ハルヒの国から来た娘

沢田和早

第1話 吟行ノートを見せなさいよ!


「へえ、俳句なんかやってるんだ、おまえ」


 いきなり背後から声を掛けられた。

 振り向けば同じクラスの奴。名前は思い出せない。


「そんなもの年寄りの趣味だとばっかり思っていたぜ。高校生でも愛好している奴がいるんだな」


 いきなり失礼な奴だな。松山俳句甲子園を知らないのか。無知にも程があるぞ。


「大きなお世話だ。ほっといてくれ」


 昼食後、体育館の裏の芝生で句を捻るボクの憩いのひと時。

 邪魔をしに来たのなら、とっととどこかへ消えてくれ。


「ちょっと見せてみろよ」


 有無を言わさずボクの吟行ノートを引ったくる。随分図々しいな。

 考えを巡らしてこいつの名前を思い出そうとする。

 入学してまだ一週間だ。すぐには出て来ない。


「ほほー、これはこれは」


 こいつの口元に浮かぶ微笑みは、ボクの作品に感心しているのか馬鹿にしているのか、どちらなんだ。

 たぶん後者だろう。

 そうだ、思い出した、こいつの名前、確か、雅島がとう……


「いい加減に返してくれないか、ガトー君」


 手を伸ばして自分のノートを掴もうとするが、雅島は簡単に渡そうとしない。

 それどころか予想もしない言葉を吐いた。


「面白い! いや、これはびっくりした。おまえにこんな才能があるとはな。ホント人は見掛けで判断できないぜ」

「歯の浮くようなお世辞はやめてくれよ」

「お世辞じゃない。そうだな、言ってみればニンジャスレイヤーの諧謔味の裏に隠された硬質な味わい。それが僅か十七文字の中に凝縮されていると言おうか、そんな感じだ」


 忍者殺しなんて知らないが、どうやら本気で褒めてくれているようだ。

 人に自分の作品を褒められて悪い気がする人間はいないだろう。

 思わず心が躍る。


「そ、そうかな。俳句に興味がある友達なんていないから、ちょっと嬉しいよ」


 雅島はノートを返すと言った。


「この才能は伸びる。いや、伸ばさなければ創作の神の意志に背くことになる。俺はおまえに全面的に協力するよ。十七文字の世界を究めるのだ!」


 たかが素人の俳句を数句見ただけで、よくもこれほど熱くなれるもんだ。

 瞬間湯沸かし器みたいな奴だなと思いながらも、高校生活最初の友人ができたことに、ボクは密かな喜びを感じていた。

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