第71話 大海さん、孝一に話しかけるまで その2




びっくりした・・・あの女の人は誰なんだろう・・・



なんだか少し嫌な気分になった。

まさか嫉妬だろうか・・・




悠馬君のことでクラスのみんなが怒ったのはこんな気持ちになるからだろうか・・・




胸が苦しい・・・





今日は大雨だった。

気温もぐっと下がって肌寒かった。



下駄箱から傘をさして帰るところで水上君の姿が見えた。

雨に打たれてもなんともないように壁を殴り続けている。



水上君は・・・すごいな・・・雨なんてもろともしない・・・

私もあんなふうに強くなれたら・・・


大海さんは孝一に傘を貸そうか迷ったが、そのまま帰ることにした。




やはりこれは・・・『恋』だろうか・・・


異性が気になる思春期特有の・・・


水上君を見ると・・・ドキドキする・・・かっこいいとかではなく・・・

『この人社会的に大丈夫だろうか』というドキドキかもしれないけれど・・・






その頃、孝一は・・


大和先生「・・・水上・・・お前・・・今日ぐらいは『それ』やめとけよ・・・ほら、雨降ってるし・・・」


孝一「先生。今めっちゃいいところなんです。・・・何か掴めそうなんです。」


大和先生「・・・ああ、そう・・・風邪、ひくなよ・・・」


(・・・いや、そもそも学校の壁殴る行為ってどうなの?って指導したいけど・・・潮見先生を紹介したり、こっちが焚きつけた部分もあって言いづらい・・・)







【3回目カッターナイフ女子から助けてもらった後】



大海(・・・もういいや、恥も外聞もすべて投げ捨てよう。)

恋とか惚れたとか関係ない。

このままお礼を言わないのは人として駄目なんだ。





ただお礼を言う・・・それで終わり・・・

明日からは他人としての生活が始まる・・・ただそれだけ・・・






孝一「あの良かったらなんだけど・・・俺は真田流って武術を習ってて・・・門下生が少ないから勧誘しろって言われて」


大海「・・・」


大海は嬉しい気持ちがどんどん湧いてくるのを感じた。

大海「・・・わかった。行く」



孝一「だよな・・・いきなり そんなこと言われても困るよな・・・」

孝一(ん・・・今なんて言った?)



孝一はあまりの二つ返事に困惑した。

孝一「・・・あの・・・もう少し悩んだ方がいいんじゃ・・・」



大海「・・・大丈夫」

大海の大きな瞳が孝一をじっと見つめる。


孝一(・・・なんなんだこの子)






その日家に帰ると

「・・・お帰り」

「ただいま・・・お母さん」



大海は母に抱き付く。

「・・・どうしたの?灯り・・・」

「お母さん・・・お願いがあるの・・・私・・・道場に通いたい。」


母は優しい眼で娘を撫でる。

「今日は・・・何か『いいこと』があったのね」



「うん、すごく『いいこと』があったんだ。」

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