その後の彼ら。愛の物語。

水無瀬

第1話 詩音の話。

私は、誰を愛しく想っているのだろう。

百奈に比べると引っ込み思案で、友達がいないわけではないけれど、この年になるまで彼氏がいたためしもない。

私が素で喋れる男の子は弟と幼馴染たちくらいで。正直少し眩しすぎて苦手としている弟と、それとよく似た蒼は苦手としていたから、リラックスしていられるのは暁人君と、灯だけだった。

蒼も弟も悪い子ではない。むしろいい子だが、だからこそ息苦しい。正論を振りかざす二人よりも、弱さを認めてくれる二人のほうが私は好きだ。

だからと言ってこれは恋愛感情じゃない、と思う。

これは単に私が男の子を知らなすぎるからだ。

もちろん幼馴染として大切な存在ではあるけれど。

私たちの恋はみんな矢印が一方通行だ。灯と奏は遥に。その灯に向かう矢印に蒼が焦がれ。そして、その蒼にさらに奈津が憧れる。不毛だ。

その矢印が一つでも向かい合っていれば、何かが変わるのに。

私たちはどうなんだろう。百奈はきっとよく世話を焼きに行く従兄妹のお兄さんのことを想っているのだろう。

”愛しい人の作ったもので体が組織されると思うとぞくぞくしない”という、多少気持ちの悪い論をかまして、絶対自分で料理をしない百奈が、必要もないのに、彼のためだけにはせっせと料理を作りに行くんだから。

じゃあ、暁人君はどうなのだろう。そして私は?

彼は私たち幼馴染の中で一番開いている。外の世界をろくに見ずに生きているほかのみんなとは違う。

開いた世界に惚れた人がいるのかもしれない。時々不安で、百奈とともに暁人君の家を訪問する。

暁人君の部屋は、灯の部屋と違って女の子の気配はあるのに、どこにも愛しさがない。それを見て、私はいつもほっとしたりがっかりしたり傷ついたりする。百奈は私と暁人君を昔からやたらにくっつけようとするが、あれはどういう意味なのか。

私が暁人君を好きなのだろうか。それとも、もしかしたら暁人君は私を好きなのだろうか。

どちらも私にとっては同じくらい嘘だ。

仲の良い幼馴染とは厄介なものだ。

あまりに一緒にいた時間が長すぎて、その人以外が隣にいることを想像できないのだから。

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