材の提供をしているのです!いつだって契約を解除することはできるんですからね!」


「知らん。そいつが欲しい企業は五万とある。いつでも解除してくれて構わん」


「ぐっ……しかしですねぇ……」


理由はなんだ……”隣世界”の影響か?しかしこれほどの影響となると──


「と、とにかく!博士が論文を作ってくれればそれだけで世界の技術が一つ進歩するのです!こんな、何を使っているかも分からない私利私欲のための装置ばかり作っている場合ではないんですよ!博士はその才能を世界に還元する義務があるのです!」


戦争……あるいは隕石か?──いずれにせよ、こちらの世界にも大きな影響がある可能性が高い。最悪の場合……


「世界が……滅びる」


「そう!世界が──え?」


「なんだ、お前まだいたのか?」


「いや、普通に会話の途中だったはずなんですが……」


「とにかく今日は帰れ。帰ってそれを読め。じっくり考えろ。前に渡したのも全て見直せ。1つでも理解できていないならその先は読めん。以上だ、帰れ」


とにかく、現場に行ってみなければ原因は分からない。これだけ時空が不安定ならば、隣世界への侵入は容易だろう。


「……分かりました。今日のところは帰ります……はぁ……。──ちなみに博士、私の名前、ご存じですか?」


「知らん」


「ですよねー……増田といいます。このやりとりもう4回目なんですけどね……あ、あと博士」





「髪、お切りになったほうがいいですよ」

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