第72話 大海さん修行編
大海は自分の体力が乏しいことを重々承知していた。
だからこそ、『力をほとんど使わず相手を制する武術』である真田流は自分にピッタリであると感じた。実際、ひとを投げ飛ばすというのはハードルが高かったけれど、ユズハ師匠の熱心で親身な指導のおかげで何とか形になってきた。
ユズハ「今日は、大海ちゃんと孝一君で組手をします。」
孝一の袖をつかむ。
大海は心臓がバクバク高鳴るのを感じた。
男の人の体はなんだがゴツゴツしているな・・・怖い気持ちと孝一と密着しているという気恥ずかしさが大海の中をグルグル回ってパンクしそうだった。
孝一(大海・・・腰が引けてるな・・・)
ユズハ「・・・そこまで、休憩にしましょう」
組手は中断となった。
大海(・・・くっ・・・予想以上になんだか恥ずかしい。・・・特に孝一君の襟をつかむと胸がはだけて肌が見えそうになるのが・・・目に毒・・・)
孝一が休憩中に食べたお皿を洗っている最中、ユズハは大海にこっそり耳打ちした。
ユズハ「大海ちゃん・・・道場内恋愛禁止って言ったでしょ・・・」
大海「・・・え・・・あああああの・・・私・・・」
大海の顔から湯気が出る。
ユズハ「・・・私と孝一くんは真剣に武術に取り組んでいるわ・・・」
大海はその言葉の意味を理解した。
しゅんとしてユズハ師匠に対してこうべを垂れる。
大海「・・・ごめんなさい。」
ポンと頭に手を置く。
ユズハ「・・・いいえ、あなただったら わかってくれるはずよ。きっとあなたは優秀な弟子になる・・・そう予測してるわ。」
自宅でベットに仰向けになりながら考える。
私は・・・強くなりたい・・・ユズハ師匠の期待に答えたい・・・
大海は立ち上がって、大きな抱き枕を人間に見立てて組手を模擬してみる。
大海(これを孝一君だと思って・・・えい)
思い切り抱き枕を投げ飛ばす。何度も投げ飛ばす。よし、大丈夫だ。
大海「・・・」
大海は最後に抱き枕にぎゅっと抱き付いて顔をうずめてみた。顔が熱くなるのを感じた。
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真田道場の稽古前、
大海は買って来たTシャツを孝一に渡す。
大海「道着の中にTシャツを着て欲しい・・・」
孝一「別にTシャツなくても大丈夫だけど・・・」
大海「・・・私が困るから・・・だよ」
孝一(なんで?)
そのTシャツには『煩悩滅却』と書かれていた・・・
孝一(なんだこれ・・・)
ユズハ「今日も、大海ちゃんと孝一君で組手をします。」
大海の眼は真剣そのものだった。
孝一(今日は・・・腰が引けてないな・・・)
大海「えい」
すぱんと綺麗に大海の投げ技が決まる。孝一は何が起きたかわからないという感じだった。
ユズハ(ここ数日・・・大海ちゃんの成長が著しいわ・・・やはり才能の塊のような子ね・・私の目に狂いはなかった・・・)
大海「ユズハ師匠・・・やりました。」
ユズハ「大海ちゃん素晴らしいわ」
ユズハと大海は抱き合う・・・三角座りでガチ凹みする孝一から目を反らしつつ
ユズハ師匠は孝一の肩に手を置いて憐れむような眼でつぶやく。
ユズハ「・・・私と大海ちゃんは真剣に武術に取り組んでいるのだけど・・・」
孝一「俺も真剣にやってるよ」
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