青天、机に君も居眠る

yura

第1話 隣のひたすら眠い生徒

眠い…


左隣の席の山背やましろくんは、そう呻きつつ机に腕を伸ばして突っ伏した。


2時限目の休み時間。うちは近くの進学校とは違って、一時限50分授業だから(他の高校の1時間授業などを聞くと、度々ここで良かった、と思うことがある)、まだ2時限目だとお昼休みにも遠い。というか本日の授業はまだ始まったばかりだ。まだ昼まで2時間ある。


私はいつもの彼に苦笑しつつも、やましろくん、と声を掛けていつものように怠けきった会話をし始める。


山背くんは突っ伏したまま「うー」と返事をした。その投げ出された黒髪が窓から差し込む光を受けてまるでシャンプーのコマーシャルにでも使えそうだった。まあ彼のやる気からしてまず実際のCM出演は無理だろうが。


彼はなんと窓側の席の一番後ろ…ではなく後ろから二番目。でもなんて特等席!どうして神様は彼のようななまけ全開の男子学生にその席を譲ったのだろう。彼、くじ運強いのかな。私もまあ、この彼の隣という割といい窓際の席になって良かった。


この席になって初めて彼と会話を交わしたのだが、思った以上に波長が合った。窓際だったことに加え、彼と隣になれたことでこの席は私にとって最高の席となったのだった。


その時に交わした最初の言葉は、なんとなく目が合って私がよろしくね、と言ったありふれた挨拶。

それに彼は「んー眠いね…」と答えた。…答えた?、のかよく分からないけれどとりあえず会話は成立したのだとなんとなく思った。


思えば彼はあの時から眠かったのか。なにはともあれ、その一言で私の初対面の人に対する緊張はすっかり解れ、(なぜあれで解れたのか些か疑問だけども)私は彼と会話をすることが、日常でのひそかな楽しみの一つとなっていたのだった。

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