第8話 大海さん
大海さんはいつも壁の近くで危険な目にあっていた。
校舎裏、ひとりの女子が数人の女子に囲まれていた。
背の低い女子は突き飛ばされて壁に追いやられる。
「お前、悠馬君に色目使ってんじゃねーぞ」
「そうよねー」
「マジウザい」
「・・・私は・・・そんなこと・・・していない・・・」
「はー聞こえねーんだよ」
「出たよ、カマトトちゃんがー」
壁にドンと手をついて女子を威嚇する。
囲まれた女子はめそめそと泣き出してしまう。
かすかだが・・・壁からびりっとした振動が走った。
ズン
音はない。再び音のない衝撃が走る。壁全体が生き物のように怒号を上げてうねるような衝撃・・・衝撃が伝播して、
壁に手をついていた女子に伝わる。びっくりして女子は手を退けて後ずさる。
孝一「ふふふ、今日は今までになく調子がいいぞ・・・」
2,3メートル先にジャージ姿で壁を殴る男子が一人・・・
孝一「あ・・・」
全員が孝一の方に向き直る。
孝一「・・・」
女子「あれ・・・学内で噂の・・・」
女子「・・・ねえもう行こ」
囲んでいた女子はわらわらと解散していった。
(私を助けてくれた?)
「・・・ここで・・・何をしてるんですか・・・」
孝一「あー、そう・・・これは『壁ドン』?」
(それ、絶対違うと思う・・・)
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人気のない校舎裏
先日の背の低い女子がひとりの先輩男子に絡まれていた。
逃げる方向に手をドンと付いて逃げ道をふさがれた。
「君・・・可愛いね・・・連絡先教えてよ・・・」
「・・・あの・・・わたし・・・」
孝一「・・・最近調子が悪いな」
2,3メートル先にジャージ姿で壁を殴る男子が一人・・・
孝一「あ・・・」
「ちっ」
先輩男子はしぶしぶ去っていった。
(また、助けてくれた?)
「あ・・・あの・・・」
孝一「・・・これは『壁ドン』だから」
「あの・・・『壁ドン』って・・・二人でするものじゃ・・・」
孝一(そうなの?)
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校舎裏
少女はカッターナイフを持った同学年の女子に追いつめられる。
後ろは壁だった。
「あんたさえ、あんたさえ、いなければ悠馬くんは私を好きになってくれるはずだったんだ」
「・・・お・・・落ち着いて・・・」
ドン
音はない。ただおなかのシンまで響く衝撃が走る。
その発生源は4~5mとなりで壁を殴るジャージの同級生
孝一「・・・・今日は本当に調子がいい・・・今日こそは・・・今日こそは・・・」
「・・・・」
「・・・・」
ジャージの男子学生は完全に自分の世界にトリップしているようだった。
「・・・となりに・・・ひともいることだし・・・」
「・・・もう我慢できない。」
女子はカッターを振り上げる。
(ええ、無視・・・)
「あんたの綺麗な顔をずたずたにしてやるーー」
少女はしりもちをついた。振り下ろしたカッターが攻撃対象を外れて壁に刺さる。
ズン
もう一度壁に衝撃が走る。カッターから振動が伝播して、
「・・・なんだこ・・・」
カッターを振り上げた少女はそのまま気絶してしまうのだった。
ジャージ男子も同時に気絶しているようだった。
2名は保健室に運ばれた。
先生「水上またお前か」
ジャージ男子は先生たちにこっぴどく絞られたようだった。
カッター女子は保健室でしばらく寝かされてケロッとしていた。何をしていたか記憶がないらしい。
事態はよくわからないまま丸く収まった。
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ジャージ男子の名前は『水上孝一』というらしい。
毎日壁を殴ることで気が狂っている扱いされているという
彼は今日も壁をこっそり殴っている。
「・・・あ・・・あの・・・」
孝一「・・・・」
「・・・わたし・・・2年A組の『大海灯り』っていいます。」
孝一「・・・?・・俺は2年D組の水上孝一だけど」
大海「い・・いつも・・助けてくれて・・・あ・・ありがとうございます。」
孝一(・・・助けた・・・助けた?・・・)
孝一「・・・ああ、あのときね。あった、あった。」
大海(・・・覚えてないんだろうな)
孝一「・・・そういえば、『壁ドン』の間違えを指摘してくれて、こちらこそありがとう・・・」
大海(・・・全然釣り合ってない気がする。)
大海「水上君は・・・すごく強いね。・・・わたしもあなたみたいに強くなれたら・・・」
孝一「・・・」
孝一「・・・だったら」
孝一は真田道場への入門を勧めることにした。
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