第17話 vs熊さん
彼はしゃべって、真田流を使う熊だった・・・
体長2mを超える大きなヒグマがのっそりと歩いていた。
この町中で起こるはずのない現象に人々は自分の目を疑い声をかけることはなかった。
熊は地図を取り出しながら首をかしげる。熊は少しためらったが、ちょうど近くにいた少女に申し訳なさそうに話しかけた。
熊「ああ、ちょっとすまねぇ。」
大海「あ、はい」
その少女は大海さんだった。大海さんは話しかけてきた人物に唖然とする。
熊「お嬢ちゃん、真田道場はこの先かい?」
大海「・・・はい?・・・ええ、ここをまっすぐ行ったところが真田道場です。」
熊さん「ありがとよ、これ大根なんだが、もらってくれ」
大海「・・・いいえ、どういたしまして・・・・」
大海(えー・・)
孝一は最近『はたく』の調子が悪かった。
今日も真田道場の壁を眺めながら考える。
この真田道場の壁は・・・たしかにいい壁だ・・・
だが、いつまでもここに居ていいものだろうか・・・
ここで『はたく』の練習をしているとろくなことが起こらない。
ジーパン侍に斬られそうになるわ、女子高生に斬られそうになるわ
孝一(よし、もうここに来るのは止めよう。そうと決まればここを一刻も早く離れよう・・・)
熊「うーす、邪魔するぜ。」
孝一「!?」
孝一(・・・熊・・)
熊「そこの少年、ユズハちゃんはいないのか?」
孝一「・・・さー、俺は通りすがりの壁マニアなので、ここの住人のことはさっぱり・・・」
孝一はじりじり後ずさってこの場所から離れようと試みた。
熊「・・・その動き、真田流だな・・・」
孝一「・・・は、動きでわかるの?」
熊「・・・まあ、カマをかけただけだったんだが・・・」
熊は孝一をじろじろ見つめてにやりと笑った。
熊「・・・ふふん面白い。ユズハちゃんの弟子がどれほどのものか。俺が相手してやろうじゃないか。」
孝一(今度は熊かよ・・・)
真田流は畑に出た熊を撃退するための武術・・・真田流の熟練度を見るにはこれ以上にない相手・・・
熊は雄たけびをあげ、4本足で一気に距離を詰め、腕を振り上げて振り下ろした。
孝一(速っ・・・食らったら死んでしまう。)
孝一は間一髪避けて投げる動作に入った。しかし、ひらりとかわされ、逆に放り投げられた。
孝一(真田流の投げにそっくりだ。)
追撃をかわして距離をとる。
『熊の方も真田流の動きを踏襲して強くなっていったのよ・・・』
孝一(あれ、本当のことだったのか、・・熊なのに)
熊「はー、期待外れだな、まだまだ素人くさい動きだ。」
孝一は攻めあぐねていた。
孝一(・・・じゃあ『はたく』でなんとかしよう。あれは壁・・・あれは壁)
熊(・・・急に動きが・・・)
孝一が一気に距離を詰めた。熊は後ろに飛んで距離を取った。
熊(俺の野生のカンが言っている。これはヤバい・・・)
孝一「・・・・・」
コンビニ強盗も・・・サムライオヤジも・・・女子高生も・・・俺は一度も真田流で勝っていない・・・
$$$
熊「ふ・・・まだまだだな・・・」
孝一は何度も投げをくらってボロボロにされたのだった。
孝一「ちくしょう・・・」
道場の中で熊と正座で向かい合って話す。
熊「ユズハちゃんが道場開いているって聞いてはるばるここまで訪ねてきたわけだが・・・」
熊「なんだユズハちゃんはいないのか・・・」
孝一「ええ、突然、急用ができたからとか言って失踪中ですよ。」
熊は荷物から大根を取り出して孝一に渡した。
熊「ほれ、食え食え」
孝一「どーも(生・・・)」
熊「ここに来る途中、すげえ可愛い女の子がいてよ。あれは将来美人になるぜ。」
孝一「へー(このひと、着ぐるみ着たおっさんじゃないのだろうか)」
熊「そういえば、さっきの戦い。動きが変わったがなんだあれは・・・」
孝一「あれは『はたく』です。真田流じゃありません。真田流としての勝負に使っていいものじゃない。」
熊「ぶ・・・はははははははははは」
孝一「・・・何がおかしいんです?」
熊「真田流には結構攻撃的な技も多いわけだが、一切教わっていないだろ?動きでわかるぜ。」
孝一「え・・・そうなんですか」
熊「ユズハちゃんは常々言っていたよ。『あんな攻撃的な技、時代に合わないから、私の代ですべて消滅させる』って、つまりおめえさんの習った技は、真田流の中のユズハ流ってわけだ。」
孝一(なんですと・・・)
熊「そんなに堅苦しく考えんなよ。それが真田流だって思えばそれが真田流なんだって気持ちでいいと思うぜ。」
孝一(・・・そんな適当な・・・ユズハ師匠らしいけど)
熊「さあ飲め、飲め」
熊は一升瓶を傾けた。
孝一「俺はまだ未成年ですって」
$$$
母「あら、こんないい銀鮭どうしたの?」
孝一「熊さんからもらった。」
母(魚屋の熊さん?)
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