たのしいしょくじ

十(じゅう)

たのしいしょくじ


 酒場で、俺とアクアは飯を食べていた。

「おお、その料理美味そうだな」

 俺が言うと、アクアはテーブルに置かれた料理を体全体でガードした。

「あげられないっ……! これは私が頼んだ料理なんだから、カズマにはあげられないんだからねっ! 食べたいなら自分で頼みなさいよっ」

「いや別にとらないけどさあ」

 すると、俺が頼んだデザートが出てきた。

「あ、それ美味しそうね、もーらいっ」

 アクアは、俺の目の前に置かれたケーキの皿をひょいっと取ると、さっさとフォークで一口食べてしまった。

「お、おいっ!! 自分の料理をガードしといてそれは許されない行為だろっ! 丸く収まるもんも収まらなくなるじゃないかっ! ケーキもってくんだったら代わりに何かくれよっ」

「えーっ、カズマのケチっ……じゃ、じゃあ……」

 アクアは、絞り終わった後のふにゃふにゃになったレモンの皮を見つめた。

「頼むからお前の視線の先にあるものを俺にくれて寄越すなよ!?」


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 つ、疲れた。

 普通食事はHPが回復するイベントのはずなのだが、どうしてアクアと食事すると逆に疲労感が増すのだろう。

 とりあえずもうちょっとだけ腹に入りそうだし、ONIGIRIでも買って一人寂しく食べようかなあ。

 そんな事を考えながら曲がり角を曲がろうとすると、

「ち、ちこく遅刻っ」

 食パンをくわえた魔法使いが走りながら俺にぶつかってきた。

 トクン……!

 俺が胸の高鳴りを感じると、目の前にはめぐみんが立っていた。

「めぐみん……どうしたの?」

「何となく食パンをくわえながら走ってみようと思っただけでそれ以上の意味はありませんが」

「お、俺の胸の高鳴りを返したまえよっ! ……まあいいや。特に用が無いなら俺はこれで行くぞ。これから一人で重要な特殊任務を遂行しなければならないんでな」 

「ま、待って下さい。もしよかったら食事に行きませんか。魔法新聞のチラシにコース料理の割引券がついていたので」

「うーん、コース料理かあ……正直、今そこまでお腹は減ってないんだよなあ……まあでも一人で特殊任務に行くよりいいかあ」


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「エクスプロームグッ!!」

 俺は、店内で詠唱しようとしためぐみんの口を、必死の形相で抑えた。

「むぐむぐむぐむぐむぐ!(カズマさんっ! どうして私の口をいきなり押えるんですかっ! テーブルマナーがなってません!)」

 俺は小声でめぐみんに問いかける。

「ばかなっ! お前、店内で爆裂魔法詠唱するほうがよっぽどテーブルマナーがなってないわっ! 一体どうして」

 俺が恐る恐るめぐみんから手をはなすと、

「食事が美味しかったからつい詠唱したくなっただけですっ。褒め言葉ですよ」

「何でも褒め言葉で許されるわけじゃないんだよ!?」


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 何とか無事に食事を終えた俺とめぐみんは、本日の爆裂魔法を撃つ場所を探していた。

 と、その時。

「このあたり、ほこりっぽくて鼻がむずがゆいです……。エ、エ、エクッ」

 俺は、くしゃみをしようとしためぐみんの口を、またも必死の形相で抑えた。

「カズマさん、一体どうしたんですかっ!? 私はただくしゃみをしようとしただけですよ!?」

「うん。めぐみんが悪気があってやってるわけじゃないっていうのは分かった。分かったんだけど、今めぐみんがくしゃみをすると、公共交通機関が無い中徒歩で1時間かけてここに来ている意味が失われるのでね」

 俺が言うと、めぐみんは何かに気づいたようだった。

「……私は、知らないうちにカズマさんに負担をかけていたんですね……。ごめんなさい」

「いや、別にもう慣れたけどさ」

「……」

 めぐみんは、無言になった。

 心なしか、頬が薄赤くなっている。

(……あれ、俺、何かのフラグ立てちゃったの!?)


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(乙女心は全く分からん。どうしてとりとめのない会話でいきなりフラグが立つのか)

 俺が宿に戻って来てからそんなことを思っていると、ドアがバゴン、とけたたましく開いた。

「ちょっ……! 部屋に入ってくるときはノックしてよねって言ってるでしょ!」

「カズマ、何でオネエ言葉になってるのよ」

 アクアは呆れながら、床にハムやらお菓子やら食べ物を置いた。

「どうしたんだ、一体」

「どうしたって……そりゃあ、さっきは悪かったなって思ったから、色々買ってきたのよ。さあ早速食べましょう。アンタさっき、めぐみんに付き合って歩き回ってお腹減ってるでしょ?」

 アクアは、まぶしい笑顔で言った。


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 夜、俺は布団の上で横になりながら一日を回想していた。

(いやまったく。一時は苦労でどうなるかと思ったけど、一転して人生捨てたもんじゃないじゃないか。よかったよかった)

 そのまま眠りに落ちようとした時、唐突に気付いた。

 ……ま、待てっ!! 俺今日、勇者らしいこと何一つしてねぇっ! 食って歩いて寝ただけだっ!!

 俺は、自責の念に駆られ悶々としながら、眠りについたのだった。

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たのしいしょくじ 十(じゅう) @lp1e6

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